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墜ちた者 這い上がる者(4)
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ユーリは手首を捻りレスターの身体の奥へ大量の空気を送り込んだ。ビクビクッと痙攣したレスターから引き抜いたクナイを投げ捨て、横へ倒れそうになったかつての先輩の身体へしがみ付いた。
「ああああ、うわあぁぁぁぁ!!!!」
号泣するユーリに抱きかかえられているレスターは、眠っているかのような表情で絶命していた。
これが国内最大の犯罪組織、アンダー・ドラゴン首領レスター・アークの最期であった。
今回の戦いで幹部連中もほぼ全滅しただろう。生き残った下っ端の構成員はまだ各地に散らばっているが、三下には大きな組織を維持できるだけの力が無い。事実上、アンダー・ドラゴンはこれで壊滅したのだ。
僕はそれを確認してから目を閉じた。馬車まで自力で歩くのは無理だな。それどころか意識を手放しそうだ。
「先輩!? 先輩、しっかり!」
あーあ、何だかこの後ロックウィーナに背負わされそうな予感がする。彼女を慰めたいのに。謝りたいのに。僕って本当にカッコ悪いなぁ。
勇者エリアスだったら剣技だけで敵を蹴散らしていただろう。魔王アルクナイトならば魔力切れも反動負けも起こらなかっただろう。
同じ特異体質なら彼らのようになりたかった。彼らのように胸を張って堂々と生きたかった。
今更どうしようもないことを嘆きながら、僕はしばしの眠りに落ちた。ロックウィーナの呼びかけとユーリの泣き声が遠くなっていった……。
☆☆☆
瞼を閉じると身体がゆっくり落下していく感覚に襲われる。下で待つのは光が射さない深淵。闇に沈んでいく。闇に呑まれてしまう。
子供の頃はそれが怖かった。眠るといつも嫌な夢を見てしまった。
両親を呼べば良かったのだろうが、僕のせいで日々疲労している彼らの眠りを妨げたくなかった。独りでベッドの中で身体を丸め、朝が早く来ることをひたすら願った。
でも本当は、母の温もりに包まれたかった。父の強さに頼りたかった。
……誰かが僕の手を握ってくれている。
ロックウィーナ……?
今の僕はもう闇を恐れていない。闇は僕の一部となった。
だというのに、僕は握られた手の優しさに縋りたくなった。そぉっと指を絡ませてこちらからも握り返した。
そして瞳を開けて、僕は寄り添ってくれている人物を見つめた。
「え」
目覚めた僕は咄嗟に状況判断ができずに狼狽えた。
(ええと……?)
僕はどうやらベッドに寝かされている。大きな室内ランプの灯りで確認できたのは見慣れた家具と壁紙。ここは冒険者ギルドの独身寮に在る僕の部屋だ。それはいい。
問題なのはベッドの傍で、イスに座った魔王が僕の手を握っていることだ。
「おおい!」
僕は跳ね起きた。動かした上半身が少し重く感じられた。
「何してんだよエロ魔王! どうしてキミが僕の手を握っている!?」
「貴様が悪夢でうなされていたからだ。気遣いのできる俺様が直々に元気づけてやったんだろーが」
魔王アルクナイトが不機嫌そうに片眉を上げた。僕は礼と共に反論した。
「それはどうもありがとう。でも恋人繋ぎはやり過ぎじゃないか?」
「指を絡めてきたのは貴様の方だ。俺だってこの状態が心底気色悪いわ」
僕達は絡み合った互いの指を解いた。大の男が二人で何をやっているのだろう。
「……ロックウィーナが握ってくれたと勘違いしたんだよ」
ぼやいた僕をアルクナイトが非難した。
「勝手なことを言うな。ロウィーの告白を断って遠ざけたのはキ・サ・マだ。それなのにアイツがここに居ないことを寂しく思うのか?」
……そうだね。身勝手な願望だ。
「可哀想にロウィーは今もまだ、独りおまえを心配して泣いているだろう」
魔王がロックウィーナをロウィーと呼ぶことがムカつく。まんま愛称だ。他の人間はワンコとかチャラ男とかヒゲとか呼ぶくせに。
しかしそれよりも聞き捨てならない事柄が有った。
「ロックウィーナが泣いているのか?」
「当たり前だろうが。ソルから聞いたぞ、貴様は禁呪を使用したそうだな。ロウィーの目の前で」
「あ…………」
「それで内臓をズタボロにしたんだ。貴様を案じてロウィーはずっと泣きっ放しだ」
そうだった。目覚めたばかりで頭が働いていなかった。僕はレスター・アークと彼の部下を殺す為に禁呪を詠唱したんだ。
ぼんやりとダンスホールでの戦いを思い出している僕へ、アルクナイトが嫌味を消した口調で尋ねた。
「……白、アンダー・ドラゴンの首領と戦ったこと、覚えてないのか?」
「大丈夫、今思い出したよ。うん、全部ね……」
僕は深呼吸をしてみた。痛みも詰まる感じも無い。若干のダルさが残るものの、身体は丁寧に治療を施されたようだ。
「キミが治してくれたのか?」
「いや治癒魔法をかけたのは明るい中年ルービックだ。アイツらAチームも街中に出動していたから、ローウェルの呼びかけに応じてすぐに合流できたそうだ」
「そっか……。師団長と次男猫くんにはお礼を言わないとね」
「明るい中年に会えるのは明日以降だな。聖騎士達はとっくに帰った」
言われて僕は壁時計を見た。8時52分。ランプを点けている今は夜の時間帯か。
「僕は……ずいぶんと長く眠っていたんだな」
「死にかけたんだから当然だ。命を拾えて幸運だったと思え」
