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四幕 キースの瞳(4)
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キースはちょっぴり対面に座る青年に同情した。
「キミがつらい経験をしたことは理解しました。でもだからといって、ロックウィーナを傷付けても良いことにはなりません」
「それはその通りだ。でもウィーがギルドに就職した時、俺はまだ過去を引き摺っていて、できるだけ恋愛とは遠い所に身を置きたいと思っていたんだ。だからウィーの気持ちに応えられなかった」
「だけどキミは、新人だった彼女の面倒を進んで見ていたじゃないですか」
「それなんだが……」
ルパートは頭を掻いた。
「昔のウィーって髪が短くて日焼けして、細いけど筋肉はしっかり付いてて、いかにも健康的な少年って風貌だったじゃん? 女の匂いがしなくてホッとしたんだよね。性格もサッパリしていたし」
「ああ……」
「で、俺みたいなド田舎出身ってことで親近感を持ったんだよ。先に都会に出てきた者として、いろいろ助けてやりたくて張り切って面倒を見たんだ」
「ああ~……」
ルパートにとっては完全に善意からくる親切行動だった。多感な時期だったロックウィーナは、それを異性としての好意だと捉えてしまったのだ。不幸なすれ違いだ。
「ズバリ、キミはロックウィーナの性別を忘れていたんですね?」
ルパートはコクリと頷いた。
「女の後輩というより弟みたいに可愛がっていたんだよ。そんな相手に告白されて、つい動揺してしまったんだ。俺はもう女は当分いいやと思ってたし」
「それで気持ち悪い、ですか」
ロックウィーナを振った時の台詞をキースに再現されて、ルパートは頭を抱えた。
「……いくら何でも言い過ぎたって思ってる。謝らなきゃ謝らなきゃって思ってたんだが、タイミングが掴めなくて……」
「それでなぁなぁにしてしまったと。クズですね」
「うっ……」
「ロックウィーナは二年間苦しんだと言っていましたよ?」
「すまない……」
「謝る相手が違うでしょう? 今だって彼女は思い出したら泣いてしまうくらいつらいんですよ」
「そうなんだ……」
「流石に恋心は消えたらしいですが。今はただキミのことが大嫌いだそうです」
「えっ、そうなの!?」
驚いた様子で顔を上げたルパートに、キースは絶対零度の眼差しを向けた。
「当たり前じゃないですか、あんな酷いことを言っておいて。もしかしてキミは、フッても相手は自分を好きなまま、ずっと待っていてくれるとでも思っていますか?」
「いや……、そこまで傲慢じゃない……です」
「ならいいです」
そう、それでいい。ロックウィーナはこれ以上ルパートのことで泣かなくていい。もっと優しい別の相手に目を向けるべきなのだ。
しかしルパートは確かな胸の痛みを感じていた。
「ロックウィーナへこれからどう接するか、それを考えましょう」
右手で前髪を掻き上げて露わとなったキースの顔を、ルパートは久し振りだなと観察した。
(この人もけっこう顔が整ってるんだよな。何で前髪で顔半分隠してるんだろ、勿体無い。顔出してたら女がドンドン寄ってくるだろうにな。元僧侶にはモテたいとかそういう欲が無いんかな? ………………うっ!?)
ルパートは心臓側の胸を手で押さえた。さっきとは違う痛みが胸を締め付けていた。
(なっ、何だ!? キースさんの顔を見てるとドキドキしてしまう……!)
「とりあえずボディタッチはやめなさい。それから高圧的な言動も……ルパート、聞いていますか?」
「あ、ああ……」
ルパートは自分の頬が火照る感覚に戸惑っていた。その様子を見たキースは慌てて前髪を下ろして顔を背けた。
「ルパート、しばらくこちらを見てはいけません! 窓の外でも見ていなさい!」
「え、ヤダ……。どうしてそんな冷たいこと言うんだ? もっとキースさんを見ていたい……」
口に出してから、ルパートは自身の発言を心底気色悪いと思った。どうして自分はそんなことを言ってしまったのだろう? どうしてキースを見ていると胸が高鳴るのだろう?
