ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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急接近(2)

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「あの……待ってよユーリ、展開が早過ぎない?」
「俺達忍びはいつ死ぬか判らん身の上だからな。心を決めたらすぐに行動する」

 ああー、そう言えばエンも行動に移すのが早かったよ! アレは忍者の習性だったのか!
 何て考察する間もなく、ユーリの顔が斜めに近付いてきた。これはもしかしなくてもキス!?

(それは駄目ぇ!!!!)

 既にルパートとエンと魔王にキスを許してしまっている私だが(けっこう多いな!)、キースへの恋心に気づいた今は他の男を受け付けない。肌は絶対に守ってみせる。
 両手で自分の口元を覆いユーリのキスをシャットアウトした。

「………………」

 ふぅ間に合ったぜ。
 ユーリは白けた目で私を見たが、怒るまではいっていないようだ。

「俺にキスされるの、嫌か?」
「あなたがどうこうではなくて、キース先輩以外にされたくないの」

 ユーリはここで、いつものからかうような笑顔に戻った。

「だってさ、キースさん」
「へ?」

 ユーリが私の背後へ目線をずらしたので追ってみたら……うきゃあああ!! いつの間にか食堂にキースが来ていたよ!
 逢いたかったけど今じゃない! よりにもよって何でこのタイミングで!?

「き、キース先輩、お身体の具合はいかがデスカ?」

 咄嗟にお見舞いの言葉が出たが声が裏返った。キースが寝込んでいる間に他の男と急接近。キースの中で私の印象がきっと凄く悪くなった。ユーリこん畜生め。

「………………」

 キースは少しの間、黙って私とユーリを見比べていた。このが怖いです。

「……僕の身体ならもう大丈夫だよ。お節介な魔王に、何か腹に入れておけと言われたから食堂へ来たんだ」
「流石は我が王。お優しい方だ」

 キースが口をきいてくれたので取り敢えずホッとした。アルクナイトがいヤツだということはもう解っているから驚かない。

「キース先輩、スープを用意しますね!」
「ああ、頼むよ……」

 私がカウンターへ向かうのと同時に、キースも私達が飲食しているテーブルの席に着いたのだが、

「ユーリ、キミはロックウィーナが拒まなかったらあのままキスしてたろ?」
「さぁて?」

 とっても不穏な会話が後ろから聞こえた。聞こえなかった振りをした。ユーリの考えが判らなかった。

 その後の会食では当たり障りのないお喋りが展開された。
 キースとユーリは今日お互いに無茶をしたなと苦笑し合い、ソルは黒猫の世話に勤しみ、私はというと焦って明日の天気について話していた。雨が降ろうがどうでもいいわ。
 私とユーリの寸前ちゅーの話題があれっきり出なくなったのは助かったが、同時に少し寂しくもあった。
 キースに焼いて欲しいと思うのは贅沢な望みなのかな……?


☆☆☆


 自分的に非常に疲れた会食を済ませて私は自室へ戻った。キースとユーリが回復したことを確認できた点については良かった。
 ……大変な一日だったな。ベッドに寝転んで今日という日を思い返してみた。

 次男猫のテレパシーで駆け付けてくれたAチームは、私達Bチームの酷い状態を見て心底驚いていた。
 吐血して意識を無くしたキース。彼にすがり付き泣く私。絶命したレスターの傍でソルから応急手当をほどこされながら、魂が抜けたようなうつろな表情となっていたユーリ。
 ルービックはまず、身体の内側をやられたキースへ治癒魔法をかけてくれた。それから止血されていたユーリにも。二人分の治療を終えたルービックは汗を掻き呼吸を乱していた。相当分の魔力を必要としたのだろう。並の術師だったら二人の内どちらかが手遅れとなっていたかもしれない。

 実は私も仲間達から心配されていた。
 キースの禁呪の痕跡を消す為に私がしたことを、ユーリがみんなに話して聞かせたのだ。「ロックウィーナの精神は限界に近い」と。自分こそレスターを失って深く傷付いていただろうに。
 結果、帰りの馬車からギルドで夕食を終えるまでの時間、私の近くには常に誰かが居ていろいろと世話をしてくれた。後から合流したCチームにも話が伝わり、私の周囲は更に賑やかとなった。独りで居たら暗い思考となっていただろうから、みんなには心から感謝している。
 机の上に乗った小物もその一環だ。私への見舞い品として、鈴音とマキアとエンが紙で折って作ってくれたのだ。鈴音は鶴と言う鳥。マキアは少し歪んでしまったが花。エンはどう折ったのか解らない超リアルな狼。

(本当に一枚の紙でどうやって折ったのよ、コレ)

 エンの複雑怪奇な狼を手に取って観察していると、部屋の扉が三回ノックされた。また誰かが訪ねて来てくれたようだ。ただしもう22時近い。鈴音ならいいけれど、男性ならたとえ複数人でも廊下で話そう。

「はい。どなたですか?」
「……僕だよ」
「!」

 扉の向こうに居たのはキースだった。「ふおぉっ」と声が出そうになった。
 すぐに扉を開けたら彼独りだけだった。

「………………」

 キースは気まずそうにたたずんでいる。だよね。真面目な彼はである女性の部屋の扉を、こんな遅い時刻に叩いたりしない。

「あの……どう」

 「どうかしましたか」と言いかけて私はやめた。そう聞いたらキースは用件だけ告げて去ってしまうだろうから。だんだん計算高くなっていく私。
 言葉を変えちゃいましょう。

「どうぞ、中へ」

 できるだけ普通に、ぎこちないながらも笑顔を作って自室に招いた私へ、キースが驚きの目を向けた。うん、我ながら大胆だよね。
 もうね、迷うのもウジウジ悩むのも嫌なんだ。「強くあれ」とルービックに言われた。そうなりたいよ。キースが私に頼れるくらいのたくましさが欲しい。

「……お邪魔します」

 やった!! 迷う素振りを見せたがキースが部屋に入ってくれたよー! 第一段階突破あぁぁ!!
 私はキースにイスを勧め、扉を閉めて内鍵を…………かけたかったけど我慢した。キースを軟禁するみたいになっちゃうからね。誰も来ませんように。
 イスが一脚しか無いので私はベッドに腰かけた。どきどきどき。
 私は緊張して、キースは何やら考え込んでいて、しばし私達はお互いを見るだけで言葉を発せられなかった。

「……ロックウィーナ」

 口火を切ったのはキースの方だった。

「は、はい」
「キミは大丈夫なのか……?」
「はい……?」

 質問の意図が判らないが身体に不調が無いので頷いた。キースは険しい表情をしている。

「今日は僕のせいで、キミにずいぶんと負担をかけてしまったね」

 あ、そのことか。負担が大きかったのはキースの方なのにな。ユーリもそうだけど、まずは自分のことを考えなきゃ駄目だよ?
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