ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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墜ちた者 這い上がる者(3)

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「せ、先輩……!?」

 驚いた顔で振り返った彼女の瞳には涙がにじんでいた。必死で泣くのをこらえていたようだが、僕の顔を見て涙腺るいせんが崩壊した。ゴメンね、怖かったね、独りで戦わせてしまったね。
 気合いだけで動いた僕の身体は満身創痍まんしんそういだ。ロックウィーナを抱きしめたまま膝から崩れた。

「先輩!」

 ロックウィーナは剣を手放して僕を支えることを選んだ。そういうコだ。そんなキミの手を汚させてしまうなんて。死体とはいえ、人体へ剣を突き刺す行為には勇気がっただろうに。
 レスターが目を開けて抱き合う僕達を見ていた。

「まいったな……。これから……どうすっか……」

 どうしてだか完全にレスターから敵意が消えていた。そこへ……

「みんな、無事か!?」

 バタバタと足音を消さずに、マシューとソルがダンスホールへ踏み込んだ。彼らの登場で張りつめていた緊張の糸が切れた。良かった。もう大丈夫だよロックウィーナ。

「すまない、アイツら思いのほか手強くて時間がかかった!」
「まぁな……、あの三人組は……組織一番のヤリ手だからな……。だがそうか……、アイツらもったか……」

 部下の死を静かに受け止めるレスターを横目で窺いながら、マシューは屈んで手を伸ばしてきた。吐血してロックウィーナに体重を預けてしまっている僕へ。

「え? え? キースさん、いったい何処を斬られたんですか!?」

 傷を探して慌てるマシューへソルが否定した。

「……違う。キースは禁呪を使ったんだ。そのむくいをその身に受けた」
「え、じゃあさっき感じた闇魔法の発動は……キースさんだったんですか!?」
「ああ、とんだ馬鹿者だ」

 何だよソル。アンタだって禁呪を解放した仲間じゃないか。……って言い返したいのに、駄目だ腹に力が入らないや。

御者ぎょしゃに言って馬車をここに横付けさせます! 治療院へ運ばないと!!」
「治療院は駄目だマシュー。キースの状態をた医師や術師が、禁呪の可能性に気づくかもしれない。回復は我が王かルービックに頼もう」
「でも彼らの現在位置が判りませんよ? 冒険者ギルドに帰ってくるまで待っていられません!」
「黒猫三兄弟が居る。コイツらは遠く離れていても互いの位置を把握できる。ある程度の距離まで近付けば心での会話も可能だ」
「すっげ! 取り敢えず馬車は呼んできますね」

 立ち上がったマシューへ、レスターが呆れ声で文句を言った。

「おーいアンタら……、俺のことは……ほったらかしかい? 俺を追って……ここまで来たんだろ?」
「心配するな。おまえとの決着をつけるべき相手はそこに居る」

 ソルの言葉通り、ヨロヨロとレスターへ近付く者が居た。

「ええ。俺が終わらせますよ……、レスター

 なんとユーリであった。彼の姿を視認したロックウィーナが驚愕と歓喜の声を上げた。

「ユーリ、あなた生きていたのね!!」

 僕も彼は死んだものとばかり思っていた。実際に彼の上半身には決して浅くはない傷が刻まれていた。
 僕達から身体を気遣う視線を向けられたユーリは軽く笑った。

「大丈夫。……急所は

 時間が有ったというのに何故レスターはユーリにとどめを刺さなかったのか。そしてとは?

「え……、ワザと急所を外したの?」

 僕と同じ疑問を抱いたロックウィーナが、ユーリとレスターを交互に見て不思議がった。

「この人はね……、自分を殺して欲しくて俺を傍に置いていたんだよ」

 ユーリが哀しそうにレスターを見つめた。

「そうなんでしょう? 先輩」

 もう首領でもボスでもなかった。ユーリは傭兵時代の呼称でレスターを呼んでいた。

「ずっと……俺に止めて欲しかったんですよね?」

 否定せずに苦笑したレスター。その姿を見て察した。
 両親を自殺へ追い詰めた黒幕を捜し、誤って恩人を殺害してしまった彼。復讐の力を得る為に犯罪組織へ入ったが、おそらく根は真面目な男だったのだろう、恩人と犯罪行為の犠牲者に対して罪悪感を抱き苦悩していたのだ。
 唯一本当の自分を知るユーリを手元に置いて、レスターは終わりの時をずっと待っていた。

「すみません先輩、もっと早くすべきでした」

 クナイを持つ右手をユーリは上げた。護衛ではなく断罪人として。
 覚悟を決めたとはいえ、やはり彼はつらそうだった。

「ハハ……、ついにその時が来たか……」

 レスターはやはり死にたかったのだ。クナイを向けられても笑顔だった。
 だが親の無念、残された部下のことを思うと自殺はできなかったのだろう。

「……極悪人は最期の言葉も……酷いものでシメねぇとな」

 ユーリを見上げるレスター。顔面は僕同様に血塗ちまみれで呼吸も不規則だが、表情はとても穏やかだった。

「おまえにトラウマを植え付けるだろうが……聞け、ユーリ」

 ユーリは黙ってレスターの言葉を待った。

「阿保のグラハムの部下が……おまえを毒殺したと……報告してきた……。おまえが毒なんぞでられる訳がないと……思ったがな、あれきり姿を見せないもんで……本当に死んだのかと……信じそうになった」

 レスターは再び自ら目を閉じた。そして言ったのだ。予告した通りの酷い言葉を。

「ユーリ、おまえが生きていて……良かった。本拠地でおまえを独り残してしまったが……、本当はあの時に……一緒に戦って……、あそこで俺は……死にたかった…………」

 レスターの告白を聞いたユーリが絶叫した。

「うおぉぉぉぉぉぉ──────!!!!!!」

 それからクナイの刃をレスターの胸へ沈めた。
 ロックウィーナが目をそむけたが僕は見ていた。闇に墜ちた者の末路を見届けなければならなかった。
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