ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
260 / 291

存在する限り(5)

しおりを挟む
 マシューが神妙な面持ちで述べた。

「はい。拳闘士達が中心となり、霧の巨人の侵攻を止めようと勇敢に戦ってくれたそうです。彼らの活躍のおかげでわずかですが住人が生きて街から脱出、王都へ危機を知らせることができたのです」
「───クソッ!」

 マスターは腕組みをして押し黙ってしまった。
 逃げられたのは馬を扱える独り身の大人だけだろう。おそらく家族を持つ者は脱出が間に合わずに殺された。老人、子供の区別なく。その中にはエルダの親族や親しかった友人も居ただろう。
 想像して哀しくなった私達。マシューは話し続けた。

「霧の巨人が移動することを想定して、ティンガロの南方に位置する王都は厳戒態勢に入りました。国内の兵士が集められて王都の警備が強化されています」

 えっ、でもそれだと地方の街や村の警備が手薄になるよね?
 …………仕方が無いか。王家と中央議会を失ったら国は大混乱におちいるもんな。
 同じことを考えたのか皆も暗い表情となったが、魔王アルクナイトは毅然きぜんとしていた。

「非常時に政府の重鎮じゅうちんを分散させるのは基本だが、王弟は何処へ疎開するんだ?」

 あっ、殿下の疎開……。マシューはそんなことも言っていたな。
 考えたくはないけれど、王都が陥落する可能性だって有る訳だ。そうなった時に国王陛下に代わって国の舵を取る人物を、離れた場所にあらかじめ避難させておかないとだもんね。

「王弟殿下の疎開先は、俺達が居るこのフィースノーの街です」
「えっ、ここ!?」

 私は驚いて思わず声を出してしまった。アルクナイトが平然と聞き返す。

「自給自足ができる大きな街で、師団長の明るい中年がちょうど滞在しているからか?」
「そうです。そして騎士団副団長である俺の叔父の故郷でもありますので、受け入れ態勢が整っているんですよ。王弟殿下は現在、叔父が指揮する第二師団と俺達が所属する第七師団に護られて、フィースノーへ向かっている途中です。何事も無ければ今夜中に到着されるでしょう」

 仲良くなった第七師団のミラとマリナ……。彼女達も一緒だよね? こんな形で再会することになるなんて。

「王弟が到着した後にフィースノーの街も結界を張り、外界との交流を遮断することになるんだな?」
「……そうなります」

 フィースノーは街中に農場や工場が在るので、当面の間は物資に困ることが無いだろう。だけど……。

「じゃあ、他の街や村から避難民が来た場合はどうなるんですか!?」

 マキアが血相を変えて質問というより抗議をした。マシューは眉間にしわを寄せて答えた。

「避難民は受け入れられない。王弟殿下と街の防衛が最優先だ」

 キッパリと言われて、マキアはテーブルの上に置いたこぶしをギュッと握った。相棒のエンが彼を慰める。

「レクセンも大きな街だ。きっと大丈夫……」

 マキアの両親と弟妹は隣街のレクセンで暮らしている。街の規模はフィースノーと同程度だが、二個師団が応援に来てくれるフィースノーと違い、レクセンは駐在していた王国兵士が王都へ引き上げてしまっている。街の自警団だけでどこまで霧と戦えるか……。
 私の故郷エザリはもっと悲惨だ。戦える人間も医師もろくに居ない。ルパートの故郷も小さな村だと聞いた。

 私達が持つ家族との記憶は鈴音が作った設定らしい。それでも両親や姉のことを考えると胸が締め付けられる。無事でいて欲しいと願う。

 こうして心配できるだけ私はまだ幸せなのかもしれない。ラグゼリア王国以外の国は既に霧に呑まれて消滅している。エンとユーリの出身地・東国はもう存在していないのだ。

「ごめん……ごめんなさい……」

 鈴音が震えるだけでなく泣いていた。

「私のせいで世界が無くなる……、みんな死んじゃう…………」

 鈴音は女神の力を失ったことを嘆いているのだろうか。

「スズネ、それは違う。世界の存続については、この世界に生きる全ての者が関わり、責任を持たなければならない問題なんだ」

 エリアスが宣言した。

「私は最後の一人となっても戦うと誓う。この身がこの世界に存在する限り」

 凛としたエリアスの眼差しと言葉には力が有った。家系とか関係なく、彼は勇者なのだと思い知った。

「俺も戦うぞ。自我を得てようやく生きていると実感できたのに消えてたまるか」

 アルクナイトが銀の髪を掻き上げてエリアスに続いた。ナルシストな動作だが魔王がやるとさまになる。

「どうしてあなた達はそんなにも強いの……? エリアスさんも魔王も自分達の領地が心配でしょう? 帰らなくてもいいの?」

 鈴音が涙と鼻水を垂らしながら聞いた。エリアスは彼女を威圧しないように優しく言った。

「もちろん心配だよ。だが私はフィースノーに留まる」
「どうして? あなたの好きなロックウィーナがここに居るから?」

 エリアスは軽く笑った。

「それも有る。だがそれ以上に、フィースノーが小説の中心舞台だからだ。ここを守り切れば世界がボロボロになったとしてもきっと立て直せる。世界が新たに聖騎士達を新しいキャラクターとして生み出したように、世界の核さえ残れば犠牲となった人々も復活できるかもしれない」
「あ…………!」

 みんながうつむきがちだった顔を上げた。リリアナが明るい声を出した。

「そうか! 小説の世界の理不尽さに腹を立てることも有ったけれど、小説だからこそ奇跡を起こせるかもしれないんですね!!」
「エリーと女装男の言う通りだ。そして俺達は既に一度奇跡を起こしている」

 魔王の言葉を受けてルパートが不適に笑った。

「ああ、自分の意志で世界に反抗して、時間のループをぶっ壊したんだもんな。今度だってやってやるさ」

 うん、立ち向かおう。落ち込む暇が有ったら何ができるか考えよう。
 会議室に活気が戻り、知らせを持ってきたマシューもようやく微笑んだ。
 鈴音だけは、なかなか泣き止まなかったけれど……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...