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存在する限り(5)
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マシューが神妙な面持ちで述べた。
「はい。拳闘士達が中心となり、霧の巨人の侵攻を止めようと勇敢に戦ってくれたそうです。彼らの活躍のおかげで僅かですが住人が生きて街から脱出、王都へ危機を知らせることができたのです」
「───クソッ!」
マスターは腕組みをして押し黙ってしまった。
逃げられたのは馬を扱える独り身の大人だけだろう。おそらく家族を持つ者は脱出が間に合わずに殺された。老人、子供の区別なく。その中にはエルダの親族や親しかった友人も居ただろう。
想像して哀しくなった私達。マシューは話し続けた。
「霧の巨人が移動することを想定して、ティンガロの南方に位置する王都は厳戒態勢に入りました。国内の兵士が集められて王都の警備が強化されています」
えっ、でもそれだと地方の街や村の警備が手薄になるよね?
…………仕方が無いか。王家と中央議会を失ったら国は大混乱に陥るもんな。
同じことを考えたのか皆も暗い表情となったが、魔王アルクナイトは毅然としていた。
「非常時に政府の重鎮を分散させるのは基本だが、王弟は何処へ疎開するんだ?」
あっ、殿下の疎開……。マシューはそんなことも言っていたな。
考えたくはないけれど、王都が陥落する可能性だって有る訳だ。そうなった時に国王陛下に代わって国の舵を取る人物を、離れた場所に予め避難させておかないとだもんね。
「王弟殿下の疎開先は、俺達が居るこのフィースノーの街です」
「えっ、ここ!?」
私は驚いて思わず声を出してしまった。アルクナイトが平然と聞き返す。
「自給自足ができる大きな街で、師団長の明るい中年がちょうど滞在しているからか?」
「そうです。そして騎士団副団長である俺の叔父の故郷でもありますので、受け入れ態勢が整っているんですよ。王弟殿下は現在、叔父が指揮する第二師団と俺達が所属する第七師団に護られて、フィースノーへ向かっている途中です。何事も無ければ今夜中に到着されるでしょう」
仲良くなった第七師団のミラとマリナ……。彼女達も一緒だよね? こんな形で再会することになるなんて。
「王弟が到着した後にフィースノーの街も結界を張り、外界との交流を遮断することになるんだな?」
「……そうなります」
フィースノーは街中に農場や工場が在るので、当面の間は物資に困ることが無いだろう。だけど……。
「じゃあ、他の街や村から避難民が来た場合はどうなるんですか!?」
マキアが血相を変えて質問というより抗議をした。マシューは眉間に皺を寄せて答えた。
「避難民は受け入れられない。王弟殿下と街の防衛が最優先だ」
キッパリと言われて、マキアはテーブルの上に置いた拳をギュッと握った。相棒のエンが彼を慰める。
「レクセンも大きな街だ。きっと大丈夫……」
マキアの両親と弟妹は隣街のレクセンで暮らしている。街の規模はフィースノーと同程度だが、二個師団が応援に来てくれるフィースノーと違い、レクセンは駐在していた王国兵士が王都へ引き上げてしまっている。街の自警団だけでどこまで霧と戦えるか……。
私の故郷エザリはもっと悲惨だ。戦える人間も医師も碌に居ない。ルパートの故郷も小さな村だと聞いた。
