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墜ちた者 這い上がる者(2)
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「術師、待てや……。取引をしようぜ……」
レスター・アークが悪足搔きをしている。
「冒険者……ギルド職員のままでは絶対に……稼げない金をやる」
この男は馬鹿なのか? 馬鹿なんだろうな。死を覚悟した人間が金なんか欲しがる訳ないだろう。まったく無意味な取引だ。
もういいから早く死ねよ。
「呪いよ……我が敵に転移せよ。その心臓を握り潰せ……」
ずっとこの世の中を呪っていた。自分の身体を傷付けた奴らを思い返しながら禁呪を完成させた。害虫やネズミは身体が小さいので簡単に殺せた。
いや……僕が呪っているのは僕自身なのかもしれないね。だって全身が焼けるように痛くて苦しい。
「ゴホッ、……ゴボッ」
「カハッ!」
レスターと僕、ほぼ同時に吐血した。
……ああ、ついに終わりの時が来たようだ。でも僕が死ぬ前にレスターを確実に殺しておかないと。ロックウィーナの近くに獣を生かしたまま置いていけない。
うん。どうせ後ろ向きにしか生きられなかった人生、好きな女のコの為に死ねるのなら本望だ。呪殺の禁呪も、魅了の瞳を持つ僕も、この世に存在してはならないものだったんだ。ここで同時に消してしまおう。
ロックウィーナ、キミを泣かせてしまうことだけが本当につらい。
「我が穢れた……ゲホッ!」
喉に血が溜まって上手く発声できない。喉自体も痛む。
しっかりしろ。前の周回で僕よりだいぶ年下のマキアは、胸を剣で貫かれた状態で呪文を最後まで詠唱したんだ。僕にだってやれるはずだ。
「……先輩、もういいです。やめて」
突如ロックウィーナが立ち上がり宣言した。
「後は私がやりますから休んでいて下さい。先輩を逮捕なんてさせません」
……は?
やる? 何をする気だ?
ロックウィーナは首領と戦う前のユーリそっくりな表情をしていた。
嫌な予感がしたので呼び止めたいのに声が出ない。
彼女は死亡した幹部の男の元へ行った。そして落ちていた剣を拾い上げた。
────────いけない!
ズシュッ。
ロックウィーナは両手で握った剣を、仰向けに倒れている幹部の胸へ深く突き刺したのだ。一度引き抜き、今度は腹を刺した。
次にもう一人の方へ歩き寄り、一人目と同じように剣を数回相手の身体に突き刺した。
「て、テメェ……、何……してやが……る」
血塗れの口を動かしてレスターが問うた。手と顔に返り血が跳ねたロックウィーナは冷たく言い放った。
「こうしておけば後から来た兵士に、死因は刺殺だったと思わせることができるでしょう?」
「! 呪殺ではないと……誤魔化す……為にか……」
「そうよ。後はアンタだけ」
迷う素振りを一切見せず、ロックウィーナがレスターへ接近した。
「駄目……だ。ローウェル……、彼女を……止めてくれ……!」
僕は何とか蚊が鳴くレベルの声を絞り出して、助勢してくれた魔王の使い魔に懇願した。しかしローウェルは頼みを聞いてはくれなかった。
『……あなたはもう限界です。それを彼女も悟ったのでしょう、自分がやる覚悟を決めています』
そんな。やめろロックウィーナ、僕の命なんかどうでもいいんだよ!!
「おい……お嬢さんアンタ……、人を殺したこと、有るのかい……?」
自分の前へ立ったロックウィーナにレスターが問いかけた。
「ふ……、グリップを強く握り過ぎて手が……白くなってるぞ」
ロックウィーナはもう震えてはいなかった。しかし剣を握る手に無駄に力が入っている所から、レスターが彼女の動揺を見抜いてしまった。
「死体に剣を突き刺すのと……、生きた人間を刺すのは……全然……違うから……な」
「………………」
僕に背を向けて立つロックウィーナ。彼女は今どんな顔をしているのだろう。
怖いだろうな。不安だろうな。人を殺すどころか、ルパートに護られてきた彼女には実戦経験自体が少ない。
ああそうだ。ルパートは七年もの間、ずっとロックウィーナを護り続けてきたんだ。それなのに僕ときたら……何て情けないんだ!
「もう決めたから」
それだけ言ってロックウィーナは剣を構えた。
彼女は知らないだろう。ギルドの男達はロックウィーナに人殺しをさせたくなくて、「素質が無い」と嘘を吐いて殺傷能力が高い刃物を彼女から遠ざけた。
「やめ…………グッ」
言葉の代わりに口から漏れた血の粒がパタパタと床へ落ちた。術の反動に負けて、僕の内臓もレスター同様にズタボロになっているようだ。いや、まだ話せている分レスターの方が軽傷か。
レスターを倒せないばかりか、好きなコに殺人を犯させようとしている。僕はいったい何を……。
「ハハ、お嬢さん……。覚悟はできているようだな……」
焦る僕の視界の隅で、レスターが何故か柔らかく笑った。
「それなら……悪党から最後の忠告だ。殺す時は……相手の目を……見るな。悪夢に苛まれることになるぞ……」
意外な発言をしたレスターは自ら瞼を閉じた。生死の選択をこちらへ委ねたのか?
ロックウィーナの背中が一度ピクリと揺れたが、彼女は剣を振り上げた。
(ロックウィーナ!!!!)