「…………。僕を救ってくれたみんなには感謝する。だけど僕は許されないことをした」
「死の呪文を唱えたことに関しては気にするな。貴様はそれでロウィーを護ったのだ」
「護れてないよ……。ロックウィーナの手を汚させた」
「ああああ、うわあぁぁぁぁ!!!!」
号泣するユーリに抱きかかえられているレスターは、眠っているかのような表情で絶命していた。
これが国内最大の犯罪組織、アンダー・ドラゴン首領レスター・アークの最期であった。
今回の戦いで幹部連中もほぼ全滅しただろう。生き残った下っ端の構成員はまだ各地に散らばっているが、三下には大きな組織を維持できるだけの力が無い。事実上、アンダー・ドラゴンはこれで壊滅したのだ。
僕はそれを確認してから目を閉じた。馬車まで自力で歩くのは無理だな。それどころか意識を手放しそうだ。
「先輩!? 先輩、しっかり!」
あーあ、何だかこの後ロックウィーナに背負わされそうな予感がする。彼女を慰めたいのに。謝りたいのに。僕って本当にカッコ悪いなぁ。
勇者エリアスだったら剣技だけで敵を蹴散らしていただろう。魔王アルクナイトならば魔力切れも反動負けも起こらなかっただろう。
同じ特異体質なら彼らのようになりたかった。彼らのように胸を張って堂々と生きたかった。
今更どうしようもないことを嘆きながら、僕はしばしの眠りに落ちた。ロックウィーナの呼びかけとユーリの泣き声が遠くなっていった……。
☆☆☆
瞼を閉じると身体がゆっくり落下していく感覚に襲われる。下で待つのは光が射さない深淵。闇に沈んでいく。闇に呑まれてしまう。
子供の頃はそれが怖かった。眠るといつも嫌な夢を見てしまった。
両親を呼べば良かったのだろうが、僕のせいで日々疲労している彼らの眠りを妨げたくなかった。独りでベッドの中で身体を丸め、朝が早く来ることをひたすら願った。
でも本当は、母の温もりに包まれたかった。父の強さに頼りたかった。
……誰かが僕の手を握ってくれている。
ロックウィーナ……?
今の僕はもう闇を恐れていない。闇は僕の一部となった。
だというのに、僕は握られた手の優しさに縋りたくなった。そぉっと指を絡ませてこちらからも握り返した。
そして瞳を開けて、僕は寄り添ってくれている人物を見つめた。
「え」
目覚めた僕は咄嗟に状況判断ができずに狼狽えた。
(ええと……?)
僕はどうやらベッドに寝かされている。大きな室内ランプの灯りで確認できたのは見慣れた家具と壁紙。ここは冒険者ギルドの独身寮に在る僕の部屋だ。それはいい。
問題なのはベッドの傍で、イスに座った魔王が僕の手を握っていることだ。
「おおい!」
僕は跳ね起きた。動かした上半身が少し重く感じられた。
「何してんだよエロ魔王! どうしてキミが僕の手を握っている!?」
「貴様が悪夢でうなされていたからだ。気遣いのできる俺様が直々に元気づけてやったんだろーが」
魔王アルクナイトが不機嫌そうに片眉を上げた。僕は礼と共に反論した。
「それはどうもありがとう。でも恋人繋ぎはやり過ぎじゃないか?」
「指を絡めてきたのは貴様の方だ。俺だってこの状態が心底気色悪いわ」
僕達は絡み合った互いの指を解いた。大の男が二人で何をやっているのだろう。
「……ロックウィーナが握ってくれたと勘違いしたんだよ」
ぼやいた僕をアルクナイトが非難した。
「勝手なことを言うな。ロウィーの告白を断って遠ざけたのはキ・サ・マだ。それなのにアイツがここに居ないことを寂しく思うのか?」
……そうだね。身勝手な願望だ。
「可哀想にロウィーは今もまだ、独りおまえを心配して泣いているだろう」
魔王がロックウィーナをロウィーと呼ぶことがムカつく。まんま愛称だ。他の人間はワンコとかチャラ男とかヒゲとか呼ぶくせに。
しかしそれよりも聞き捨てならない事柄が有った。
「ロックウィーナが泣いているのか?」
「当たり前だろうが。ソルから聞いたぞ、貴様は禁呪を使用したそうだな。ロウィーの目の前で」
「あ…………」
「それで内臓をズタボロにしたんだ。貴様を案じてロウィーはずっと泣きっ放しだ」
そうだった。目覚めたばかりで頭が働いていなかった。僕はレスター・アークと彼の部下を殺す為に禁呪を詠唱したんだ。
ぼんやりとダンスホールでの戦いを思い出している僕へ、アルクナイトが嫌味を消した口調で尋ねた。
「……白、アンダー・ドラゴンの首領と戦ったこと、覚えてないのか?」
「大丈夫、今思い出したよ。うん、全部ね……」
僕は深呼吸をしてみた。痛みも詰まる感じも無い。若干のダルさが残るものの、身体は丁寧に治療を施されたようだ。
「キミが治してくれたのか?」
「いや治癒魔法をかけたのは明るい中年ルービックだ。アイツらAチームも街中に出動していたから、ローウェルの呼びかけに応じてすぐに合流できたそうだ」
「そっか……。師団長と次男猫くんにはお礼を言わないとね」
「明るい中年に会えるのは明日以降だな。聖騎士達はとっくに帰った」
言われて僕は壁時計を見た。8時52分。ランプを点けている今は夜の時間帯か。
「僕は……ずいぶんと長く眠っていたんだな」
「死にかけたんだから当然だ。命を拾えて幸運だったと思え」
「…………。僕を救ってくれたみんなには感謝する。だけど僕は許されないことをした」
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