17 / 291
四幕 キースの瞳(1)
しおりを挟む
出動準備はすぐに終わり、手持ち無沙汰になった私は自室のベッドに寝転んだ。勤務時間中にゴロゴロするなんて初めてかもしれない。
いつものように訓練をしたり事務の仕事を手伝って時間を潰すべきなのだろうが、沈んだ気分が身体も重くしていた。アイツのせいだ。
ルパートのバーカバーカ、水虫になれ。
アイツはああいう奴だと解っていたはずなのに、ずっと昔に吹っ切ったはずなのに、エリアスとルパートの口喧嘩を見て怒りが再熱してしまった。
ルパートは私を支配しようとしている。……うん、知ってた。
十日程度の付き合いのエリアスにまで指摘されるなんてね。情けないやら笑えるやら。
自室の扉が叩かれた。私がベッドの上で上半身を起こすと同時に、
「ロックウィーナ、部屋に居ますか?」
ノックの主が扉越しに呼びかけた。キースの声だ。
何だろう? 私は鍵を外して扉を開けた。
「急にすみません。時間は空いていますか?」
「? はい。急な仕事でも入りましたか?」
「……いえ、少しあなたと話がしたくて。入ってもいいですか?」
「え、はい、どうぞ」
珍しいことも有るものだ。寺院で奉仕する僧侶だったキースは、博愛の誓いを立てたとかで誰にでも優しい。私にも親切だが女性の部屋を気軽に訪問するような人ではない。
キースには机とセットになったイスを勧め、私はベッドに腰かけた。キースは居心地悪そうに身体を縮めていた。やはり女性の部屋に慣れていないようだ。
「すみません、出せるお茶もお菓子も無くて……」
「ああそんな、僕が急に来たのですから気にしないで」
キースはふぅ~っと息を深く吐いてから切り出した。
「ええと、単刀直入に聞きますが、ロックウィーナはルパートのことをどう思っていますか?」
「ルパート先輩ですか?」
嫌な質問をされた。この時の私はとてもブスな顔をしていたと思う。
「ギルドでの上司です」
「ああ、うん、そういうことではなくて……。個人的に好きか嫌いかと聞かれたらどちらで……」
「大嫌いです」
私はキースの言葉尻に被せて答えた。
「マスターの命令ですからバディを組んでいますが、正直言って他の人と交代してもらいたいです」
「あー……」
キースは苦笑いした。
「そう思うのは、ルパートのあなたへの執着と過剰なスキンシップが原因でしょうか?」
「……はい」
「彼の言動は僕の目から見ても問題有りだと思います。もし自分にやられたら鬱陶しいを通り越して、深淵に叩き落したいとすら考えるかもしれません」
元聖職者が丁寧口調で怖いこと言った。
「ルパートには釘を刺しておきます。もっとあなたを自由にするようにと」
「ありがとうございます」
「それで……ロックウィーナ、あなたの方からも少し歩み寄れないでしょうか? ルパートはあなたに構って欲しいだけなんだと思います」
会議室で私は相棒であるルパートに「迷惑です」とハッキリ宣言した。キースはそれを気にして、私達の仲を取り持とうとしているんだろう。でもね、もう修復不可能な所まで来ていると思います。
「おまえなんかを異性として見られる訳がないだろう? 色気づくな、気持ち悪い!」
「……ロックウィーナ?」
急に乱暴な言葉を吐いた私をキースがまじまじと見つめた。
「六年前、告白した私に対してルパート先輩がそう言ったんです」
「え……?」
キースは右手で自分の前髪を掻き上げた。
「告白? あなたがルパートに……ですか? 逆ではなくて?」
「そうです。私……ルパート先輩を好きだった時期が有るんです」
「えええ……?」
今となっては消してしまいたい忌まわしき過去。私の初恋相手はあのルパートだったのだ。今まで誰にも言えなかった私の心の闇。僧侶だったキースなら受け止めてくれるかもしれない。
「ギルドに入ってルパート先輩が私の教育係になって……、研修後もバディを組むことになって……。マスターが後で教えてくれたんです、あれはルパートが望んだことだって」
「事実ですよ。当初の方針としてはしばらくセスが面倒を見るはずだったんですが、ルパートが志願したんです。俺がアイツと組むよって」
「それで……私、ルパート先輩が自分を特別に思ってくれていると勘違いしてしまったんです」
そこから想いが恋に発展するのは早かった。若い男の少ない村で生まれ育った私は色恋に関する免疫が低かった。彫刻のように美しい顔をした先輩が私を気にかけてくれている、それだけで有頂天になれた。
「出会って一年後に意を決して告白したんですが、さっき言った通りのことを言われました」
六年も前のことなのに一言一句覚えていた。だってあれは私の初めての恋。一番綺麗だった想い。それを無残に踏みにじられた。
「………………」
「ロックウィーナ!」
当時のことを思い出したら、目の奥が熱くなって自然に涙がポロポロ零れてしまった。私はまだ吹っ切れていなかったようだ。
キースが近寄り私の隣に座り直した。
「すみません、僕のせいでつらい記憶を呼び起こしてしまいましたね」
「いえ……私のせいです。私が勝手に期待して……恋をして……玉砕したんです。自意識過剰な痛い女だったんです……」
「自意識過剰じゃないですよ! 僕だってルパートは、あなたに特別な感情を抱いているとずっと思っていましたから!」
「本当……ですか?」
「ええ。恋をしているのはルパートの方だと思っていました。エリアスさんに対する態度なんて、完全に男の嫉妬そのものじゃないですか」
「ですよね、あんな態度取られたら勘違いしてしまいますよね!?」
「しますよ! あなたは悪くないです」
