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存在する限り(4)
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「諦めろ。ロックウィーナが心を決め、白が受け入れた時点でもう勝ち目は無い。これからは仲間の恋を温かい目で応援してやるんだな」
アルクナイトに諭されて、男達は渋々ながらも大人しくなった。もちろんそう簡単に吹っ切れないだろう、私も失恋経験者だから気持ちは解る。本当にごめんなさい。
モテない時は複数の男性に告白される立場に憧れていたけれど、実際になってみると罪悪感が半端ない。モテる私スゴイ☆とはならないもんだね。
ソルが意気消沈しているルパートへ別の話題を切り出した。
「今日の出動班はどう行動するんだ?」
「あー、アンドラの残党狩りになるなぁ。もう三下しか残っていないが、ヤケを起こして暴れられたら面倒だから潰しておく。ただし昨日激しい戦闘となったBチームは休みだ。今日は残って英気を養ってくれ」
「俺は行けるぞ?」
ユーリが反発したがルパートは許さなかった。
「駄目だ。特におまえは絶対に休め。ギルド職員となったからには、主任の俺の決定に従ってもらう」
「……了解」
私もユーリは休んだ方がいいと思う。彼は明るく振る舞っているが、どことなく無理をしている感じがする。
あれだけ慕っていたレスター・アークの死はしばらく重く圧し掛かるだろう。私に手を出したのも精神的に不安定だからかもしれない。
「聖騎士達の到着を待って、AチームとCチームが出動する」
ルパートがそう指示を出したが、結局この日は全員がギルドに留まる事態となった。
昼過ぎに独りギルドを訪れたマシューが、とんでもない情報をもたらしたからである。
☆☆☆
13時17分、冒険者ギルド会議室は不穏な空気に包まれていた。
出動班A・B・Cチームの全員、そしてギルドマスターやリリアナも業務から離れて一堂に会した。受付に現れた切羽詰まった表情のマシューが、「世界の危機を知っているメンバーを揃えてくれ」とリリアナに要望したからである。
「さてマシュー中隊長、説明をお願いできますかな?」
全員の着席を確認したマスターがマシューを促した。マシューはテーブルに置かれた自分用のコップに口を付け、水を一口飲んでから話した。
「……北の国境近くの街、ティンガロが壊滅したそうです」
それは恐ろしい報告だった。
「今朝方、王都から早馬が我がエディオン家に来て、ティンガロの陥落と王弟殿下の疎開を知らされました」
「な……!」
豪胆であるはずのマスターが目を剥いた。
「ティンガロが壊滅!? まさか国境から人喰い霧が街まで流れ込んできたとか……?」
「そのまさかです」
恐れていた事態が起きてしまった。ついに霧が国内へ入ってしまった。
「そんな、治安を正して人々を安心させれば霧は晴れるのですよね? アンダー・ドラゴンの件がほぼ片付いたというのに!」
「自分にもよく判りません。アンダー・ドラゴンの解決が間に合わなかったのかも……」
「いや、そもそも読み違いをしていた可能性が有る」
アルクナイトが苦々しく発言した。
「霧は不安定な世界の象徴だと推測していた。だから世界を安定させるべきだと思ったのだが、俺のこの考えが根本的に間違っていたとしたら……」
そんな。原因が他に有ったということ? じゃあどうしたらいいの?
私は一つの街が無くなった事実に慄いたが、エリアスは冷静だった。
「まずは状況を正確に知ろう。中隊長、ティンガロの街が滅んだ詳しい過程は判明しているのか?」
「ええ。命からがら逃れることができた住人が居たそうで、王都に辿り着いた彼らが詳細を話してくれました」
「聞かせてくれ」
私の隣の席で鈴音が震えている。怖いよね、私もだ。
「国境の兵士消失事件を受けて、ティンガロは街全体を術者の結界魔法で囲っていたそうです」
防御障壁魔法か。キースが得意なやつだな。
もっとも術者が何十人集まったところで、二十四時間体制で街を覆う規模の魔法は放ち続けられないので、魔力の増幅と術を継続固定できる強力な装置を使用したはずだ。だいぶ効果は落ちるが、冒険者ギルドで温水を供給してくれている魔道ボイラーもその類いである。
「ティンガロはそのおかげで数日間は平穏でした。霧だった状態の時は、結界で充分に防げていたんです」
「ん? 霧だった時?」
「はい。霧が変化したのです。街に入れなかった霧は一ヶ所に集まって濃くなり、そしてそこから十数体の巨人の兵士が誕生したそうです」
「何だと…………?」
会議室がザワめいた。
「背の丈が三メートルほどの兵士達は実体を持ち、それぞれが持つ武器で結界を破壊しました。それから街へ入り、住人達を虐殺したのです」
「霧に呑まれたのではなく、物理的に街は破壊されたのか?」
「そうらしいのです」
「馬鹿な! ティンガロは屈強な拳闘士達が集う街だ! そう簡単にやられる訳がない!!」
マスターが怒りに任せて会議室のテーブルをバン!と叩いた。同時に闘気が拡散されて室内に居る者の肌をビリビリ刺激した。
キースが小さな声でみんなに教えてくれた。
「ティンガロはエルダの故郷で、二人が初めて会った街だ。ケイシーにとっても思い入れの有る土地なんだよ」
ああ、以前稽古をつけてくれたマスターから聞いたことが有るな。私は行ったことが無いが、ティンガロには大きなコロシアムが在って、マスターの妻エルダはそこで活躍していた拳闘士だったと。エルダの技はマスターを経由して私へ伝えられている。
アルクナイトに諭されて、男達は渋々ながらも大人しくなった。もちろんそう簡単に吹っ切れないだろう、私も失恋経験者だから気持ちは解る。本当にごめんなさい。
モテない時は複数の男性に告白される立場に憧れていたけれど、実際になってみると罪悪感が半端ない。モテる私スゴイ☆とはならないもんだね。
ソルが意気消沈しているルパートへ別の話題を切り出した。
「今日の出動班はどう行動するんだ?」
「あー、アンドラの残党狩りになるなぁ。もう三下しか残っていないが、ヤケを起こして暴れられたら面倒だから潰しておく。ただし昨日激しい戦闘となったBチームは休みだ。今日は残って英気を養ってくれ」
「俺は行けるぞ?」
ユーリが反発したがルパートは許さなかった。
「駄目だ。特におまえは絶対に休め。ギルド職員となったからには、主任の俺の決定に従ってもらう」
「……了解」
私もユーリは休んだ方がいいと思う。彼は明るく振る舞っているが、どことなく無理をしている感じがする。
あれだけ慕っていたレスター・アークの死はしばらく重く圧し掛かるだろう。私に手を出したのも精神的に不安定だからかもしれない。
「聖騎士達の到着を待って、AチームとCチームが出動する」
ルパートがそう指示を出したが、結局この日は全員がギルドに留まる事態となった。
昼過ぎに独りギルドを訪れたマシューが、とんでもない情報をもたらしたからである。
☆☆☆
13時17分、冒険者ギルド会議室は不穏な空気に包まれていた。
出動班A・B・Cチームの全員、そしてギルドマスターやリリアナも業務から離れて一堂に会した。受付に現れた切羽詰まった表情のマシューが、「世界の危機を知っているメンバーを揃えてくれ」とリリアナに要望したからである。
「さてマシュー中隊長、説明をお願いできますかな?」
全員の着席を確認したマスターがマシューを促した。マシューはテーブルに置かれた自分用のコップに口を付け、水を一口飲んでから話した。
「……北の国境近くの街、ティンガロが壊滅したそうです」
それは恐ろしい報告だった。
「今朝方、王都から早馬が我がエディオン家に来て、ティンガロの陥落と王弟殿下の疎開を知らされました」
「な……!」
豪胆であるはずのマスターが目を剥いた。
「ティンガロが壊滅!? まさか国境から人喰い霧が街まで流れ込んできたとか……?」
「そのまさかです」
恐れていた事態が起きてしまった。ついに霧が国内へ入ってしまった。
「そんな、治安を正して人々を安心させれば霧は晴れるのですよね? アンダー・ドラゴンの件がほぼ片付いたというのに!」
「自分にもよく判りません。アンダー・ドラゴンの解決が間に合わなかったのかも……」
「いや、そもそも読み違いをしていた可能性が有る」
アルクナイトが苦々しく発言した。
「霧は不安定な世界の象徴だと推測していた。だから世界を安定させるべきだと思ったのだが、俺のこの考えが根本的に間違っていたとしたら……」
そんな。原因が他に有ったということ? じゃあどうしたらいいの?
私は一つの街が無くなった事実に慄いたが、エリアスは冷静だった。
「まずは状況を正確に知ろう。中隊長、ティンガロの街が滅んだ詳しい過程は判明しているのか?」
「ええ。命からがら逃れることができた住人が居たそうで、王都に辿り着いた彼らが詳細を話してくれました」
「聞かせてくれ」
私の隣の席で鈴音が震えている。怖いよね、私もだ。
「国境の兵士消失事件を受けて、ティンガロは街全体を術者の結界魔法で囲っていたそうです」
防御障壁魔法か。キースが得意なやつだな。
もっとも術者が何十人集まったところで、二十四時間体制で街を覆う規模の魔法は放ち続けられないので、魔力の増幅と術を継続固定できる強力な装置を使用したはずだ。だいぶ効果は落ちるが、冒険者ギルドで温水を供給してくれている魔道ボイラーもその類いである。
「ティンガロはそのおかげで数日間は平穏でした。霧だった状態の時は、結界で充分に防げていたんです」
「ん? 霧だった時?」
「はい。霧が変化したのです。街に入れなかった霧は一ヶ所に集まって濃くなり、そしてそこから十数体の巨人の兵士が誕生したそうです」
「何だと…………?」
会議室がザワめいた。
「背の丈が三メートルほどの兵士達は実体を持ち、それぞれが持つ武器で結界を破壊しました。それから街へ入り、住人達を虐殺したのです」
「霧に呑まれたのではなく、物理的に街は破壊されたのか?」
「そうらしいのです」
「馬鹿な! ティンガロは屈強な拳闘士達が集う街だ! そう簡単にやられる訳がない!!」
マスターが怒りに任せて会議室のテーブルをバン!と叩いた。同時に闘気が拡散されて室内に居る者の肌をビリビリ刺激した。
キースが小さな声でみんなに教えてくれた。
「ティンガロはエルダの故郷で、二人が初めて会った街だ。ケイシーにとっても思い入れの有る土地なんだよ」
ああ、以前稽古をつけてくれたマスターから聞いたことが有るな。私は行ったことが無いが、ティンガロには大きなコロシアムが在って、マスターの妻エルダはそこで活躍していた拳闘士だったと。エルダの技はマスターを経由して私へ伝えられている。
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