「えっ!?」
彼女はレスターを殺せなかった。剣の刃先がレスターへ届く前に、僕が背後からロックウィーナを抱き留めたからだ。
ああもう、僕が彼女に対してアクションを起こせるのはいつも背中越しだな。
レスター・アークが悪足搔きをしている。
「冒険者……ギルド職員のままでは絶対に……稼げない金をやる」
この男は馬鹿なのか? 馬鹿なんだろうな。死を覚悟した人間が金なんか欲しがる訳ないだろう。まったく無意味な取引だ。
もういいから早く死ねよ。
「呪いよ……我が敵に転移せよ。その心臓を握り潰せ……」
ずっとこの世の中を呪っていた。自分の身体を傷付けた奴らを思い返しながら禁呪を完成させた。害虫やネズミは身体が小さいので簡単に殺せた。
いや……僕が呪っているのは僕自身なのかもしれないね。だって全身が焼けるように痛くて苦しい。
「ゴホッ、……ゴボッ」
「カハッ!」
レスターと僕、ほぼ同時に吐血した。
……ああ、ついに終わりの時が来たようだ。でも僕が死ぬ前にレスターを確実に殺しておかないと。ロックウィーナの近くに獣を生かしたまま置いていけない。
うん。どうせ後ろ向きにしか生きられなかった人生、好きな女のコの為に死ねるのなら本望だ。呪殺の禁呪も、魅了の瞳を持つ僕も、この世に存在してはならないものだったんだ。ここで同時に消してしまおう。
ロックウィーナ、キミを泣かせてしまうことだけが本当につらい。
「我が穢れた……ゲホッ!」
喉に血が溜まって上手く発声できない。喉自体も痛む。
しっかりしろ。前の周回で僕よりだいぶ年下のマキアは、胸を剣で貫かれた状態で呪文を最後まで詠唱したんだ。僕にだってやれるはずだ。
「……先輩、もういいです。やめて」
突如ロックウィーナが立ち上がり宣言した。
「後は私がやりますから休んでいて下さい。先輩を逮捕なんてさせません」
……は?
やる? 何をする気だ?
ロックウィーナは首領と戦う前のユーリそっくりな表情をしていた。
嫌な予感がしたので呼び止めたいのに声が出ない。
彼女は死亡した幹部の男の元へ行った。そして落ちていた剣を拾い上げた。
────────いけない!
ズシュッ。
ロックウィーナは両手で握った剣を、仰向けに倒れている幹部の胸へ深く突き刺したのだ。一度引き抜き、今度は腹を刺した。
次にもう一人の方へ歩き寄り、一人目と同じように剣を数回相手の身体に突き刺した。
「て、テメェ……、何……してやが……る」
血塗れの口を動かしてレスターが問うた。手と顔に返り血が跳ねたロックウィーナは冷たく言い放った。
「こうしておけば後から来た兵士に、死因は刺殺だったと思わせることができるでしょう?」
「! 呪殺ではないと……誤魔化す……為にか……」
「そうよ。後はアンタだけ」
迷う素振りを一切見せず、ロックウィーナがレスターへ接近した。
「駄目……だ。ローウェル……、彼女を……止めてくれ……!」
僕は何とか蚊が鳴くレベルの声を絞り出して、助勢してくれた魔王の使い魔に懇願した。しかしローウェルは頼みを聞いてはくれなかった。
『……あなたはもう限界です。それを彼女も悟ったのでしょう、自分がやる覚悟を決めています』
そんな。やめろロックウィーナ、僕の命なんかどうでもいいんだよ!!
「おい……お嬢さんアンタ……、人を殺したこと、有るのかい……?」
自分の前へ立ったロックウィーナにレスターが問いかけた。
「ふ……、グリップを強く握り過ぎて手が……白くなってるぞ」
ロックウィーナはもう震えてはいなかった。しかし剣を握る手に無駄に力が入っている所から、レスターが彼女の動揺を見抜いてしまった。
「死体に剣を突き刺すのと……、生きた人間を刺すのは……全然……違うから……な」
「………………」
僕に背を向けて立つロックウィーナ。彼女は今どんな顔をしているのだろう。
怖いだろうな。不安だろうな。人を殺すどころか、ルパートに護られてきた彼女には実戦経験自体が少ない。
ああそうだ。ルパートは七年もの間、ずっとロックウィーナを護り続けてきたんだ。それなのに僕ときたら……何て情けないんだ!
「もう決めたから」
それだけ言ってロックウィーナは剣を構えた。
彼女は知らないだろう。ギルドの男達はロックウィーナに人殺しをさせたくなくて、「素質が無い」と嘘を吐いて殺傷能力が高い刃物を彼女から遠ざけた。
「やめ…………グッ」
言葉の代わりに口から漏れた血の粒がパタパタと床へ落ちた。術の反動に負けて、僕の内臓もレスター同様にズタボロになっているようだ。いや、まだ話せている分レスターの方が軽傷か。
レスターを倒せないばかりか、好きなコに殺人を犯させようとしている。僕はいったい何を……。
「ハハ、お嬢さん……。覚悟はできているようだな……」
焦る僕の視界の隅で、レスターが何故か柔らかく笑った。
「それなら……悪党から最後の忠告だ。殺す時は……相手の目を……見るな。悪夢に苛まれることになるぞ……」
意外な発言をしたレスターは自ら瞼を閉じた。生死の選択をこちらへ委ねたのか?
ロックウィーナの背中が一度ピクリと揺れたが、彼女は剣を振り上げた。
(ロックウィーナ!!!!)
「えっ!?」
彼女はレスターを殺せなかった。剣の刃先がレスターへ届く前に、僕が背後からロックウィーナを抱き留めたからだ。
ああもう、僕が彼女に対してアクションを起こせるのはいつも背中越しだな。
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