ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
253 / 291

急接近(1)

しおりを挟む
 キースに逢いたい。
 戦場の緊迫した声ではなく、日常の優しい声でロックウィーナと呼んでもらいたい。
 彼の治療に当たったルービックいわくもう大丈夫とのことだが、それでも体調はどうなのか気になる。だって昼間、真っ白な顔で苦しそうに血を吐いていたんだもん。

(顔色だけでも確認したい。だけど女が男性の部屋に押しかけたら恋人みたいだよね……)

 現在のキースは私とは同僚関係、それ以上の付き合いをしないと名言している。部屋まで見舞いに行くのはその域を超えてしまうのかセーフなのか。
 誰かを誘って複数人になれば良いのでは……? でも具合が悪くて休んでいる人の元へ、何人もで連れ立って訪問するのは非常識かな。ガヤガヤしたら寝ていられないよね。
 判断がつかない私は、独身寮の共有スペースである水場と廊下を行ったり来たりしていた。目覚めたキースが部屋から出てこないかな~とほのかな期待を胸に抱いて。偶然の出会い(風)なら咎められまい。

「あ」

 部屋から出てきたのはアルクナイトだった。ヤツは廊下にたたずむ私を憐れむ目で一瞥いちべつした後、キースの部屋へと入っていった。
 いいな~。同性は堂々と部屋に入れて。魔王に嫉妬する日が来るとはね。
 アルクナイトにキースの様子がどうだったか聞こうと思い、十分間ほど廊下で無駄にウロウロしながら待っていたのだが、魔王はキースの部屋からなかなか出てこなかった。何をしているんだろう。
 あまりに長く廊下に滞在していると不審者になってしまう。私は場所を移動することにした。

(食堂でお茶でも飲もうかな)

 たぶん今の時間は20時50分くらい。遅番の料理人達も帰っている時刻だが、残ったスープとお茶に関しては火を入れて勝手に飲んでも良いことになっている。
 一階に降りた所で既に自分が歯を磨いた後だったことを思い出した。まぁいいか、もう一度磨けばいいんだよ。水場をうろつく理由ができるし。
 私がカウンターで紅茶にしようかコーヒーにしようか迷っていると、黒猫の一匹を抱いたソルとユーリも食堂へ姿を現した。

「ユーリ。もう動き回れるようになったんだね!」

 支え無しでスイスイ歩くユーリを見て私は安堵した。

「怪我はとっくに良くなってたよ。師団長に念の為、夜まで安静にしろと言われたから今まで寝てたんだ。んで腹いたからソルさん誘って降りてきたワケ」

 話し方も表情も明るい。レスター・アークのことを吹っ切るなんて今は到底できないだろうけど、ユーリは前に進もうとしている。生きようとしている。

「今日のスープはポトフで具沢山だよ。今温める」
「すまないがコイツの分もくれるか? 私はいいから」

 ソルが脇に抱えた黒猫を指した。さては食いしん坊の三男だな。
 私は温めたスープを二皿分用意して、カウンター近くの席に座った彼らの元へ持っていった。

「私はお茶を飲むんだけどソルもどう? コーヒーか紅茶しかないけど」
「……紅茶を頼む」
「OK」

 紅茶を淹れてテーブルへ戻ると、黒猫がベロを出してソルに冷気で冷やしてもらっていた。熱々のスープで猫舌がやられたな。

「ありがとな、ロックウィーナ」

 ユーリが自分の隣のイスを引いてくれたのでそこへ腰かけた。

「しっかし治癒魔法って凄いんだな。東国は魔法技術が発展してなくて術師が少ないんだよ。あの深い傷が短時間で完全に塞がるなんてさぁ」
「あの男……ルービックが特別に優れているんだ。あれほどの治癒力を持つ者はそうそう居ない」

 ルービックは自分の傷も自動回復しちゃうくらいだもんね。

「見ろよ、うっすら赤い痕が残っているだけだ」

 ユーリが上着をめくって上半身の肌を披露した。完治したことを見せたかったのだろうが、筋肉を愛する私は大胸筋と腹筋に目が釘付けとなった。忍びの彼も鍛えていて良い肉体を持っている。
 そして気づいた。私、普通にユーリの生のお乳を見てしまっている!

(うひゃあ!)

 魔王で肝心の部分は隠しているのに。ちなみにルパートのお乳は見たことが有る。以前の彼は遠慮が無くて、私の前でポンポン服を脱いで着替えていたから。
 ところで男性の場合はっぱいと呼ぶのでしょうか。脳内でエロい妄想が始まりそうになったので、私は慌ててユーリの裸体から目をらした。

「ユーリ、肌を隠せ。ロックウィーナが目のやり場に困っている」
「おおっと」

 ソルに注意されたユーリは服を正した。ソルってば国家反逆罪を犯したとは思えない良識人。

「わりぃなロックウィーナ。男の裸に免疫が無いおまえに見せちまって。マキアに聞いたんだけど、男との交際経験自体が無いんだって?」

 マキア、あの野郎。私のデリケートな秘密をバラしたんかい。

「おまえはイイ女なのにな。世の男どもは見る目が無いな」

 今度はユーリにじっと見つめられて戸惑った。しかもイイ女って……、妙に持ち上げられちゃってる。動揺を隠したい私はわざと嫌味で返した。

「私のことは、ちょっと可愛いと思う程度で興味対象外じゃなかったの?」
「まーな、もうちょっとキリッとした顔立ちが俺の好みだな。でも……」

 ユーリの顔から笑みが消え、真剣な顔つきとなった。

「昼間のおまえは、最高に綺麗だった」

 え。
 丸くした私の瞳をユーリが覗き込む。

「キースさんの為に頑張ったな」
「あ…………」

 幹部やレスターへ剣を向けた時のことか。キースが独りで遠くへ行ってしまいそうで、何とか繋ぎ止めたかった私は自分も手を汚すことを選んだ。
 あの行動が正しかったのか間違っていたのかは判らない。

「覚悟を決めた人間は表情も立ち姿も美しい。おまえのその覚悟が、他の男の為だってのが悔しいけどな」

 ちょっとねぇ、意味深な言い回しをしないでよ。迂闊うかつにもドキッとしちゃったじゃない。

「ユーリ、褒めてくれたのは嬉しいけど真顔で言わない方がいいよ? はたから見たら口説いていると勘違いされるかもだから」
「口説いてるんだけど?」
「え」

 あっさり認めたユーリは依然として私を見つめていた。

「おいユーリ、悪ふざけはよせ。ロックウィーナにこの手の冗談は毒だ」
「俺は至って真面目だよ、ソルさん」

 ソルに止められてもユーリは動じなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...