ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
249 / 291

墜ちた者 這い上がる者(2)

しおりを挟む
「術師、待てや……。取引をしようぜ……」

 レスター・アークが悪足搔わるあがきをしている。

「冒険者……ギルド職員のままでは絶対に……稼げない金をやる」

 この男は馬鹿なのか? 馬鹿なんだろうな。死を覚悟した人間が金なんか欲しがる訳ないだろう。まったく無意味な取引だ。
 もういいから早く死ねよ。

「呪いよ……我が敵に転移せよ。その心臓を握り潰せ……」

 ずっとこの世の中を呪っていた。自分の身体を傷付けた奴らを思い返しながら禁呪を完成させた。害虫やネズミは身体が小さいので簡単に殺せた。
 いや……僕が呪っているのは僕自身なのかもしれないね。だって全身が焼けるように痛くて苦しい。

「ゴホッ、……ゴボッ」
「カハッ!」

 レスターと僕、ほぼ同時に吐血した。
 ……ああ、ついに終わりの時が来たようだ。でも僕が死ぬ前にレスターを確実に殺しておかないと。ロックウィーナの近くに獣を生かしたまま置いていけない。
 うん。どうせ後ろ向きにしか生きられなかった人生、好きな女のコの為に死ねるのなら本望だ。呪殺の禁呪も、魅了の瞳を持つ僕も、この世に存在してはならないものだったんだ。ここで同時に消してしまおう。
 ロックウィーナ、キミを泣かせてしまうことだけが本当につらい。

「我がけがれた……ゲホッ!」

 喉に血が溜まって上手く発声できない。喉自体も痛む。
 しっかりしろ。前の周回で僕よりだいぶ年下のマキアは、胸を剣で貫かれた状態で呪文を最後まで詠唱したんだ。僕にだってやれるはずだ。

「……先輩、もういいです。やめて」

 突如ロックウィーナが立ち上がり宣言した。

「後は私がやりますから休んでいて下さい。先輩を逮捕なんてさせません」

 ……は?
 やる? 何をする気だ?
 ロックウィーナは首領と戦う前のユーリそっくりな表情をしていた。
 嫌な予感がしたので呼び止めたいのに声が出ない。
 彼女は死亡した幹部の男の元へ行った。そして落ちていた剣を拾い上げた。
 ────────いけない!

 ズシュッ。

 ロックウィーナは両手で握った剣を、仰向けに倒れている幹部の胸へ深く突き刺したのだ。一度引き抜き、今度は腹を刺した。
 次にもう一人の方へ歩き寄り、一人目と同じように剣を数回相手の身体に突き刺した。

「て、テメェ……、何……してやが……る」

 血塗ちまみれの口を動かしてレスターが問うた。手と顔に返り血が跳ねたロックウィーナは冷たく言い放った。

「こうしておけば後から来た兵士に、死因は刺殺だったと思わせることができるでしょう?」
「! 呪殺ではないと……誤魔化す……為にか……」
「そうよ。後はアンタだけ」

 迷う素振りを一切見せず、ロックウィーナがレスターへ接近した。

「駄目……だ。ローウェル……、彼女を……止めてくれ……!」

 僕は何とか蚊が鳴くレベルの声を絞り出して、助勢してくれた魔王の使い魔に懇願した。しかしローウェルは頼みを聞いてはくれなかった。

『……あなたはもう限界です。それを彼女も悟ったのでしょう、自分がやる覚悟を決めています』

 そんな。やめろロックウィーナ、僕の命なんかどうでもいいんだよ!!

「おい……お嬢さんアンタ……、人を殺したこと、有るのかい……?」

 自分の前へ立ったロックウィーナにレスターが問いかけた。

「ふ……、グリップを強く握り過ぎて手が……白くなってるぞ」

 ロックウィーナはもう震えてはいなかった。しかし剣を握る手に無駄に力が入っている所から、レスターが彼女の動揺を見抜いてしまった。
 
「死体に剣を突き刺すのと……、生きた人間を刺すのは……全然……違うから……な」
「………………」

 僕に背を向けて立つロックウィーナ。彼女は今どんな顔をしているのだろう。
 怖いだろうな。不安だろうな。人を殺すどころか、ルパートに護られてきた彼女には実戦経験自体が少ない。
 ああそうだ。ルパートは七年もの間、ずっとロックウィーナを護り続けてきたんだ。それなのに僕ときたら……何て情けないんだ!

「もう決めたから」

 それだけ言ってロックウィーナは剣を構えた。
 彼女は知らないだろう。ギルドの男達はロックウィーナに人殺しをさせたくなくて、「素質が無い」と嘘をいて殺傷能力が高い刃物を彼女から遠ざけた。

「やめ…………グッ」

 言葉の代わりに口から漏れた血の粒がパタパタと床へ落ちた。術の反動に負けて、僕の内臓もレスター同様にズタボロになっているようだ。いや、まだ話せている分レスターの方が軽傷か。
 レスターを倒せないばかりか、好きなコに殺人を犯させようとしている。僕はいったい何を……。

「ハハ、お嬢さん……。覚悟はできているようだな……」

 焦る僕の視界の隅で、レスターが何故か柔らかく笑った。

「それなら……悪党から最後の忠告だ。殺す時は……相手の目を……見るな。悪夢にさいなまれることになるぞ……」

 意外な発言をしたレスターは自らまぶたを閉じた。生死の選択をこちらへ委ねたのか?
 ロックウィーナの背中が一度ピクリと揺れたが、彼女は剣を振り上げた。

(ロックウィーナ!!!!)

「えっ!?」

 彼女はレスターを殺せなかった。剣の刃先がレスターへ届く前に、僕が背後からロックウィーナを抱き留めたからだ。
 ああもう、僕が彼女に対してアクションを起こせるのはいつも背中越しだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...