177 / 291
冒険者ギルドへ帰還です!(6)
しおりを挟む
☆☆☆
お風呂は最高だった。気持ち良過ぎて湯船の中で寝落ちしそうになるくらいに。頭も身体も二度洗いした。つるピカ肌だし自分の髪がいい匂い♡
「女、おまえも風呂だったか」
浴室から廊下へ出たタイミングで、隣りのドアから出てきたユーリと鉢合わせした。女性用と男性用の浴室は並びの構造だ。ユーリも湯上り状態で頬がピンク色に染まっていた。
……そして、彼の横には弟分のエンも居た。
「………………」
エンは無言で私に会釈して、そそくさとその場を後にした。自分の部屋へ戻ったのだろう。それを見送ったユーリが苦笑した。
「なぁ女、アイツのこと、フッた?」
「…………!」
答えに困った。それでどうでもいい返しをしてしまった。
「……私の名前はロックウィーナだよ」
「え? 俺がおまえの名前を呼んでいいのか?」
「?」
ユーリからはよく解らない質問をされた。
「呼べば?」
「いや俺さ……、おまえに多大な迷惑をかけただろう? 気安く名前を呼ばれるのは嫌なんじゃないかと思って」
「へ?」
もしかしてユーリ、気を遣って私を「女」呼びしていたの? その結果として余計に失礼を働いているぞ馬鹿ちんが。
「女と呼ばれる方が嫌だよ。名前が有るんだから名前で呼んでよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
少年時代から戦場に身を置いていたユーリには、一般常識が欠如しているのかもしれない。
「んじゃロックウィーナ、おまえにはエンの様子がおかしい理由が判るか?」
「………………」
「マキアと喧嘩したと聞いたが、エンが避けているのはマキアじゃなくておまえのような気がするんだ。昨日の昼までは、おまえに積極的に近付いてみんなを驚かせたアイツがさ」
しっかり観察されていた。
「……うん、私が原因。でもゴメン、これ以上は聞かないで」
昨夜のことを明かすとエンの立場が悪くなる。せっかくマキアが動いてくれたのが無駄になってしまう。
「今はそっとしておいてくれるかな? 急いで解決しようとすると、かえってエンとの関係がこじれてしまいそうなんだ」
私達には時間が必要だ。
「……そうか」
ユーリが片手で頭を搔いたのでシャンプーの香りが漂った。頭皮がシャキッとする男性に人気のやつだ。エンから借りたんだろう。去ったエンも同じ香りを残していったから……。
「アイツは俺以上に不器用だからな。迷惑をかけて悪いな」
「どうしてユアンが謝るの?」
「何となくだ」
微笑んだユーリからは首領の側近としてのピリピリした空気が消えていた。じっと見つめてしまった私へ彼は不思議そうに尋ねた。
「どうした? ロックウィーナ」
「……早くユーリって名前を呼べるようになるといいね」
「………………」
ユーリは私の洗い髪をくしゃっと撫でると、その手を上げて立ち去った。
エンのことが気になるだろうに、しつこく追及しないでくれた。エンが兄と慕うだけあってユーリも良い人だ。
ふう、と廊下の壁にもたれて一息吐いたところへ、また男性浴室のドアが開いて誰か出てきた。
「あ……!」
マキアだった。顔を見合わせた私達は妙にドギマギした。
「……はは、みんな風呂に集結したみたいだね」
「そうなるよね。旅の間はお風呂のことばっかり考えていたもん」
「男は人数多いからシャワーの争奪が大変だったよ? エリアスさんとアルが肉体美を競ってポージング始めたり、もうゴッチャゴチャ」
「あはは……。まだ誰か入ってるの?」
「いや俺で最後。みんな部屋に戻ったんじゃない?」
「そっか……」
「うん………」
会いたかったのに何故か気まずい。自然に言葉が出てこなくてぎこちない会話となった。マキアと話したいことがいっぱい有ったはずなのに。
互いに少し沈黙した後、マキアがつらそうな顔をした。そして私へ聞いたのだ。
「ロックウィーナ、泣きたいんじゃない……?」
「!…………」
その瞬間、私の両眼から涙が零れて頬を伝った。
自覚は無かった。でもマキアの言葉で自分が泣きたかったんだと思い知った。
エンに襲われて怖かった。そうなってしまったことが悲しかった。それなのに誰にも言えなくて、相談できなくて、無理やり感情を押し込めてしまっていたんだ。
私の頬に引かれた涙の線を、マキアが肩に掛けていた自分のタオルで優しく拭いた。前にも彼に顔を拭かれたことが有ったなぁ。
マキアと二人だけの廊下。私はしばし声を殺して静かに泣いた。そんな私にマキアは黙って付き添ってくれていた。