私達が持つ家族との記憶は鈴音が作った設定らしい。それでも両親や姉のことを考えると胸が締め付けられる。無事でいて欲しいと願う。
こうして心配できるだけ私はまだ幸せなのかもしれない。ラグゼリア王国以外の国は既に霧に呑まれて消滅している。エンとユーリの出身地・東国はもう存在していないのだ。
「ごめん……ごめんなさい……」
鈴音が震えるだけでなく泣いていた。
「私のせいで世界が無くなる……、みんな死んじゃう…………」
鈴音は女神の力を失ったことを嘆いているのだろうか。
「スズネ、それは違う。世界の存続については、この世界に生きる全ての者が関わり、責任を持たなければならない問題なんだ」
エリアスが宣言した。
「私は最後の一人となっても戦うと誓う。この身がこの世界に存在する限り」
凛としたエリアスの眼差しと言葉には力が有った。家系とか関係なく、彼は勇者なのだと思い知った。
「俺も戦うぞ。自我を得て漸く生きていると実感できたのに消えてたまるか」
アルクナイトが銀の髪を掻き上げてエリアスに続いた。ナルシストな動作だが魔王がやると様になる。
「どうしてあなた達はそんなにも強いの……? エリアスさんも魔王も自分達の領地が心配でしょう? 帰らなくてもいいの?」
鈴音が涙と鼻水を垂らしながら聞いた。エリアスは彼女を威圧しないように優しく言った。
「もちろん心配だよ。だが私はフィースノーに留まる」
「どうして? あなたの好きなロックウィーナがここに居るから?」
エリアスは軽く笑った。
「それも有る。だがそれ以上に、フィースノーが小説の中心舞台だからだ。ここを守り切れば世界がボロボロになったとしてもきっと立て直せる。世界が新たに聖騎士達を新しいキャラクターとして生み出したように、世界の核さえ残れば犠牲となった人々も復活できるかもしれない」
「あ…………!」
みんなが俯きがちだった顔を上げた。リリアナが明るい声を出した。
「そうか! 小説の世界の理不尽さに腹を立てることも有ったけれど、小説だからこそ奇跡を起こせるかもしれないんですね!!」
「エリーと女装男の言う通りだ。そして俺達は既に一度奇跡を起こしている」
魔王の言葉を受けてルパートが不適に笑った。
「ああ、自分の意志で世界に反抗して、時間のループをぶっ壊したんだもんな。今度だってやってやるさ」
うん、立ち向かおう。落ち込む暇が有ったら何ができるか考えよう。
会議室に活気が戻り、知らせを持ってきたマシューも漸く微笑んだ。
鈴音だけは、なかなか泣き止まなかったけれど……。
「はい。拳闘士達が中心となり、霧の巨人の侵攻を止めようと勇敢に戦ってくれたそうです。彼らの活躍のおかげで僅かですが住人が生きて街から脱出、王都へ危機を知らせることができたのです」
「───クソッ!」
マスターは腕組みをして押し黙ってしまった。
逃げられたのは馬を扱える独り身の大人だけだろう。おそらく家族を持つ者は脱出が間に合わずに殺された。老人、子供の区別なく。その中にはエルダの親族や親しかった友人も居ただろう。
想像して哀しくなった私達。マシューは話し続けた。
「霧の巨人が移動することを想定して、ティンガロの南方に位置する王都は厳戒態勢に入りました。国内の兵士が集められて王都の警備が強化されています」
えっ、でもそれだと地方の街や村の警備が手薄になるよね?
