ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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墜ちた者 這い上がる者(5)

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「ロックウィーナに殺人を決意させたことが問題なんだよ。彼女は人が死ぬ場面ではいつも後ろで震えていた」
「そうだな」
「なのに今回は僕がレスター・アークを討ち仕損じたから……、頼りない僕に代わって、ロックウィーナがその役目を遂行しようとしたんだ」
阿保あほう

 吐き捨てたアルクナイトは舌打ちのオマケも付けた。

「ユーリの話では、首領はもう戦える状態ではなかったそうじゃないか。ロウィーが急いでとどめを刺す必要なんてなかったんだよ。後から来たソル達に頼むなりすれば良かった。それに内臓をやられた首領は、おそらく放っておいても死んでいた」
「え、じゃあ何で彼女は……。ああ、緊迫した場面で混乱していたのか」
「白、貴様は滅多にお目にかかれない阿呆あほうベスト・オブ・ザ・イヤーだ」

 何かお洒落な言い回しで酷いことを言われた。

「ロウィーは正常思考だった」
「キミはあの場に居なかったじゃないか」
「見ていなくても行動で解る」
「?…………」

 腑に落ちない僕へアルクナイトはゆっくり告げた。

「ロウィーはな、貴様が行く所なら何処までも、何が遭っても付いていこうと覚悟を決めたんだよ。……例えそこが闇の底だろうとな」
「!」
「禁呪を使ったおまえを独りにしない為に、一緒にレスターを殺そうとしたんだ」

 僕の呼吸が激しくなった。身体を治してもらったはずなのに胸が強く痛む。

「何で、何でロックウィーナは……」

 混乱しているのは僕の方だった。理解が追い付かない。

「どうして僕なんかを選んだんだよ! どうしてわざわざ不幸な道を進もうとするんだ!? 僕が女だったら絶対にキミやエリアスさんを選んでいる!!」
「ああ、それにはまるっと同意だ。俺やエリーのようなイイ男を袖にするなどロウィーはどうかしている。俺とエリーには顔、身体、強さ、決断力、包容力に経済力、セクシーさにキュートさ、全てが備わっているのに」

 僕はそこまで褒めていないぞ、図々しいヤツ。
 アルクナイトは苦々しく笑った。

「それでもな、ロウィーが選んだのは貴様なんだよ」
「………………」
「人の心は理屈では語れないんだ。ロウィーにとって貴様と歩むことは不幸な道じゃないんだろう」
「………………」
「彼女は決めた。後は貴様次第だ。このままでいるか、這い上がるのか」
「どうして……」
「ん?」
「どうしてキミは、そんな風に親身になってくれるんだ。僕はキミの憎い恋敵だろう?」
「ロウィーを愛しているからだ」

 アルクナイトがキッパリと言い切った。

「彼女が幸せになること、それが俺にとっての幸せだ」
「……自分の恋が実らないとしても?」
「そうだ。貴様だってロウィーに告られた時、身を引いて俺に託そうとしたじゃないか」
「ああ……そうか、そういうことなんだ…………」

 ロックウィーナに笑顔でいて欲しい。充実した生活を送って欲しい。幸せになって欲しい。
 それが僕の望みだ。でも僕には彼女を幸せにできる自信が無い。だから他の男との恋を応援してしまった。

 ロックウィーナは僕を好きなのに。

 彼女の幸せを願いながら、最も大切にしなくちゃならない彼女の気持ちをないがしろにしている。
 僕はなんて馬鹿なんだ。

「!?」

 不意にアルクナイトの手の平が僕の頭の上に乗った。そして左右に滑らかに動く。……これはもしや頭を撫《な》でられているのか?

「何してんの? 魔王」
「貴様が泣きそうだったのでヨシヨシしている」
「あのさぁ、僕はもう少しで30歳なんだけど?」
「それがどうした。俺から見たら赤子も同然だ」
「そりゃ、キミの基準ならね……」

 年齢は岩見鈴音が作った設定で、本当は僕達みんな生まれてから数ヶ月なんだっけ。でも魔王の言動には悔しいけれど、設定とは思えない成熟した大人の深みを感じる。温かさも。

「白、貴様はガキの頃からあまり大人に甘えてこなかっただろう?」
「!」

 言い当てられてドキリとした。
 僕は人との……特に肌の接触が怖くて、つい距離を取ってしまう癖が有った。両親やケイシーともスキンシップはほとんど無かったな。

「いくつだろうが関係無い。余裕が無い時は周囲に頼って甘えろ」

 不思議とアルクナイトに触れられても嫌悪感が無い。むしろ心地良い。
 
「もしもこの先、這い上がれずに行き場が無くなったら魔王軍に入ればいい。みんな訳あり連中だ」

 おいおい。至れり尽くせりじゃないか。

「ふふっ、転職先を用意してくれるなんて親切にも程がある。世界を恐怖におとしいれた魔王が何やってんのさ?」
「最近はリクルートにも力を入れている」
「まったく……。何処まで本気で何処から悪ふざけなんだか」

 憎まれ口をきいていないと涙が出そうになる。彼の前では泣きたくない。負けた気分になる。
 だというのにアルクナイトは発したのだ。とどめの一言を。

「貴様は独りじゃない。それだけ覚えておけ」

 あーあ、ついに僕の目から涙がこぼれ落ちた。いい歳した男を泣かせんなって。
 そんなだからキミのことが嫌いなんだよ。馬鹿魔王が。

「……ちょっと気になるんだけど、何で今は彼女をロウィーと呼んでいるんだ? みんなの前ではロックウィーナ呼びだろう?」
「普段からロウィーと愛称で呼びたいんだが、エリーが何かと突っかかってくるんだ。嫉妬しているんだろうな。アイツのこともちゃんとエリーと可愛く呼んでやっているのに」

 エリアスの嫉妬の意味合いが違う気がする。やっぱりズレてるなこの魔王は。どれだけ自分に自信が有るんだか。
 僕は笑って、もう一粒涙を落とした。
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