キースに共感してもらえた。今度は嬉しくて涙が流れた。
いつものように訓練をしたり事務の仕事を手伝って時間を潰すべきなのだろうが、沈んだ気分が身体も重くしていた。アイツのせいだ。
ルパートのバーカバーカ、水虫になれ。
アイツはああいう奴だと解っていたはずなのに、ずっと昔に吹っ切ったはずなのに、エリアスとルパートの口喧嘩を見て怒りが再熱してしまった。
ルパートは私を支配しようとしている。……うん、知ってた。
十日程度の付き合いのエリアスにまで指摘されるなんてね。情けないやら笑えるやら。
自室の扉が叩かれた。私がベッドの上で上半身を起こすと同時に、
「ロックウィーナ、部屋に居ますか?」
ノックの主が扉越しに呼びかけた。キースの声だ。
何だろう? 私は鍵を外して扉を開けた。
「急にすみません。時間は空いていますか?」
「? はい。急な仕事でも入りましたか?」
「……いえ、少しあなたと話がしたくて。入ってもいいですか?」
「え、はい、どうぞ」
珍しいことも有るものだ。寺院で奉仕する僧侶だったキースは、博愛の誓いを立てたとかで誰にでも優しい。私にも親切だが女性の部屋を気軽に訪問するような人ではない。
キースには机とセットになったイスを勧め、私はベッドに腰かけた。キースは居心地悪そうに身体を縮めていた。やはり女性の部屋に慣れていないようだ。
「すみません、出せるお茶もお菓子も無くて……」
「ああそんな、僕が急に来たのですから気にしないで」
キースはふぅ~っと息を深く吐いてから切り出した。
「ええと、単刀直入に聞きますが、ロックウィーナはルパートのことをどう思っていますか?」
「ルパート先輩ですか?」
嫌な質問をされた。この時の私はとてもブスな顔をしていたと思う。
「ギルドでの上司です」
「ああ、うん、そういうことではなくて……。個人的に好きか嫌いかと聞かれたらどちらで……」
「大嫌いです」
私はキースの言葉尻に被せて答えた。
「マスターの命令ですからバディを組んでいますが、正直言って他の人と交代してもらいたいです」
「あー……」
キースは苦笑いした。
「そう思うのは、ルパートのあなたへの執着と過剰なスキンシップが原因でしょうか?」
「……はい」
「彼の言動は僕の目から見ても問題有りだと思います。もし自分にやられたら鬱陶しいを通り越して、深淵に叩き落したいとすら考えるかもしれません」
元聖職者が丁寧口調で怖いこと言った。
「ルパートには釘を刺しておきます。もっとあなたを自由にするようにと」
「ありがとうございます」
「それで……ロックウィーナ、あなたの方からも少し歩み寄れないでしょうか? ルパートはあなたに構って欲しいだけなんだと思います」
会議室で私は相棒であるルパートに「迷惑です」とハッキリ宣言した。キースはそれを気にして、私達の仲を取り持とうとしているんだろう。でもね、もう修復不可能な所まで来ていると思います。
「おまえなんかを異性として見られる訳がないだろう? 色気づくな、気持ち悪い!」
「……ロックウィーナ?」
急に乱暴な言葉を吐いた私をキースがまじまじと見つめた。
「六年前、告白した私に対してルパート先輩がそう言ったんです」
「え……?」
キースは右手で自分の前髪を掻き上げた。
「告白? あなたがルパートに……ですか? 逆ではなくて?」
「そうです。私……ルパート先輩を好きだった時期が有るんです」
「えええ……?」
今となっては消してしまいたい忌まわしき過去。私の初恋相手はあのルパートだったのだ。今まで誰にも言えなかった私の心の闇。僧侶だったキースなら受け止めてくれるかもしれない。
「ギルドに入ってルパート先輩が私の教育係になって……、研修後もバディを組むことになって……。マスターが後で教えてくれたんです、あれはルパートが望んだことだって」
「事実ですよ。当初の方針としてはしばらくセスが面倒を見るはずだったんですが、ルパートが志願したんです。俺がアイツと組むよって」
「それで……私、ルパート先輩が自分を特別に思ってくれていると勘違いしてしまったんです」
そこから想いが恋に発展するのは早かった。若い男の少ない村で生まれ育った私は色恋に関する免疫が低かった。彫刻のように美しい顔をした先輩が私を気にかけてくれている、それだけで有頂天になれた。
「出会って一年後に意を決して告白したんですが、さっき言った通りのことを言われました」
六年も前のことなのに一言一句覚えていた。だってあれは私の初めての恋。一番綺麗だった想い。それを無残に踏みにじられた。
「………………」
「ロックウィーナ!」
当時のことを思い出したら、目の奥が熱くなって自然に涙がポロポロ零れてしまった。私はまだ吹っ切れていなかったようだ。
キースが近寄り私の隣に座り直した。
「すみません、僕のせいでつらい記憶を呼び起こしてしまいましたね」
「いえ……私のせいです。私が勝手に期待して……恋をして……玉砕したんです。自意識過剰な痛い女だったんです……」
「自意識過剰じゃないですよ! 僕だってルパートは、あなたに特別な感情を抱いているとずっと思っていましたから!」
「本当……ですか?」
「ええ。恋をしているのはルパートの方だと思っていました。エリアスさんに対する態度なんて、完全に男の嫉妬そのものじゃないですか」
「ですよね、あんな態度取られたら勘違いしてしまいますよね!?」
「しますよ! あなたは悪くないです」
キースに共感してもらえた。今度は嬉しくて涙が流れた。
2
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる