ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
199 / 291

残酷な事実(5)

しおりを挟む
「始祖神ベラル……。大陸を生み出した創造の女神……」

 エドガーが声を絞り出すように呟いた。

「ウィー!」

 向かいの席で距離が近いというのに、ルパートが大声で私の名を呼んだ。

「どうして今まで黙っていた! こんな重大なこと、何で話してくれなかったんだ!!」

 アルクナイトが間に入った。

「ソイツを責めるな。夢のことで相談された時に、皆に話すのは待てと止めたのは俺だ。重大な事実だからこそ、迂闊うかつに取り扱うと混乱を招くと判断した」
「でも魔王様には相談していたってことだろ? ……俺は、俺のことは信用できなかったのか? ウィー」
「責めるなと言ったろうが」

 ルービックが鋭い口調で斬り込んだ。

「魔王殿、その重大な事実を今明かすことになったのは何故だ? 最近発生した人喰い霧とは関係の無い話だろう?」
「たぶん関係が有る」

 アルクナイトは溜め息を吐いた。

「俺は俺で、ロックウィーナが新しく夢を見た晩に、世界が崩壊する夢を見ていたんだ」
「!」
「人喰い霧に世界が侵食されることを暗示した夢……、いや神からの警告だったのだろう」
「世界が……崩壊…………?」
「え、ちょっと待って下さいよ……」

 マシューが口を挟んだ。口調は軽いが顔面は固く強張こわばっていた。

「話が大きくなり過ぎてません? まさか国境を覆っているヤバイ霧が、国内にまで入り込むとでも……?」
「いずれそうなるだろう」
「いや絶対ならないって、そんな異常事態には!! 霧が入ってきたらみんな死ぬんですよ!? 大げさに脅かし過ぎです!」

 マシューのこれは彼の願望だった。アルクナイトはそれすらも否定しなければならなかった。

「人だけではなく、木も、大地も、空もやがて全てが喰われる。霧に覆われたラグゼリア王国の外には、もう何も存在していないだろう」

 それ以上は言わないでくれとマシューの目が訴えていた。しかしアルクナイトは告げた。

「ラグゼリアが霧で世界から孤立したのではなく、ラグゼリア以外の全てが既に消滅してしまっている状態なんだ」

 私の身体が震え出した。世界が崩壊する危険性をある程度知っていた私でさえこうなのだ、今日初めて聞かされたみんなの恐怖は相当なものだろう。

「どうして……こんな事態に?」

 ようやく言葉にしたエンヘアルクナイトがこたえた。

「みんなで見た夢をもう一度思い出してみろ。神はロックウィーナを怒ると共に心配もしていた。何と言っていた?」
「………………」

 エンは少し考えて、そして思い出した。

「……あ! 十日の中でならロックウィーナは護られていたけれど、その先の世界では自分の加護が届かず危険だと言っていた」
「そうだ。それが正に現在起きている事態だ。十日間を突き抜けて進んだここは神が関与していない新世界、とても不安定な状態なんだ。小さな綻《ほころ》びが世界崩壊へ繋がるほどに」
「何てことだ……。ループ破壊にそんなオマケが付いてくるとはな」

 全員が項垂うなだれた会議室で、

「ではっ……、またみんなであの十日間の中へ戻ればいいんです! ループの壁を元に戻すことはできないんですか!?」

 即座に無茶な提案をしたのはマキアだった。十日間の中へ戻れば彼とエンは死ぬ運命となる。それでもマキアは世界崩壊よりは良いと考えたのだろう。仲間を助ける為に自爆した彼なら。
 そんなマキアの心情を見抜いたアルクナイトはさとすように述べた。

「一度破ったループの壁はもう元には戻らないだろう。だからこそ神はあれだけの怒りを露わにしたんだ。それにループの中へ戻ったら、十日間の後に新しく生まれた命を消すことになる」
「……………え?」

 新しく生まれた命。それは……。

「国内で誕生した赤ん坊のことですか?」

 ギルドマスターの問いにアルクナイトは苦笑した。

「まぁ、ある意味産まれたての赤ん坊だが」

 そして並んで腰かける三名の聖騎士達を見やった。

「ソイツらは神が書いた十日間の小説には、師団長以外は名前すら登場しなかった」
「あ……!」

 言われてギルド職員とエリアスは聖騎士達をまじまじと見た。対する聖騎士達は当然だが困惑していた。

「ちょちょちょ、私達? 産まれたての赤ん坊とは私達のことか!?」
「その通りだ明るい中年」
「俺25なんですけど……。本当は生まれたばっかなんですか? 嘘でしょ、そんなの」
「落ち込むなニャンコ。俺達も少しばかり先輩なだけで似たようなもんだ」
「39歳の私も当てはまるのだろうか……?」
「そうだヒゲ。この世界に存在するものは全て若い命なんだ。482歳という設定の俺も例外ではない」

 滅び、消滅という暗い表現が続いた中で、というキーワードは希望のように感じられた。
 そしてどうでもいいことだが魔王によって、いつの間にか聖騎士三人組に捻りの無い渾名あだなが付いていた。

「アル、どうして小説であるこの世界に新しいキャラクターが生まれたんだ? 神はもう世界に干渉できないはずだろう?」

 質問したエリアス。アルクナイトは久し振りに不敵な笑みを浮かべた。

「おそらくは、世界の抵抗だ」
「……世界の?」
「ああ。このまま消滅してなるものかと必死に戦っているんだ。神の思惑通りに小説を進めるこまであるはずなのに、自我を持って自由に動き始めた俺達のようにな」

 私は自然と背筋が伸びた。世界が戦っている? 私達も?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...