ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
274 / 291

霧に囲まれる街(1)

しおりを挟む
「それで女神、おまえが現実世界へ戻るには具体的にどうしたらいいんだ?」

 鈴音が泣き止むのを待ってから、アルクナイトが肝心な点を確認した。エリアスから借りたハンカチで遠慮がちに涙を拭き取り、鈴音は顔を上げた。

「私が以前使っていた休憩スポット……、女神の宮殿が現実世界と繋がる唯一の場所なんだ」
「休憩スポットは消えたとか言っていなかったか?」
「あれはゴメン、嘘。まだ宮殿は存在しているよ。でも力を失った今の私では辿り着けないの」
「宮殿か……。何処に在るんだ?」
「この街の上空に」

 私を含めた数人が間抜けにも視線を上へずらした。見上げてもそこは会議室の味気ない天井だ。
 つられなかった魔王が尚も尋ねた。

「俺は何度もこの辺りを飛行しているが、空に浮かぶ建造物なんて見た記憶が無いぞ?」
「雲の更に上だもの。流石のあなたもそんな高くは飛ばないでしょ?」

 ハンカチを握りしめて鈴音は言った。

「お願い魔王、あなたの魔法で私を宮殿へ届けて欲しいの」
「雲を突き抜けてか……」

 いくらアルクナイトでもそこまでは難しいかな?

「いいだろう。猫達の手を借りれば充分に可能だ」

 そうか、にゃんこ達は魔力を増幅させる能力を持っているんだった。

「俺が風魔法で運ぶが、高所は空気が薄く寒い。雲の中は雷が発生している箇所が有って危険だ。白、おまえも協力して空気を包む強力な障壁を張れ」
「了解。女神の宮殿に僕がお邪魔することになるとはね」

 キースが行くなら私も同行したいな。女神の宮殿がどんな所か興味が有る。

「それと……」

 鈴音が思い詰めた表情になった。

「私の護衛も頼みたい。宮殿には侵入者を排除する魔法人形が居るの」
「ん? 宮殿の主であるおまえは排斥はいせきされないだろう?」
「……されたの。力の大半を失った私は女神として彼らに認識されず、侵入者として宮殿の外へ投げ捨てられてしまった」
「は? 投げ捨てられた!?」
「うん。天候を操る能力で風を発生させて落下スピードを殺して、何とか地上に死なずに降りられたよ……。上昇することはとてもできなかった」
「おい……。もしかして女神のくせに追い出されたことが恥ずかしくて、宮殿が消えたと嘘をいたのか?」

 アルクナイトが完全に可哀想なものを見る目で鈴音を見た。ループ破壊後の鈴音は散々な目に遭っていたんだな。

「護衛役、引き受けた」

 エリアスが力強い声で承諾した。

「何だエリー、おまえも行くのか?」
「スズネが世界の希望なんだ。護り抜かなければ」
「そんなエリアスさん、希望だなんて。私のせいで世界が崩壊しかけているのに」

 エリアスは鈴音の瞳の奥を覗くように見つめた。

「その世界を創造したのは誰だ? キミが居なければそもそも私達は存在していなかった。私は生まれてからずっと、とても有意義な人生を歩めていると思っている。キミのおかげだ」
「エリアスさん……」

 また鈴音が泣きそうになった。
 そうなんだよね。設定については文句をつけたくなる部分も有るけれど、鈴音は私達の生みの親なんだよ。みんなが魅力的なのは自我に目覚めたことも大きいが、ベースをデザインしたのは鈴音だ。創造主の愛が無ければ中身の薄いキャラクターばかりだったろう。

「ルパート、おまえもここに居るみんなを連れて一緒に行け」
「俺達もか?」

 ギルドマスターが私達を見て命令した。

「そうだ。街の守護は俺達残りのメンバーでやる。何としても女神さんを護れ」
「……解ったよ。で、いつ出発すればいい? 明日の朝一か?」
「今すぐだ」

 割り込んだルービックの発言にギルド関係者は驚いた。

「こんな夜遅くにか!?」
「そうだルパート。王都が陥落したんだ、もはや猶予は残されていない。一刻も早く女神の宮殿へ行って、スズネを現実世界へ送り届けるんだ。国を喰らう霧は普通のものとは違う。いずれ女神の宮殿にすら届くかもしれない」

 その可能性は充分に有ると思った。鈴音の生命を脅かす病魔である霧は、世界の全てを無にしようと動いている。上空すら安全圏内になるとは思えない。

「でもさ、一晩くらいの猶予は……」
「無い」

 ルービックだけではなくエドガーとマシューも鋭い眼差しとなっていた。私達にした報告は端的であったが、王都から落ち延びた兵士はもっと具体的に、悲惨な状況を聖騎士達に話して聞かせたのだろう。

「事態は緊急を要する。だからシュターク商会にも協力を仰いだ」
「あっ、リリアナがここに居るのって……」

 いくつも衝撃な事実を聞かされて頭が麻痺していた。定時で帰っているはずのリリアナがこんな遅い時間にギルドに居るのは、聖騎士達に呼ばれて一緒に来たからだったのか。
 リリアナは優美に微笑んだ。

「シュターク商会は傭兵達と広く繋がりを持ちます。傭兵部隊と共に商会も街の守護に当たりますので、お姉様達はうれい無く女神の宮殿へ向かって下さい!」

 そう言った彼は男性の……リーベルトの顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...