ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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急接近(3)

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「……私は先輩に護ってもらいました。私なら大丈夫です」
「護り切れずに……キミに哀しい想いをさせた。ずっと泣いているんじゃないかって気になって……。食堂ではそこら辺を聞けなかったから」

 それを確認する為にわざわざ訪ねてくれたんだ。キースも私を心配していたんだね、嬉しくてそれこそ泣きそうだ。
 キースを安心させなくちゃ。

「確かに先輩が倒れた時は怖くて泣いてしまいました……。でもルービック師団長を始めとしたみんなが、キース先輩もユーリも絶対に治る、大丈夫だって何度も念押ししてくれたので、昼以降は泣かずに済みました」
「………………。何がロックウィーナが泣きっ放しだよ、クソ魔王が」

 小さい声でキースが誰かに文句を言った。

「先輩?」
「いや、こっちの話。泣いてないならそれでいいんだ」

 キースが納得してくれたのは良いが、何だか話がもう終わってしまいそうだ。まだお帰りは早いですよ先輩。

「でも! それでもやっぱり心配でした」

 私は話を引き延ばすことにした。功を奏したようでキースがイスから立ち上がる気配は無い。しめしめ。

「途中で容体が悪化したらどうしようかって……、そればっかり考えて……」

 これは本当だ。伝わったようでキースが謝罪した。

「ごめんね」

 うーん、責めたい訳じゃなく、ただ穏やかに二人で一緒の時間を過ごしたいだけなんだよね。会話の軌道修正をしよう。

「だから、食堂で元気そうな先輩とユーリに会えて安心したんです。良かったって」

 明るい話題に持っていこうとしたのだがキースがうつむいた。

「うん。そう……ユーリ……ね」

 彼の声のトーンが変わった。マズイこと言っちゃったのかな?
 キースはふぅ────っと、長い長い溜め息を吐いた。

「自分の未熟さが嫌になる」

 そして頭を左右にフルフルした。前髪が揺れて、普段隠している整った顔が露わとなった。危ない、瞳を見ないように私は視線の向きを調節した。

「キミに普通の同僚関係に戻ろうと言っておきながら、他の男がキミに接近すると苛ついてしまう」

 お。

「くだらない嫉妬心すら消せない僕に、偉そうにどうこう言う資格なんて無かったんだ」

 おおおおお! キースがヤキモチを焼いてくれている!?
 私にしてみたら待ってましたの展開なんだけど、キースのテンションが低いので私も表面上はしんみりしてみた。

「私は……、嫉妬してもらえて嬉しいですけど……」

 でも伝えたいことはしっかり伝えた。
 するとキースがイスから立ち上がり、ベッドに座る私の元へ歩み寄ったのだ。
 え、あ? キース?
 どうする? これからどうなる?
 大きな期待とちょっぴりの不安で心臓の鼓動が早くなった私。キースが身を屈めて囁いた。

「……怖いだろう?」

 うっはあぁぁぁ! ストレートに来た!! 怖いけど、怖いけどさ……!

「キース先輩になら、何をされても構いません!!!!」

 私は本音で叫んだ。

「……………………」
「…………?」
「……………………」

 私の魂のシャウトを聞いたキースが固まってしまった。…………あら?
 ややあって、漸《ようや》くキースがこたえてくれた。

「いやあの、死体を刺したことでキミが怖がっているんじゃないかって……」

 申し訳なさそうにキースが説明した。
 そっちか──────い!!!!!!
 私は後ろ、ベッドに倒れて勘違いした恥ずかしさで身悶えた。

「嫌ぁ──!! 今のは忘れて下さーい! 時よ戻れ──!!」
「落ち着きなよ、ロックウィーナ」
「落ち着けません、私と言う人間が恥ずかし過ぎて消えてしまいたい!」
「キミが消えたら僕が困る。こっちを向いて」

 ベッドへ身を乗り出したキースはまだ顔が露出していた。

「先輩、駄目っ、両目とも出ちゃってます!」
「ああ……」

 キースは前髪を指でいじった。

「そうだね。ならちょっとまぶたを閉じていて」

 言われた通りに私は目を閉じて息を整えようとした。なのにギシッとベッドがきしみ、私以外の誰かの体重が乗ったことを知らせたのだ。
 誰かって…………一人しか居ない。

「先ぱ……」
「駄目だよ、目を開けちゃ」

 すぐ傍でキースの声がした。目を閉じ直した私の頬に優しく指が触れた。

(キース先輩……!)

 その時が来たのだと、私はベッドに沈む感覚に囚われながら暗闇でキースの来訪を待った。

(あ…………)

 始めはかすかに、そしてゆっくりと私の唇にキースの唇が重なった。
 それは決して乱暴にはしない、私を優しく包み込む彼らしいキスだった。

「……キミは馬鹿だ」

 一度唇を離してから、まぶたを閉じたままの私へキースは言った。

「僕と一緒に歩もうなんて。そんな覚悟をしてしまうなんて」

 彼の指先で私の唇がなぞられた。身体が熱くなる。

「でも僕はもうキミを離さない。キミが嫌だと言っても逃がさない」

 宣言した彼へ私も宣誓した。

「望むところ……です。あなたに一生付きまとって、私があなたを幸せにしてみせます」

 暗闇の中に居る私には見えていないが、キースが笑った気がした。
 そして再度キースの唇が私と重なった。今度は強く抱きしめられながらのキス。私は彼に全てを委ね、全てを許そうと決めた。
 しかし十数秒後、キースは私から離れてしまったのだった。

(んんん?)

 久し振りにまぶたを開けると、前髪を直した彼がベッドから立ち上がる所だった。

「もう遅いから自分の部屋へ戻るよ。おやすみ」

 キースは笑顔を向けてくれたが、私には拷問に等しい行動だった。

「きょ、今日はここで終わりなんですか……? ええ……? 私……」

 身体が火照ほてっちゃいましたとは流石に言えなかった。そこまで暴露したら今度こそ恥ずかしさで死ねる。
 だが私の潤んだ瞳で察したようで、キースは心底すまなそうに述べた。

「ごめん……。男としては期待にこたえたいんだけど、今日は体力的に限界なんだ。この先へは……」

 あああああ! そうだこの人は昼間、死にかけたんだった!!

「すみません! 私が先輩にとどめを刺す所でした!」

 我に返った私はベッドの上で土下座した。好きな相手との甘い初キスの後で何をしているんだか。
 キースも苦笑していた。

「今日はお互いゆっくり休もう」
「はい……」
「また明日。本当にごめんね」

 もう一度謝ってから、キースは静かに私の部屋を出ていった。
 残されたのは羞恥心。魅了された訳じゃないのに、私はしばし独りでベッドの上を転がっていた。
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