お風呂は最高だった。気持ち良過ぎて湯船の中で寝落ちしそうになるくらいに。頭も身体も二度洗いした。つるピカ肌だし自分の髪がいい匂い♡
「女、おまえも風呂だったか」
浴室から廊下へ出たタイミングで、隣りのドアから出てきたユーリと鉢合わせした。女性用と男性用の浴室は並びの構造だ。ユーリも湯上り状態で頬がピンク色に染まっていた。
……そして、彼の横には弟分のエンも居た。
「………………」
エンは無言で私に会釈して、そそくさとその場を後にした。自分の部屋へ戻ったのだろう。それを見送ったユーリが苦笑した。
「なぁ女、アイツのこと、フッた?」
「…………!」
答えに困った。それでどうでもいい返しをしてしまった。
「……私の名前はロックウィーナだよ」
「え? 俺がおまえの名前を呼んでいいのか?」
「?」
ユーリからはよく解らない質問をされた。
「呼べば?」
「いや俺さ……、おまえに多大な迷惑をかけただろう? 気安く名前を呼ばれるのは嫌なんじゃないかと思って」
「へ?」
もしかしてユーリ、気を遣って私を「女」呼びしていたの? その結果として余計に失礼を働いているぞ馬鹿ちんが。
「女と呼ばれる方が嫌だよ。名前が有るんだから名前で呼んでよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
少年時代から戦場に身を置いていたユーリには、一般常識が欠如しているのかもしれない。
「んじゃロックウィーナ、おまえにはエンの様子がおかしい理由が判るか?」
「………………」
「マキアと喧嘩したと聞いたが、エンが避けているのはマキアじゃなくておまえのような気がするんだ。昨日の昼までは、おまえに積極的に近付いてみんなを驚かせたアイツがさ」
しっかり観察されていた。
「……うん、私が原因。でもゴメン、これ以上は聞かないで」
昨夜のことを明かすとエンの立場が悪くなる。せっかくマキアが動いてくれたのが無駄になってしまう。
「今はそっとしておいてくれるかな? 急いで解決しようとすると、かえってエンとの関係がこじれてしまいそうなんだ」
私達には時間が必要だ。
「……そうか」
ユーリが片手で頭を搔いたのでシャンプーの香りが漂った。頭皮がシャキッとする男性に人気のやつだ。エンから借りたんだろう。去ったエンも同じ香りを残していったから……。
「アイツは俺以上に不器用だからな。迷惑をかけて悪いな」
「どうしてユアンが謝るの?」
「何となくだ」
微笑んだユーリからは首領の側近としてのピリピリした空気が消えていた。じっと見つめてしまった私へ彼は不思議そうに尋ねた。
「どうした? ロックウィーナ」
「……早くユーリって名前を呼べるようになるといいね」
「………………」
ユーリは私の洗い髪をくしゃっと撫でると、その手を上げて立ち去った。
エンのことが気になるだろうに、しつこく追及しないでくれた。エンが兄と慕うだけあってユーリも良い人だ。
ふう、と廊下の壁にもたれて一息吐いたところへ、また男性浴室のドアが開いて誰か出てきた。
「あ……!」
マキアだった。顔を見合わせた私達は妙にドギマギした。
「……はは、みんな風呂に集結したみたいだね」
「そうなるよね。旅の間はお風呂のことばっかり考えていたもん」
「男は人数多いからシャワーの争奪が大変だったよ? エリアスさんとアルが肉体美を競ってポージング始めたり、もうゴッチャゴチャ」
「あはは……。まだ誰か入ってるの?」
「いや俺で最後。みんな部屋に戻ったんじゃない?」
「そっか……」
「うん………」
会いたかったのに何故か気まずい。自然に言葉が出てこなくてぎこちない会話となった。マキアと話したいことがいっぱい有ったはずなのに。
互いに少し沈黙した後、マキアがつらそうな顔をした。そして私へ聞いたのだ。
「ロックウィーナ、泣きたいんじゃない……?」
「!…………」
その瞬間、私の両眼から涙が零れて頬を伝った。
自覚は無かった。でもマキアの言葉で自分が泣きたかったんだと思い知った。
エンに襲われて怖かった。そうなってしまったことが悲しかった。それなのに誰にも言えなくて、相談できなくて、無理やり感情を押し込めてしまっていたんだ。
私の頬に引かれた涙の線を、マキアが肩に掛けていた自分のタオルで優しく拭いた。前にも彼に顔を拭かれたことが有ったなぁ。
マキアと二人だけの廊下。私はしばし声を殺して静かに泣いた。そんな私にマキアは黙って付き添ってくれていた。
1
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる