ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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リーベルトには戻れない(1)

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 午前11時の冒険者ギルド。
 昨夜の内に街門が閉ざされて街の外での活動が不可となった現在、依頼の変更を求める冒険者達と説明を求める依頼者達とで、エントランスホールがごった返していた。

「おはようリリアナちゃん。予想はしていたけど凄いことになってるね」

 僕が担当している受付カウンターにマシュー中隊長が現れた。顔立ちは良いのだが相変わらずの癖っ毛で、毎朝のブラッシングが大変そうだなと密かに同情した。僕の髪をいつも綺麗に巻いてくれる執事のアスリーなら、中隊長のうねる髪も上手にアレンジできるのだろうか。

「おはようございます。あれ、後ろのお二人は確か……」

 中隊長は二人の女性をともなっていた。黒髪の元気そうな女性と、金髪で柔らかい雰囲気を持つ女性。確かアンダー・ドラゴン本拠地壊滅作戦で、ウィーお姉様と親しくしていた女兵士だ。

「第七師団のミラとマリナだよ。今までけっこう自由にしてきた俺だけど、これからは中隊長として忙しくなりそうなんでね、ギルドとの連絡係を彼女達に任せることにしたんだ。この二人なら信用できるし、ギルドのみんなとも面識が有るから適任だろ?」
「そうですね。既に先輩方が会議室でお待ちのはずです、参りましょう」

 僕はもう一人の受付嬢に断りを入れてから、昼休憩が終わるまで受付カウンターを離れることにした。彼女だけではとてもさばき切れない人の数だが、セスおじさんら出動班の面々が手伝ってくれているので何とかなるだろう。
 そして向かった一階会議室。扉を開けた瞬間、異臭が僕の鼻腔びくうを刺激した。

「……ぶっ!?」
「酒クサッ!」

 横の中隊長も顔をしかめた。僕達を見つけたギルドマスターが苦笑いを浮かべて近付いてきた。

「おはようございます中隊長。窓は開けているんだが風が無くて、匂いが籠ってすみませんね」
「何の事態ですか、これは」
「いやはや、馬鹿な男達が自棄酒やけざけした結果です。キースとウィーがついに結ばれたそうで、それを知った馬鹿どもが荒れているんですわ」

 え? キースお兄様とウィーお姉様が結ばれ……た…………?

「ちょっとマスター! いちいち説明しないで下さいよ!」

 赤い顔をしてイスから立ち上がったお姉様がマスターに抗議した。え、えええ???
 僕は状況を掴めず立ち尽くした。
 数日前にこの会議室で、お姉様はキースお兄様を好きだと自覚して告白した。僕はその瞬間に立ち会ってしまい眩暈めまいを起こしそうになったが、キースお兄様がお姉様を拒絶したので何とか踏ん張れた。

「きゃー! おめでとうロックウィーナ!!」
「あなたはキースさんを選んだのね!」

 背後から上がったけたたましい声が僕の思考を中断させた。

「ミラ!? マリナ!?」

 お姉様が顔を輝かせてこちらへやってきた。

「二人とも会えて嬉しい! 王弟殿下と一緒に街へ入ったんだね」
「ええ、昨日の夜の内にね。かなりの強行軍で疲れたわ」
「フィースノーも大きな街だね。こんな状況でさえなかったらゆっくり観光して回ったのに」

 当たり障りのない挨拶を交わした後に、ミラと言う名の女兵士の目が怪しく光った。

「ね、ね、それよりもロックウィーナ、先輩から恋人になったキースさんはどんな感じ?」

 マリナと言う女兵士も意味有り気に微笑んだ。

「私も知りたいわ。素敵な経験となれた?」

 経験って……おい、人前で何を聞いてんだ。純情なお姉様が照れて困っているじゃないか。 

「ええっと、それは……。み、みんなの前で恥ずかしいよ……。マリナあなたこそ、エドガー連隊長と上手くいっているそうじゃない」
「やだ~知ってた? 知ってた? 連隊長に聞いたの~?」
「いいなぁマリナもロックウィーナも。私だけあぶれちゃった」

 三人の女性達は茫然とする僕を放置して、キャピキャピとガールズトークに花を咲かせ始めた。
 ……ちょっと待って僕、展開に追い付けない。
 ウィーお姉様が告白して、キースお兄様が拒絶して、僕がホッとして……。
 それで終わったはずだろ。この三日間で何が起きたんだよ、誰が説明しろよ。

「ああ~いいねぇ、恋が上手くいっている女のコ達は華やかで眼福がんぷくだ……」

 長テーブルに上半身を倒して、青い顔をしているマキアお兄様が目を細めて呟いた。まだ23歳のはずの彼が、アスリー以上の爺さんになったように枯れていた。
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