ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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世界の秘密(1)

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 引っ張られているのか自分で進んでいるのか。
 手を繋ぐルディオと共に、私は光の洪水の中を猛スピードで泳いでいた。

『スズネ、知識が……勝手に頭の中へ流れ込んでくる! 頭がパンクしそうだ!!』

 しかめっつらでルディオが叫んだ。私は平気なので、彼を苦しめているのはおそらく現実世界の情報だ。
 まばゆいこの光はひょっとして、私の脳細胞で発生している伝達信号なのだろうか? 触れてしまったルディオの脳へ、彼の知らなかった事柄が強制的にインストールされている状態!?

「気をしっかり!! ルディオ、きっともうすぐ到着だから!」

 別世界からの移動にこんな弊害が出てしまうなんて。
 そして問題はこれだけではなかった。

 パ────────ン!!!!!!

『うあっ!?』
「きゃあ!!」

 私達は見えない壁にしこたま身体をぶつけてしまった。衝撃で繋いでいた手が離れる。

『スズネ!』

 もう一度私へ手を伸ばしたルディオ。しかし届かない。
 どうして自分の肉体へ戻るだけなのに弾かれるのよ!? ……そうか、ルディオだ。現実世界の私の肉体は、彼をとして排除しようとしているのだ。

「ルディオ、ルディオ!」

 私も手を伸ばすが、彼の身体がどんどん遠くへ運ばれていく。

「ルディオ!!」
『受け取れスズネ、僕の力を持って行け!』

 途端に私の体内を熱が駆け巡る。
 力を譲渡したルディオは光の波の中へ沈んでいった。
 
「ルディオ────────!!!!!!」

 私は彼の名を懸命に呼び、もう見えない彼へ手を伸ばし続けた。


☆☆☆


「……………………」

 白い壁に青い機械。
 シュコーッ、シュコーッと鳴る謎の音。
 クリーム色のナース服を着た30歳くらいの女性が、目を見開いて右腕を天井へ伸ばす私を見ていた。

「あ、あの……岩見鈴音ちゃん、もしかしてあなた起きてるの……?」
「シュコーッ! シュコーッ!」

 あ、この音は私の呼吸音だ。人工呼吸器を装着した状態で息を荒くしたから、有名SF映画に登場するベイダー卿みたいになっているんだ。

「落ち着いて、興奮しないで、息はゆっくり……そう、その調子。苦しくない?」

 私はコクコクと頷いた。

「良かった、目が覚めて良かったね……。あなたずっと眠っていたんだよ」

 看護師と思しきその女性は人懐ひとなつっこい笑みを浮かべた。ロックウィーナと親しくなったマリナと言う女兵士に雰囲気が似ている。

「すぐに先生を呼んでくるから、ちょっとだけ待っててね?」

 パタパタと足音をさせて看護師は部屋を出ていった。
 帰ってきた……んだよね?
 私は挙げた手の先を見た。そこに在るのは蛍光灯を設置した殺風景な天井のみ。

 私の手は……誰とも繋がっていなかった。


☆☆☆


 私が目覚めた時はなかなかの騒ぎだったらしい。
 医師から覚悟するように宣告されたお母さんは、面会すら許されず、かといって自宅へ帰る気にもなれず、集中治療室に運ばれた私を想ってロビーで独り泣いていたそうだ。
 しかし連絡を受けて職場を早退したお父さんが、病院に駆け付けたほぼ同時刻に私は覚醒した。看護師からそれを伝えられた両親は、言葉通り手を取り合って喜んだのだと後に聞かされた。

 ずっと自分を迷惑な子供だと思っていた。そんな私を深く愛してくれていた両親。二人の気持ちを無視して、安易に死を望んでしまった自分を深く反省した。

 そして今私は病院内で、「奇跡の子」と一部の医療スタッフから呼ばれている。
 危篤状態であったのにたった一日で脳波、脈拍、血圧と生体反応の数値が、病人のものとは思えないレベルにまで改善されたのである。
 喜んでテンションを上げたお父さんが、「俺が奇跡のパワーを鈴音に注入したのかも! あのコが目覚めたの、俺が到着してすぐだし!!」とか発言してお母さんから白い眼を向けられていた。

 もちろんまだ油断はできないということで、私は検査と経過観察で、ここから更に一週間は入院しなければならないそうだ。
 そうなると心配になるのが学校の出席日数なのだが、私が意識不明だったのはたったの五日間だけだったそうな。感覚では一年間くらいあちらの世界に居たはずなのだけど……。脳の不思議だ。

 時系列をまとめるとこんな感じになる。

◆一日目◆
 私、学校の階段から落ちる。頭を打ち意識不明に。
 集中治療室に入る。

◆二日目◆
 意識は戻らないが容体が安定したので、一般病棟の個室に移される。
 母が病室に泊まり込むことを許される。

◆三日目◆
 両親以外の面会も許されるが私は寝たまま。

◆四日目◆
 ひたすら寝ている私。

◆五日目◆
 容体が急変。再び集中治療室に入る。
 医師も母も諦めムードの中で私復活。

◆六日目◆
 異常な速度で元気になった私。診察した主治医と看護師が驚く。
 父が調子に乗る。

◆七日目◆
 一般病棟の個室へ戻される。今ここ。


 私ではなく主に周囲が慌ただしかったのだが、ようやく落ち着けるようになった。窓の外を見るとコンクリートで舗装されたロータリー。行き交う自動車。向こうの世界には存在していなかったものだ。
 それらを見て「帰ってきた」のだと実感できた。
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