ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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三幕  ギルドへの挑戦状(3)

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 ルパートが話をらした。

「レクセンでも本拠地探しはするんだろ? そっちの二人はどうして忙しい中ウチの支部へ来てくれたんだ?」

 マスターが苦い口調で言った。

「それはウチの支部が深刻な人手不足だからだ。新人が全く育たん。この十年、現場担当で残ったのはルパートとウィーだけだ」
「アンタが安月給でこき使うから新人が逃げるんだろ」

 そうだったね。私の後に何人も採用されたけど、みんな半年くらいで辞めてしまった。酷いのなんて一ヶ月もたなかった。事務仕事に比べてハードな上に命の危険も有るからね。わずかな危険手当が付くだけでは割に合わないと考えたんだろう。

「通常業務もやっていかなきゃならんから、アンダー・ドラゴンの案件にける人員は多くない。だからレクセンから助っ人を回してもらったし、エリアスさんにもまた手を借りることになった」

 なるほど、だからエリアスがここに居るのか。

「エリアスさんは宜しいんですか? 昨日以上に危険な任務となりますよ……?」

 ギルドから謝礼金が出るといっても大した額じゃない。冒険者として富豪の依頼を受けた方が成功報酬は高い。同じ命を懸けるなら見返りが多い方が良いだろうに。
 聞いた私にエリアスは微笑んだ。左手はもちろん握ったままです。

「アンダー・ドラゴンを放っておけば被害はいずれ国中に拡大するだろう。父が護る領地にもな。決して他人事ではないよ」

 この人は恩着せがましいことを言わない。善い人なんだよね、本当に。身分違いでさえなかったら素直に恋ができたのに。

「それじゃあ早速……と言いたいところだが、レクセン支部の二人は長距離移動で疲れただろう? 独身寮に部屋を用意したのでそちらで足を休めてくれ。今から案内する」

 本拠地探しは時間がかかりそうだから、彼らはしばらくフィースノー支部に宿泊することになるのだ。

「任務開始は本日13時からとする。時刻になったらまたこの会議室に集まってくれ。それまでは自由時間だ」

 わぁ、勤務中に自由時間を貰えるのは珍しいな。それだけ大変な任務だからしっかり準備しろということなんだろうけど……。
 マスターがレクセン支部の二人を連れて会議室を出ていった後、残った私達も席を立った。

「え、ロックウィーナ?」
「おい、おまえら!?」

 キースとルパートがこちらを見て目を丸くしていた。あ、しまった。エリアスと手を繋いだまま立ち上がったから見えちゃったよ。

「ずっと手ェ繋いでいたのか!? 真面目な会議中に何やってんだよこのスカタン!」

 ルパートが私の頭を叩こうとした。いつもならスパーンとやられるところだが、今日はエリアスがルパートの手を掴んで止めた。

「女性に暴力を振るうな」

 低音ボイスでエリアスに凄まれたが、ルパートは引かなかった。

「……ずっと言いたかったんですが、ウチの職員にちょっかい出すのをやめてもらえませんかね?」
「私も前々から疑問に思って尋ねたかった。ルパート……、おまえはどうして彼女を支配しようとするんだ? 何日か同行して判ったが、おまえとレディは恋人同士ではないのだろう?」
「それはっ……」
「ギルド職員には恋愛禁止のルールでも有るのか?」
「………………」
「無いのなら、私がレディと交流を深めるのを邪魔しないでくれ」

 ルパートは忌々し気にエリアスを睨んだ。

「俺はただ、コイツの先輩として心配しているだけです。世間知らずの女は、男の甘言に簡単に騙されて身を崩してしまう」
「それは余計なお節介じゃないか? レディはもう立派な大人だ」
「精神年齢は十代のまま成長していませんよ」

 ああん?

「ルパート、それはおまえのことではないのか?」
「え?」
「おまえはまるで、お気に入りの玩具オモチャを取り上げられそうになって焦る子供のようだ」
「!…………」

 ルパートは顔を真っ赤にした。怒りからか、言い当てられた恥ずかしさからか。

「レディ、また約束の時間に」

 エリアスは私の手の甲にキスをしてから会議室を出ていこうとした。

「待てよコラァ!! まだ話は終わってねぇぞ!」

 ルパートが乱暴な口調でエリアスを呼び止めた。相手はお貴族様だってば。
 エリアスは半分だけ振り返ってルパートを見やった。

「頭を冷やせ」

 それだけ言ってさっさと行ってしまった。

「あの野郎!」

 ルパートは閉じた会議室の扉にイスを投げ付けた。ガシャンと激しい音が響いた。

「おいウィー、あんな奴にフラフラしてんなよ!」

 怒りに任せて肩を掴んできたルパートの手を、私は自分でもビックリするくらい冷たく払いけた。

「触らないで下さい」
「……ウィー?」

 エリアスの言った通りだ。ルパートにとって私は玩具オモチャなんだ。

「先輩は私の男関係によく口を出してきますが、もうやめて下さい。私はもう25歳、いい大人なんです」
「おまえが大人ぁ?」

 ルパートは鼻で笑った。

「そうです。今まで流してきましたがもう限界です。金輪際私のプライベートに口を挟まないで下さい」
「おいちょっと、何マジになってんの……?」
「迷惑なんです」

 私は断言した。ルパートは沈黙して私を見た。
 ……傷付いた? 私も傷付いたんだよ、六年前にね。
 まるで恋人のように接してきて、期待させるだけさせて突き放す。ルパートの常套じょうとう手段だ。
 あんたは私をフッたでしょう? 女として見られないって。それなのに男に騙されそうだから心配だ? ふざけんな。
 フラれて泣いた私を見たでしょう? それなのにどうして付きまとうの? どうして距離を置いてくれないの?

 もうあんたに振り回されたくない。あんな想いをするのは一度で充分だ。
 私は呆然とするルパートとキースを置いて会議室を出た。 
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