ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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嵐の前(4)

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 自分を卑下して頬杖を付いたマシューへ私は言った。

「でもあなたも私を心配してくれた」
「キースさんとの交際を反対してんだよ?」
「私とキース先輩が傷付くと思うから反対なんでしょ? その気遣いは嬉しいよ」
「………………」

 マシューは横を向いた。

「ま、キミは友達だから?」
「あれ? もしかしてマシュー照れてんの?」
「うるさい」

 マシューの指がデコピンを完成させる前に、私は掴んで止めさせた。

「はん、何度も喰らわないから。あと昨日の手合わせのおかげで、あなたが技を繰り出すタイミングがだいたい判るようになった」
「くそ、徒手空拳の達人め」

 マシューが悔しそうにしたのは一瞬だけで、彼は自分の指を握る私の手をしげしげと眺めた。

「えと、…………何見てんの?」
「いや、思ってたより小さくて可愛い手だと思ってさ」
「ほわあぁぁぁ!?」

 私は慌てて手を引っ込めた。拳闘士である私の手はゴツイのだ。さりげなくコンプレックスだ。それを可愛いだなんて。

「ほわあぁって、恋する女のコの悲鳴じゃないよロックウィーナ」
「うるさい、今のはあなたが悪い!!」
「ハハッ、照れたんだ」
「別にっ……」
「何イチャイチャしてんだおまえ達」
「うわぁっ!?」
「きゃあ!」

 不意に戻ってきていたルービックに突っ込まれて心底驚いた。

「し、師団長、何故ここに!?」
「ここでエドガーの帰りを待つと言っただろう。コーヒーをれ直しに行っただけだ」
「そうでした……」
「おまえ、ロックウィーナへ対する私の態度に散々文句をつけておいて、自分は堂々と仲良しさんか」
「俺達は友人としてスキンシップしていただけです」
「そうは見えなかった。完全に恋人同士のたわむれだった」
「えっ……」

 マシューが私と顔を見合わせた。第三者の目からだとそんな風に見えたのか。自然と二人して頬が赤くなる。

「違いますから!」
「ホントかなー? やけに親密そうだったけどなー」

 悪戯いたずらっ子のようにルービックがニヤニヤからかってきた。キースに関する話はもうお終《しま》い、といった風に明るい。この切り替えの上手さが陽キャの資質なんだろうな。
 マシューが応戦した。

「まぁ俺らがイチャイチャしても問題無いんですけどね。ロックウィーナには好きな人が居ますけどまだ付き合っていません。彼女も俺も今はフリーな訳ですから」
「あ、そうか」

 ルービックが納得した。これでこの話題が終わったかと思ったら、

「ロックウィーナは今フリーなんだな」

 ルービックが何やら呟いた。マシューがすかさず反応した。

「師団長? どうしてその部分を復唱してるんです?」
「いやちょっと念押しに」
「何で? 何でロックウィーナがフリーなことを重ねて確認する必要が有るんです? 俺のことは完全にスルーして!」
「ううん……、どうしてだろうなぁ?」
「だから何でそこで疑問形になるんですか!! ロックウィーナ、やっぱこの人コエーから気をつけてよ!」
「はは……」

 乾いた笑いと共に昼食の最後の一口を頬張ったタイミングで、岩見鈴音が食堂に姿を現した。

「ロックウィーナ、帰ってたんだね」
「ただいま。スズネはこれからご飯?」
「うん。食堂がく時間まで待ってたの」

 実際は16歳だが12歳くらいの見た目の鈴音が、荒々しい冒険者の群れに混ざったら目立つし心細いだろうね。私はもう食べ終わったけれど、彼女が食べている間はここに残ろう。
 マシューは対面の席に置かれていた自分の昼食プレートを手前に引き寄せていた。完全に私の隣に陣取って食事を続けるつもりだ。鈴音も逆隣に座り食事を開始した。
 テーブル向こう側に独りとなったルービックがシュンとしていた。寂しがり屋の彼はこちらへ新しい話題を振った。

「Bチームは今日も無事にミッションクリアできたんだな?」
「はい。サンダードラゴンが出てきた時は焦りましたが」
「ドラゴン!?」

 鈴音が驚愕の視線を私とマシューへ向けた。

「ドラゴンなんかと戦ったの!? あなた達大丈夫なの!?」
「うん。ユアンとエンが怪我したけど軽傷だよ。キース先輩が治してくれたし」
「ドラゴン……そんな恐ろしいモンスターが出現するなんて」
「そうだな、ドラゴンの棲息地は基本だいぶ人里から離れている。今日行った湿原には流石に人が住む集落は無かったけど、側には大きな道が通っていて旅人が毎日行き来している。人が活動するフィールド近くまでドラゴンが来るのは珍しいよな」

 マシューの感想にルービックが見解を述べた。

「あの霧の影響かもしれない。魔王殿の話では人も魔物も等しく呑み込まれて身体を分解されるそうだから。ドラゴンは霧から逃れてきたのではないだろうか」
「ああ、そうかもですね。てことは霧が危険だと解る知能の高い魔物が、ドンドン人里まで移動してくるかもしれないんだ」
「早急に霧を晴らす必要が有るな」

 聖騎士達の会話を聞いた鈴音が固まってしまった。怖かったのだろう。

「大丈夫だよスズネ、私達はその為に動いているんだから。いつか霧は晴れるよ」

 元気づけたかったのだが鈴音は食事中、ずっと暗い表情のままだった。
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