ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
13 / 291

二幕  困難な救助ミッション(4)

しおりを挟む
☆☆☆


 村の反対側の待ち合わせ場所には、肌と衣服を赤く染めたエリアスとセスが既に到着していた。

「二人とも、怪我をしたのですか!?」

 キースは慌てたが、私には見慣れた光景だった。二人とも普通に立っているので大丈夫だろう。あの血はおそらく……、

「これ全部返り血。エリアスさんてばマジでつえーわ」

 やっぱり。

「探索中にな、ダークストーカーが出たんだよ!」

 セスが興奮気味に言った。
 ダークストーカーとは黒い身体と赤い角を持つ人型悪魔だ。音も無く近付いてきて、鋼鉄の爪で獲物を何度も何度もしつこく切り裂く。素早い上に短い距離なら瞬間移動もできるという厄介なモンスターだ。

「奴は瞬間移動で神出鬼没だから、俺の斧は空振りばかりだったんだけどな、エリアスさんは何と目を閉じて気配だけで捉えたんだ。大剣で一閃だぞ!? ダークストーカーの身体が真っ二つに割れて血とか内蔵とかドバーッと」

 詳しく説明せんでいい。ナマで見なくて良かった。

「レディ、無事のようでなによりだ」
「エリアスさんも」

 私とエリアスは互いに微笑んだ。死人が出ているのでテンションはそんなに上がらないが、それでも知り合いの無事は嬉しいものだ。

「おお、生存者が居たのか!?」

 セスはキースの背中のシモーヌに気づいた。

「はい、魔術師のシモーヌさんです。先輩、そちらの区域には誰かいましたか……?」

 セスは気まずそうにシモーヌから目をらした。

「うん……二人見つけたが駄目だったよ。傷の付き具合から見てダークストーカーに殺られたんだろう。書類に有った風貌をしていたから、行方不明のパーティメンバーで間違い無い」

 セスの報告を聞いて、シモーヌが身体を震わせながらキースにしがみ付いた。かける言葉が見つからない。

「こっちも彼女の他に遺体を発見した。ダグと言う名前の冒険者だ。これで捜索対象者は全員確認できた」
「そうか……。じゃあ任務は完了だな。ギルドへ戻ろう」

 キースの背中ですすり泣くシモーヌを囲むように陣形を取って、私達は帰路についた。
 行方不明者の捜索に向かっても、発見時には亡くなっていることの方が断然多い。一人でも救助できたことは喜ばしいことのはずなのに。私の胸はチクチク痛んでいた。
 仲間を失ったシモーヌの今後を考えてしまうのだ。「彼は……私の……」。あの時シモーヌは何を言いかけたのだろう。ダグと言う男性はシモーヌにとってどういった存在だったのだろう。

「余計なことは考えるな」

 ルパートが私にだけ囁いた。私が任務中に落ち込むと彼はいつもこの言葉をかけてくる。
 うん。冒険者ギルドには大勢の人が訪れる。その内の何割かはミッション中に命を落とす。いちいち気に留めていたらこちらの身が保たない。
 解っている。でも割り切れない感情というものは存在するのだ。

「……先輩、リーベルトと言う少年を覚えていますか?」
「ん? ……ああ、あのガキか」

 五年前、別の任務で出動した私とルパートは偶然、Dランクフィールドでリーベルトと名乗る迷子の少年を保護した。当時の彼は14歳。冒険者に登録できる年齢は16歳からである。
 どうして冒険者ではない彼が人里離れた所に独りで居たのか? 酷い話だが義理の姉に置き去りにされたそうだ。

 リーベルトは大商会を経営する親の元に産まれた。しかし母が病死して、父が後妻として迎えた女とその連れ子が欲深い人物だった。
 義母と義姉は先妻の子供で後継ぎのリーベルトを殺害して、商会を自分達のものにしようと画策したのである。

 リーベルトは義姉とその従者によって無理やり馬車に乗せられた。そして彼らはモンスターが徘徊する森までリーベルトを運び置き去りにした。
 武器も水も食糧も、地図さえも渡されずに放り出された少年は、モンスターに怯えながらたった独りで丸二日間危険地帯を彷徨さまよった。
 生きた状態で私達と出会えたのは奇跡に近かった。

 義姉はピクニックに出かけたものの、勝手な行動を取ったリーベルトが行方不明になったと主張していたらしいが、生還したリーベルト本人によって真実が明かされて、共謀者であった義母と一緒に投獄された。
 商会の問題はそれで片付いた。でも……。

 私は忘れない。私の背中でずっと震えていたリーベルトのことを。発見時の彼は心身共に衰弱していたので私が背負った。
 彼の命は助かった。しかし身内に裏切られて殺されかけた心の傷を背負って、これからの長い人生を生きていかなければならないのだ。

「彼はもう19歳ですね。……元気にしているでしょうか」
「余計なことは考えるな」

 同じことをルパートに言われた。
 私は口をつぐんで、風の中の荒野を進んだ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...