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残酷な事実(4)
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エリアスは言葉を失い、隣に座るリリアナが抗議した。
「ちょっと魔王様、冗談が過ぎますよ! 過去が無いのなら、私とウィーお姉様の運命的な出会いも無くなっちゃうじゃないですか!」
「無いんだ。……残念だがな」
完全否定されて、リリアナは大きな瞳を見開いたまま蠟人形のように固まった。
「お待ちなさい、アルクナイト」
まだ冷静さを保っていたキースが発言した。
「過去の世界が無いなんて、どうして言い切れるのです? 人喰い霧のようにその目で見た訳ではないでしょう?」
「……白、おまえも夢で聞いたはずだ。神は私の書いた物語は十日間だけだったと言っていた」
「それは……確かにそんなことを言っていたかもしれません。でも、少女以外にも神は存在するのではないですか?」
「他の神は居ない。この世界ではベラルが唯一神だ」
「賢者と呼ばれたあなただって世界の全てを知っている訳じゃない! 他の神々が関与するかどうかして、世界はずっと継続しているはずです!!」
キースはムキになっていた。それでも丁寧口調を崩さないのは自我を失わない為の対策だろう。
キースの心には性的被害に遭ってきた記憶が深く刻まれている。過去が無くなれば傷付いた事実も無くなるから良かったね、とはならない。人の心はそんな単純に割り切られるものではない。
つらい過去、しかしそれも彼のアイデンティティを形成する一部なのだ。過去を消去することは、必死に耐えて頑張ってきた自分をも消すことになる。
アルクナイトもキースの憤りを肌で感じているのだろう。キースの意見を否定する言葉を使っても、対応する態度は柔らかかった。それが切なかった。
「そもそも何故、神は僕達に設定などを刷り込んだんです?」
キースがアルクナイトへ食い下がった。
「俺達は十日間の物語の登場人物として造られた。身体はデカくても、世界に生み出されたばかりで心は真っ新な状態だった。成人として相応しい記憶と経験を植え付ける必要が有ったんだ」
「物語の登場人物……? 僕達が……。何てこと……!」
キースは血が出そうなほど強く唇を噛み、本音を漏らした。
「だったら何でもっと幸せな記憶にしてくれなかったんだ。僕は……」
「……それについては俺も悪趣味だと思う。神としては、それぞれにインパクトの有る個性を付けて物語を盛り上げようとしたんだろうさ」
「ハハハ……。何だよソレ……ふざけんな」
キースとは違う男の声がした。
「俺は……大物になりたくて故郷の村を幼馴染みと一緒に出たんだ。幼馴染みとは同じ夢を語り合う親友同士で……。でも、騎士になってからアイツは俺を裏切った」
呻くように言葉を紡いだのはルパートだった。
「ずっとずっとソレが心のしこりとして残ってる! 何だよ、これもただの設定だってのかよ!? 設定ごときに俺は今も苦しめられてんのか!?」
「僕だってそうです……。義姉にモンスターが出る草原に置き去りにされて、死ぬほどに怖い目に遭ったんです。それから何年も悪夢にうなされたのに……!」
リリアナが肩を震わせて同調した。
「死か……」
マキアも続いた。
「みんなが変えてくれたけど、俺とエンは神が用意した十日間では死ぬ設定だったんですよね? ロックウィーナを慰めるヒーローを誕生させる、ただその為だけに。俺とエンの命の価値っていったい何だよ……。あんまりだ」
アルクナイトは皆を宥めようとしたが、彼自身も複雑な面持ちだった。
「皆が怒るのは当然だ。俺も事実に気づいた時は愕然とした。だけれど神であるベラルにとってこの世界は自分が書いた小説でしかない。だから容易に重いトラウマを設定として盛り込んだり、人の死を軽く扱ってしまうんだ」
「小説……」
キースが揺れる瞳でアルクナイトへ問うた。