「何だこれっ……! 変だ、今の俺はおかしい、こんなはずは無いんだ!」
「解っています。だからこちらを見てはいけません」
「解る!? アンタの仕業なのか? 俺に何をした? 俺はどうなっている!?」
「……僕に魅了されています……」
「は…………?」
啞然としてルパートはキースを眺めた。横を向いたキースは瞼を閉じていた。
「僕は魅了の瞳の持ち主なんです」
「魅了の瞳……?」
「ええ。その名の通り、見つめた相手を魅了する眼力です。単純思考な相手ほど効きやすいので、天職は猛獣使いだそうですよ」
「で、でも俺はアンタと付き合い長いけど、こんな感覚になったのは今日が初めてだぞ?」
「人間の心は複雑ですから、そう簡単に魅了できません。ただし落ち込んでいる時は別です。気が弱くなっている人間は付け込まれやすいでしょう? 詐欺や怪しげなカルト宗教の勧誘に引っ掛かるのはそういう時です」
ルパートは腑に落ちた。ギルドマスターが言っていた、キースの一撃必殺の技とはこのことだったのだと。
(そっか、俺は今ウィーのことで悩んでいるから)
「キミがつらい経験をしたことは理解しました。でもだからといって、ロックウィーナを傷付けても良いことにはなりません」
「それはその通りだ。でもウィーがギルドに就職した時、俺はまだ過去を引き摺っていて、できるだけ恋愛とは遠い所に身を置きたいと思っていたんだ。だからウィーの気持ちに応えられなかった」
「だけどキミは、新人だった彼女の面倒を進んで見ていたじゃないですか」
「それなんだが……」
ルパートは頭を掻いた。
「昔のウィーって髪が短くて日焼けして、細いけど筋肉はしっかり付いてて、いかにも健康的な少年って風貌だったじゃん? 女の匂いがしなくてホッとしたんだよね。性格もサッパリしていたし」
「ああ……」
「で、俺みたいなド田舎出身ってことで親近感を持ったんだよ。先に都会に出てきた者として、いろいろ助けてやりたくて張り切って面倒を見たんだ」
「ああ~……」
ルパートにとっては完全に善意からくる親切行動だった。多感な時期だったロックウィーナは、それを異性としての好意だと捉えてしまったのだ。不幸なすれ違いだ。
「ズバリ、キミはロックウィーナの性別を忘れていたんですね?」
ルパートはコクリと頷いた。
「女の後輩というより弟みたいに可愛がっていたんだよ。そんな相手に告白されて、つい動揺してしまったんだ。俺はもう女は当分いいやと思ってたし」
「それで気持ち悪い、ですか」
ロックウィーナを振った時の台詞をキースに再現されて、ルパートは頭を抱えた。
「……いくら何でも言い過ぎたって思ってる。謝らなきゃ謝らなきゃって思ってたんだが、タイミングが掴めなくて……」
「それでなぁなぁにしてしまったと。クズですね」
「うっ……」
「ロックウィーナは二年間苦しんだと言っていましたよ?」
「すまない……」
「謝る相手が違うでしょう? 今だって彼女は思い出したら泣いてしまうくらいつらいんですよ」
「そうなんだ……」
「流石に恋心は消えたらしいですが。今はただキミのことが大嫌いだそうです」
「えっ、そうなの!?」
驚いた様子で顔を上げたルパートに、キースは絶対零度の眼差しを向けた。
「当たり前じゃないですか、あんな酷いことを言っておいて。もしかしてキミは、フッても相手は自分を好きなまま、ずっと待っていてくれるとでも思っていますか?」
「いや……、そこまで傲慢じゃない……です」
「ならいいです」
そう、それでいい。ロックウィーナはこれ以上ルパートのことで泣かなくていい。もっと優しい別の相手に目を向けるべきなのだ。
しかしルパートは確かな胸の痛みを感じていた。
「ロックウィーナへこれからどう接するか、それを考えましょう」
右手で前髪を掻き上げて露わとなったキースの顔を、ルパートは久し振りだなと観察した。
(この人もけっこう顔が整ってるんだよな。何で前髪で顔半分隠してるんだろ、勿体無い。顔出してたら女がドンドン寄ってくるだろうにな。元僧侶にはモテたいとかそういう欲が無いんかな? ………………うっ!?)
ルパートは心臓側の胸を手で押さえた。さっきとは違う痛みが胸を締め付けていた。
(なっ、何だ!? キースさんの顔を見てるとドキドキしてしまう……!)
「とりあえずボディタッチはやめなさい。それから高圧的な言動も……ルパート、聞いていますか?」
「あ、ああ……」
ルパートは自分の頬が火照る感覚に戸惑っていた。その様子を見たキースは慌てて前髪を下ろして顔を背けた。
「ルパート、しばらくこちらを見てはいけません! 窓の外でも見ていなさい!」
「え、ヤダ……。どうしてそんな冷たいこと言うんだ? もっとキースさんを見ていたい……」
口に出してから、ルパートは自身の発言を心底気色悪いと思った。どうして自分はそんなことを言ってしまったのだろう? どうしてキースを見ていると胸が高鳴るのだろう?
「何だこれっ……! 変だ、今の俺はおかしい、こんなはずは無いんだ!」
「解っています。だからこちらを見てはいけません」
「解る!? アンタの仕業なのか? 俺に何をした? 俺はどうなっている!?」
「……僕に魅了されています……」
「は…………?」
啞然としてルパートはキースを眺めた。横を向いたキースは瞼を閉じていた。
「僕は魅了の瞳の持ち主なんです」
「魅了の瞳……?」
「ええ。その名の通り、見つめた相手を魅了する眼力です。単純思考な相手ほど効きやすいので、天職は猛獣使いだそうですよ」
「で、でも俺はアンタと付き合い長いけど、こんな感覚になったのは今日が初めてだぞ?」
「人間の心は複雑ですから、そう簡単に魅了できません。ただし落ち込んでいる時は別です。気が弱くなっている人間は付け込まれやすいでしょう? 詐欺や怪しげなカルト宗教の勧誘に引っ掛かるのはそういう時です」
ルパートは腑に落ちた。ギルドマスターが言っていた、キースの一撃必殺の技とはこのことだったのだと。
(そっか、俺は今ウィーのことで悩んでいるから)
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