…………仕方が無いか。王家と中央議会を失ったら国は大混乱に陥るもんな。
同じことを考えたのか皆も暗い表情となったが、魔王アルクナイトは毅然としていた。
「非常時に政府の重鎮を分散させるのは基本だが、王弟は何処へ疎開するんだ?」
あっ、殿下の疎開……。マシューはそんなことも言っていたな。
考えたくはないけれど、王都が陥落する可能性だって有る訳だ。そうなった時に国王陛下に代わって国の舵を取る人物を、離れた場所に予め避難させておかないとだもんね。
「王弟殿下の疎開先は、俺達が居るこのフィースノーの街です」
「えっ、ここ!?」
私は驚いて思わず声を出してしまった。アルクナイトが平然と聞き返す。
「自給自足ができる大きな街で、師団長の明るい中年がちょうど滞在しているからか?」
「そうです。そして騎士団副団長である俺の叔父の故郷でもありますので、受け入れ態勢が整っているんですよ。王弟殿下は現在、叔父が指揮する第二師団と俺達が所属する第七師団に護られて、フィースノーへ向かっている途中です。何事も無ければ今夜中に到着されるでしょう」
仲良くなった第七師団のミラとマリナ……。彼女達も一緒だよね? こんな形で再会することになるなんて。
「王弟が到着した後にフィースノーの街も結界を張り、外界との交流を遮断することになるんだな?」
「……そうなります」
フィースノーは街中に農場や工場が在るので、当面の間は物資に困ることが無いだろう。だけど……。
「じゃあ、他の街や村から避難民が来た場合はどうなるんですか!?」
マキアが血相を変えて質問というより抗議をした。マシューは眉間に皺を寄せて答えた。
「避難民は受け入れられない。王弟殿下と街の防衛が最優先だ」
キッパリと言われて、マキアはテーブルの上に置いた拳をギュッと握った。相棒のエンが彼を慰める。
「レクセンも大きな街だ。きっと大丈夫……」
マキアの両親と弟妹は隣街のレクセンで暮らしている。街の規模はフィースノーと同程度だが、二個師団が応援に来てくれるフィースノーと違い、レクセンは駐在していた王国兵士が王都へ引き上げてしまっている。街の自警団だけでどこまで霧と戦えるか……。
私の故郷エザリはもっと悲惨だ。戦える人間も医師も碌に居ない。ルパートの故郷も小さな村だと聞いた。
私達が持つ家族との記憶は鈴音が作った設定らしい。それでも両親や姉のことを考えると胸が締め付けられる。無事でいて欲しいと願う。
こうして心配できるだけ私はまだ幸せなのかもしれない。ラグゼリア王国以外の国は既に霧に呑まれて消滅している。エンとユーリの出身地・東国はもう存在していないのだ。
「ごめん……ごめんなさい……」
鈴音が震えるだけでなく泣いていた。
「私のせいで世界が無くなる……、みんな死んじゃう…………」
鈴音は女神の力を失ったことを嘆いているのだろうか。
「スズネ、それは違う。世界の存続については、この世界に生きる全ての者が関わり、責任を持たなければならない問題なんだ」
エリアスが宣言した。
「私は最後の一人となっても戦うと誓う。この身がこの世界に存在する限り」
凛としたエリアスの眼差しと言葉には力が有った。家系とか関係なく、彼は勇者なのだと思い知った。
「俺も戦うぞ。自我を得て漸く生きていると実感できたのに消えてたまるか」
アルクナイトが銀の髪を掻き上げてエリアスに続いた。ナルシストな動作だが魔王がやると様になる。
「どうしてあなた達はそんなにも強いの……? エリアスさんも魔王も自分達の領地が心配でしょう? 帰らなくてもいいの?」
鈴音が涙と鼻水を垂らしながら聞いた。エリアスは彼女を威圧しないように優しく言った。
「もちろん心配だよ。だが私はフィースノーに留まる」
「どうして? あなたの好きなロックウィーナがここに居るから?」
エリアスは軽く笑った。
「それも有る。だがそれ以上に、フィースノーが小説の中心舞台だからだ。ここを守り切れば世界がボロボロになったとしてもきっと立て直せる。世界が新たに聖騎士達を新しいキャラクターとして生み出したように、世界の核さえ残れば犠牲となった人々も復活できるかもしれない」
「あ…………!」
みんなが俯きがちだった顔を上げた。リリアナが明るい声を出した。
「そうか! 小説の世界の理不尽さに腹を立てることも有ったけれど、小説だからこそ奇跡を起こせるかもしれないんですね!!」
「エリーと女装男の言う通りだ。そして俺達は既に一度奇跡を起こしている」
魔王の言葉を受けてルパートが不適に笑った。
「ああ、自分の意志で世界に反抗して、時間のループをぶっ壊したんだもんな。今度だってやってやるさ」
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