「比喩表現ではなく、本当にこの世界は小説なんですか?」
残酷な事実をアルクナイトが肯定した。
「……そうだ。俺達は全員が小説の登場人物だ。ロックウィーナを主人公とした恋愛小説のな」
「!?」
会議室に居た全員の視線が私へ突き刺さった。
「お姉様を……?」
「だから……毎回ウィーの結婚式がエンディングになっていたのか?」
「そんな……そんなことって……」
皆がショックを受けて会議室内がザワつく中、伏し目になってただ座る私をエリアスが不思議がった。
「ロックウィーナ? ……あまり動揺していないようだが、キミはこの事実を知っていたのか?」
彼の発言で皆が改めて私を見た。アルクナイトにばかり負担をかけさせてはいけない。私も前を向いて説明側に回った。
「はい。アンダー・ドラゴンの本拠地からギルドへ帰る間に、私はまた神が登場する夢を見たんです。その夢で神の本当の名前が岩見鈴音であると知りました」
「イワミスズネ? ベラルではなく?」
「ベラルは通称なんだと思います。そして夢の中の岩見鈴音は神らしくなく、学校に通う普通の少女のようでした」
「イワミスズネ……、イワミ……」
再びエリアスが彼女の名を繰り返した。
「岩見鈴音は彼女が憧れている男性の先輩をモデルにして、勇者エリアスというキャラクターを誕生させました」
「えっ……」
皆の視線が今度はエリアスに集中した。
「私を……?」
「そうです。岩見鈴音にとってエリアスさんは完全無欠なヒーローなんです。そして、そんなエリアスさんに愛される女性キャラクターも対で造りました」
「ちょっとおい、それって……」
「まさか……」
みんな察したようだ。アルクナイトが心配そうに私を見ていた。
「そのキャラクターが、私です。岩見鈴音は私とエリアスさんが出会い、仲間達との交流の中で絆を深め、そしてマキアとエンの死を乗り越えてエピローグで結婚する、そんな十日間を小説として書いたんです。そうして舞台として創造されたのが、私達が今居るこの世界なんです」
「!…………」
明かされた現実が雷のようになり、私とアルクナイト以外の全員を貫いた。
「ちょっと魔王様、冗談が過ぎますよ! 過去が無いのなら、私とウィーお姉様の運命的な出会いも無くなっちゃうじゃないですか!」
「無いんだ。……残念だがな」
完全否定されて、リリアナは大きな瞳を見開いたまま蠟人形のように固まった。
「お待ちなさい、アルクナイト」
まだ冷静さを保っていたキースが発言した。
「過去の世界が無いなんて、どうして言い切れるのです? 人喰い霧のようにその目で見た訳ではないでしょう?」
「……白、おまえも夢で聞いたはずだ。神は私の書いた物語は十日間だけだったと言っていた」
「それは……確かにそんなことを言っていたかもしれません。でも、少女以外にも神は存在するのではないですか?」
「他の神は居ない。この世界ではベラルが唯一神だ」
「賢者と呼ばれたあなただって世界の全てを知っている訳じゃない! 他の神々が関与するかどうかして、世界はずっと継続しているはずです!!」
キースはムキになっていた。それでも丁寧口調を崩さないのは自我を失わない為の対策だろう。
キースの心には性的被害に遭ってきた記憶が深く刻まれている。過去が無くなれば傷付いた事実も無くなるから良かったね、とはならない。人の心はそんな単純に割り切られるものではない。
つらい過去、しかしそれも彼のアイデンティティを形成する一部なのだ。過去を消去することは、必死に耐えて頑張ってきた自分をも消すことになる。
アルクナイトもキースの憤りを肌で感じているのだろう。キースの意見を否定する言葉を使っても、対応する態度は柔らかかった。それが切なかった。
「そもそも何故、神は僕達に設定などを刷り込んだんです?」
キースがアルクナイトへ食い下がった。
「俺達は十日間の物語の登場人物として造られた。身体はデカくても、世界に生み出されたばかりで心は真っ新な状態だった。成人として相応しい記憶と経験を植え付ける必要が有ったんだ」
