ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新生冒険者ギルド、始動!(1)

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 目覚まし時計の針が指す時刻は6時18分。騒々しかった夜が明けた。
 睡眠を取ったおかげで身体は軽くなっていたが頭が重い。おそらくは心労だ。
 聖騎士達の冒険者登録、人喰い霧の話題、女神降臨、屋根裏部屋の劇的改造、魔王の側近ソルの登場……。昨日の出来事がダイジェストで頭の中を駆け巡って、起きたばかりだというのにもう疲れてしまいそうだ。アンダー・ドラゴンに関してもそうだけれど、いろんなことが短期間で起き過ぎなんだよ。
 頭をスッキリさせようと私は洗顔しに部屋を出た。

「あ」

 廊下の奥、階段付近の共同水場には早起きの先客が居た。ある意味一番会いたくなかったキースさんであった。

「お、おはようございます」
「……おはよう」

 私が魔王に口づけされたことを昨夜のキースは凄く怒っていた。ルパートのように声を荒げたりはしなかったが静かに怒っていた。それが余計に怖かった。
 ここから更に、エンとルパートともキスをしていたと知られたらどうなるんだろう。尻軽ビッチちゃんだと軽蔑されるかな?
 以前彼と話した時には、「兄としてしか見られないから恋人にはなれない」と振ろうとしたくせに、いざとなるとキースに嫌われることを怖がっている自分が居る。ズルいよなぁ。
 そう。私が怖いのは、しかられることではなく彼に嫌われることなんだ。

「………………」

 洗顔の為に前髪を上げていたキースは黙って横を向いた。私を魅了させない為の気遣いというよりも、顔を合わせたくないという意志表示に見えた。
 私はキースから少し離れた位置に立ち、蛇口を捻って冷たい水を出した。石鹼を両手の平で泡立ててから、ひたすら顔の皮脂油を洗い流すことに専念した。

 私はいったい誰が好きなんだろう? どうしたいんだろう?
 エンやルパートの呼び出しに簡単に応じてフラフラしている。彼らのことはもちろん好きだ。でもそれ以上に、デートをしてみたいという好奇心の方が強かった気がする。アルクナイトとキスした時は性欲に負けた。
 同年代のミラとマリナが既に経験済みだったから、自分も早くしなくちゃって焦っているのかな?
 でもそんな曖昧な気持ちでお付き合いは良くないよね。相手に対して失礼だし、近い未来、自分が本当に好きになった人を失うことになるかもしれない。

 まったくサッパリしていないが私は洗顔を終えた。肩に掛けていたタオルでガシガシ顔をこするようにいた。

「……そんなに強い力でくと皮膚が傷付くよ?」

 横からキースの声が届いた。呆れたような口調だったが、構ってもらえた嬉しさの方が増した。無視されなかったよ、ヒャッホーイ!
 何かお返事をしないと。私が言葉選びに迷っていると、そっと背後からキースに抱かれた。

「!!!」

 抱きしめる、とまではいかない優しい力でキースは私を包み込んだ。キースの体温が背中越しに伝わってくる。

「せ、先輩……?」
「そのままで。決して振り向かないで」

 まだ前髪を上げている状態なのかな。

「今の僕は……とても醜い顔をしているから」

 違った。

「キミに優しくしたいのに、嫉妬でおかしくなりそうだ。情けないよ……。こんなに自分が余裕の無い人間だと思わなかった」

 切ない声の告白で解った。彼はやはり怒っていた。でもその対象は私ではなく、アルクナイトでもなく、自分自身だった。

「ごめん。八つ当たりでキミにキツく当たってしまった」
「そんな、先輩が謝らないで下さい! 悪いのは私の方です!!」
「いや、詳しい事情を知らないけど、悪いのは十中八九あのエロ魔王だろう」

 ですね。不意打ちのちゅー、略して不意打っちゅーでしたから。……たいして略されていないな。
 そんなお馬鹿な造語で気を紛らわせて私は理性を保った。だって背後からキースに抱かれているんだよ!? 温かくてくすぐったいよ!!

 ………………………………。

 しかしキースはそれ以上のことをしてこなかった。

(そうだね、この人は……)

 きっとキースは、魔王にキスをされて私が傷付いたんじゃないかと心配している。
 他の男達は魔王に対抗意識を燃やして、二人きりのこの状況なら私に上書きのキスをしてきそうなものだが、キースはしない。私を更に傷付けてしまうんじゃないかと恐れている。自分の性欲よりも私の心情を優先してくれる。
 無理矢理されることの恐怖と嫌悪感を、誰よりもよく知っている人だから。

 どうかキース、私の為に悩まないで。私はあなたが思うような純粋な女のコじゃない。前に言ったじゃない、えっちなことに興味が有るってさ。昨日だってね、キスまでなら抵抗なく魔王を受け入れていたんだよ。
 だのに今は胸が激しく痛む。私のせいでキースを苦しませたんだって事実がこんなにもつらい。

(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…………)

 私とキースはしばらくその場で寄り添っていた。互いに心の中で謝罪し合いながら。

『れっつごー』

 すると頭上から無粋な号令がかかった。
 見上げるとアルクナイトの使い魔の黒猫、三匹の内の一匹が翼を使って旋回していた。一度姿を見せた後なのでもう隠れる気が無いらしい。気配は消していたけどね。

『ごーごー』

 GO? 行けと? 何も進展の無い私達に痺れを切らしたとか? いやまさか猫がそんな。
 キースと二人で意味が解らずポカンとしていると、猫がくるっと回転してポワンと煙が上がって、なななんと、

『……ったくお兄さん、アンタもっと積極的に行かねーと他の野郎達に負けちまうぞ?』

 すっごい口の悪いオレンジ髪の美少年がその場に登場した。
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