ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
282 / 291

絶望の向こうへ(2)

しおりを挟む
「大丈夫、私が現実世界へ帰ればいいの!」

 鈴音の声で振り向くと、彼女は作動しているもう一方のモニター前に居た。

「この小窓は一階には無い。ここにだけ在る特別な小窓……。ここから私は自分の世界へ帰る」

 私とエリアスは鈴音の近くへ行って画面を覗いた。そして絶句した。
 映し出されていたのは、病院のおそらくは集中治療室(ICU)のベッドに寝かされた顔色の悪い少女。彼女の身体には点滴と人口呼吸器が繋がれていた。
 まるで生気が感じられない、この少女が現実の鈴音なのか。

(これじゃあ戻っても……すぐに死んでしまうんじゃ)

 私はそう思ってしまった。エリアスも、そして当の鈴音も。

「もっと早く……決断していれば」

 悔しそうに鈴音は呟いて涙を滲ませた。それでも彼女は気丈に言った。

「頑張るよ、私。だから安心して待ってて」

 モニター画面へ手を伸ばした鈴音。そんな彼女を止める者が居た。

「もう、いい。キミは充分に頑張った」

 エリアスだった。しかし……。

は何も解っちゃいなかった。ずっと必死に生きてきたキミを無責任に励ました。頑張れなんて言ってしまった。……ゴメンな」

 一人称が「私」の彼が「俺」と言い、口調もエリアスにしてはくだけていた。

「もういいんだよ。独りで泣かなくていいんだ。どうせ終わるのなら俺達と一緒に最後までこっちの世界に居よう。優しくない現実世界へ戻ることなんてないんだ」

 そしてエリアスは鈴音へ手を差し出した。

「な? ちゃん」
「!……」

 その呼び方をする者は一人しか居ない。現実世界の鈴音の先輩だ。

「え、え……、衛藤……先輩?」

 どうして? エリアスと夢で見た衛藤という名の青年が重なっている。
 衛藤先輩をモデルにしたとはいえ、エリアスは独立したキャラクターであるはずなのに。

「………………」

 鈴音はエリアス(?)の手を取りかけた。でも直前で手を引っ込めた。

「ありがとうございます……。でも、私は帰ります」
「どうして!? あの世界はキミを傷付けるだけだ!」
「はい。私は現実よりもこちらの世界が好き……。だからこそ護りたいんです」
「…………!」
「そしてキャラクターのみんなもこの世界を愛してくれた。女神の私を信じて、負けると解っていながら時間を稼ぐ為に戦ってくれた」

 鈴音は涙を流しながら笑っていた。

「だから私も頑張ります。負けちゃうかもしれないけど、それでも頑張りたいんです」

 このコは強くなった。鈴音の決意を目の当たりにして私の瞳からも涙がこぼれた。
 ここまで来たなら鈴音の意志に任せよう。結果がどうなろうと。

『だいじょうぶ、ぼくもいく!』

 不意に黒く丸い物体が部屋に飛び込んできた。アルクナイトの使い魔の猫だ。彼は回転して少年の姿となった。前髪の青いメッシュ。食いしん坊の三男ルディオだ。

「あなた、どうしてここに!?」
『僕がスズネと一緒に行きたいって願ったから。兄さんや魔王様も賛成してくれた』

 言われて私は仲間達が戦うモニター画面を見た。しかし次の瞬間ブツッと映像が切れて画面が黒くなった。
 仲間が全滅し、一階大ホールも霧に喰われたのだ。

「そんな……そんな!」

 震える私達をルディオが一喝した。

『まだ間に合う! 僕は対象者の能力を底上げすることができるんだ。スズネ、キミの生命力だって上げてみせる!!』
「……あ!」
「そうか、それなら!」

 わずかな希望の明かりがともった。
 はたしてルディオがあちらでも力を発揮できるか、不安は残るが絶望の峠を越えられた気分だ。

『さぁスズネ、僕と一緒に現実世界へ帰ろう!』
「うん!」

 鈴音は右手をしっかりルディオと繋いだ。そしてエリアス(?)を最後に見た。彼が笑って鈴音の覚悟を後押しした。

「キミが目覚めるのを待ってるよ、イワミちゃん」
「はい!!!!」

 鈴音は左手を自分が映るモニター画面へ伸ばした。死んだようにベッドに横たわる少女と、生きようと決意した女神。
 鈴音の指先が画面に触れた途端、鈴音とルディオの身体が発光した。あまりの眩しさに私は目を閉じてしまった。

 ……………………。

 十数秒後、まぶたを開けたそこに鈴音とルディオの姿は無かった。モニター画面は作動しているが、砂嵐を映している。
 静まり返った室内。私は唯一の同行者となったエリアスへ小さく尋ねた。

「……どうなったんでしょう?」
「判らない。だがはきっとやってくれる」

 エリアスの雰囲気が元に戻っていた。

「そうですね…………あ!」

 部屋の入口に霧が発生していた。ついにここまで到達してしまった。
 だがもういい。鈴音を現実世界へ戻すというミッションはクリアした。
 ……それでもまぁ、死ぬのはやっぱり怖いけどね。

「大丈夫だロックウィーナ。キミを決して独りにはしない」

 私達は部屋の隅まで退がり、エリアスが私を抱きしめた。その温もりが私を安心させてくれた。
 防御障壁を張れない私達は霧を防ぐ手段が無い。相手もそれを解っているのか、巨人兵に実体化せず霧のままジワジワと私達を包囲する。

「……ロックウィーナ、最後の瞬間にキミと居られて良かった」

 死が迫っているというのに、エリアスは穏やかな瞳で私を見つめていた。

「初めて会った時から、ずっとキミのことが大好きだよ」

 私も彼に微笑んだ。この世界の最後の住人になっちゃった私達。

「私もあなたが大好きです。何度も勇気をありがとう。あなたは紛れもなくこの世界の勇者で、ヒーローでした」

 私とエリアスは互いを強く抱きしめた。
 そしてそのまま霧に呑まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...