「物語の登場人物……? 僕達が……。何てこと……!」
キースは血が出そうなほど強く唇を噛み、本音を漏らした。
「だったら何でもっと幸せな記憶にしてくれなかったんだ。僕は……」
「……それについては俺も悪趣味だと思う。神としては、それぞれにインパクトの有る個性を付けて物語を盛り上げようとしたんだろうさ」
「ハハハ……。何だよソレ……ふざけんな」
キースとは違う男の声がした。
「俺は……大物になりたくて故郷の村を幼馴染みと一緒に出たんだ。幼馴染みとは同じ夢を語り合う親友同士で……。でも、騎士になってからアイツは俺を裏切った」
呻くように言葉を紡いだのはルパートだった。
「ずっとずっとソレが心のしこりとして残ってる! 何だよ、これもただの設定だってのかよ!? 設定ごときに俺は今も苦しめられてんのか!?」
「僕だってそうです……。義姉にモンスターが出る草原に置き去りにされて、死ぬほどに怖い目に遭ったんです。それから何年も悪夢にうなされたのに……!」
リリアナが肩を震わせて同調した。
「死か……」
マキアも続いた。
「みんなが変えてくれたけど、俺とエンは神が用意した十日間では死ぬ設定だったんですよね? ロックウィーナを慰めるヒーローを誕生させる、ただその為だけに。俺とエンの命の価値っていったい何だよ……。あんまりだ」
アルクナイトは皆を宥めようとしたが、彼自身も複雑な面持ちだった。
「皆が怒るのは当然だ。俺も事実に気づいた時は愕然とした。だけれど神であるベラルにとってこの世界は自分が書いた小説でしかない。だから容易に重いトラウマを設定として盛り込んだり、人の死を軽く扱ってしまうんだ」
「小説……」
キースが揺れる瞳でアルクナイトへ問うた。
「比喩表現ではなく、本当にこの世界は小説なんですか?」
残酷な事実をアルクナイトが肯定した。
「……そうだ。俺達は全員が小説の登場人物だ。ロックウィーナを主人公とした恋愛小説のな」
「!?」
会議室に居た全員の視線が私へ突き刺さった。
「お姉様を……?」
「だから……毎回ウィーの結婚式がエンディングになっていたのか?」
「そんな……そんなことって……」
皆がショックを受けて会議室内がザワつく中、伏し目になってただ座る私をエリアスが不思議がった。
「ロックウィーナ? ……あまり動揺していないようだが、キミはこの事実を知っていたのか?」
彼の発言で皆が改めて私を見た。アルクナイトにばかり負担をかけさせてはいけない。私も前を向いて説明側に回った。
「はい。アンダー・ドラゴンの本拠地からギルドへ帰る間に、私はまた神が登場する夢を見たんです。その夢で神の本当の名前が岩見鈴音であると知りました」
「イワミスズネ? ベラルではなく?」
「ベラルは通称なんだと思います。そして夢の中の岩見鈴音は神らしくなく、学校に通う普通の少女のようでした」
「イワミスズネ……、イワミ……」
再びエリアスが彼女の名を繰り返した。
「岩見鈴音は彼女が憧れている男性の先輩をモデルにして、勇者エリアスというキャラクターを誕生させました」
「えっ……」
皆の視線が今度はエリアスに集中した。
「私を……?」
「そうです。岩見鈴音にとってエリアスさんは完全無欠なヒーローなんです。そして、そんなエリアスさんに愛される女性キャラクターも対で造りました」
「ちょっとおい、それって……」
「まさか……」
みんな察したようだ。アルクナイトが心配そうに私を見ていた。
「そのキャラクターが、私です。岩見鈴音は私とエリアスさんが出会い、仲間達との交流の中で絆を深め、そしてマキアとエンの死を乗り越えてエピローグで結婚する、そんな十日間を小説として書いたんです。そうして舞台として創造されたのが、私達が今居るこの世界なんです」
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