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四幕 キースの瞳(5)
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数分間キースと目を合わせないでいたら、ルパートの動悸は通常状態に戻った。
「すげぇ特技だな。使い方次第では国をも動かせるんじゃね?」
「僕にとっては忌々しい瞳です。これのせいで幼い頃に何度も誘拐されかけましたから。老若男女が僕を巡って争って、刃傷沙汰に発展したことも有ります」
「え……あ、そうなんだ……」
「それで両親は僕を寺院に預けたんですよ。修行を積んだ僧侶なら色欲に惑わされることが無いだろうと」
キースは頭を左右に振った。
「でも、駄目でした。寺院で生活するようになって二年目の晩に、僕は先輩僧侶に夜這いされたんです」
「………………」
「騒ぎで駆け付けた他の僧侶達も、僕の乱れた寝間着姿に欲情したみたいです。助けてくれるどころか暴行に参加しようとしたので、障壁魔法で弾き飛ばした後に僕は窓から逃げました」
「キツイな……」
「寺院には戻られないし、故郷に帰っても家族に迷惑がかかる。行く当ても無く彷徨って、空腹の為に草原で行き倒れてしまいました。そこを当時冒険者だったケイシーとエルダに拾われたんです」
ケイシーとはフィースノーの現ギルドマスターで、エルダは彼の妻だ。
「僕は回復役として彼らのパーティに迎え入れられました。二人は心身共に強い人達で、一度も僕に対して邪な態度を取らなかった。二人のおかげで漸く僕は人間らしい生活を送られるようになったんです」
「それでアンタはマスター夫妻と仲が良いんだな。このギルドへ就職したのもマスターと一緒に?」
「ええ。ケイシー曰く現役冒険者を続けるのがキツイ年齢になったそうで、引退してこちらへ。元Sランク冒険者だったケイシーは、前マスターを始めとした当時のギルド職員とは懇意の仲だったので、僕も含めて簡単に受け入れてもらえました。エルダは元気に専業主婦をやっています。たまに掃除で家の一部を破壊してしまうそうですが」
「そっか。……ゴメン」
ルパートは頭を下げた。
「軽々しくすげぇ特技だなんて言って、無神経だった。アンタはずっと苦労してきたんだな」
キースはふっと口元を緩めた。
「ルパート、僕はキミが優しい人間だと知っています。ロックウィーナを大切に想っていることも。彼女が七年間危険な出動で大怪我しないで済んでいるのは、キミがしっかり護っているおかげでしょう」
ルパートは少し照れたようだ。モゴモゴと言った。
「……ま。アイツはイイ奴だからな。死なせたくはねぇよ。弟……じゃなくて妹みたいな存在だ」
「だからこそです。妹のように想うのなら一線は引かないと。今のキミは優しいお兄ちゃんではなく、超シスコンのキモヤバ兄貴です」
キースの容赦無い物言いは、鋭いナイフのようにルパートの胸に刺さった。
「そこまで……酷いかな?」
「本気で気持ち悪くてヤバイです。己をよく知りなさい。さっきもノックせず彼女の部屋へ入って……。若い女性の部屋ですよ? 着替えの最中だったらどうするんですか」
「う……気をつける」
「あと彼女が他の男性と仲良くしても怒らないこと」
「でもアイツ世間知らずだからさ、悪い男に引っ掛かりそうで心配なんだよ」
「王都ほどではないにしろ、ロックウィーナは都会と呼ばれるこのフィースノーの街で七年間生活しているんですよ? もう充分世間は知っているでしょう」
「だけどアイツ。抜けてる所が有るし……」
煮え切らない態度のルパートにキースは苛立った。
「死ね。ルパート、新しい友達を作るなり趣味を見つけるなりして、自分の生活を充実させなさい。キミは夢中になるものが無いから、つい身近に居るロックウィーナに目が行ってしまうんですよ。できないのなら速やかに死ね」
「おい元僧侶、呪殺の言葉が紛れてたぞ」
「変わろうとしないキミに腹が立ったんです」
変わろうとしない……。言い当てられてルパートは身体を固くした。
痛い所を突かれた。恋人と親友を失って以来、特にやりたいことも無く惰性で生きてきた。
「夢中になるもの……か」
「そうです。ああ、後でロックウィーナにも魅了の瞳について説明をしておかないと。僕の目を見て顔を赤らめていましたからね」
「何っ!? アイツのことを魅了したのか!?」
「注意した傍から過剰反応してどうするんですか、死ね。前髪越しでしたし、すぐに離れたから彼女は大丈夫ですよ。もし僕を見てドキドキしてもそれは錯覚だと教えようとしたのに、キミが部屋に乱入してきたから説明が中断してしまったんです」
「それはすみませんでした。前髪が有れば大丈夫なのか?」
「オールクリアで見つめるよりはだいぶ魅了確率が下がります。ただ、長い前髪って邪魔でつい搔き上げたくなってしまうんですよ」
キースは前髪の先を指で摘んで溜め息を吐いた。前途は多難のようだ。
「邪魔なのは解るけど、そこは徹底してくれよ……」
ルパートも長い息を吐いた。
「すげぇ特技だな。使い方次第では国をも動かせるんじゃね?」
「僕にとっては忌々しい瞳です。これのせいで幼い頃に何度も誘拐されかけましたから。老若男女が僕を巡って争って、刃傷沙汰に発展したことも有ります」
「え……あ、そうなんだ……」
「それで両親は僕を寺院に預けたんですよ。修行を積んだ僧侶なら色欲に惑わされることが無いだろうと」
キースは頭を左右に振った。
「でも、駄目でした。寺院で生活するようになって二年目の晩に、僕は先輩僧侶に夜這いされたんです」
「………………」
「騒ぎで駆け付けた他の僧侶達も、僕の乱れた寝間着姿に欲情したみたいです。助けてくれるどころか暴行に参加しようとしたので、障壁魔法で弾き飛ばした後に僕は窓から逃げました」
「キツイな……」
「寺院には戻られないし、故郷に帰っても家族に迷惑がかかる。行く当ても無く彷徨って、空腹の為に草原で行き倒れてしまいました。そこを当時冒険者だったケイシーとエルダに拾われたんです」
ケイシーとはフィースノーの現ギルドマスターで、エルダは彼の妻だ。
「僕は回復役として彼らのパーティに迎え入れられました。二人は心身共に強い人達で、一度も僕に対して邪な態度を取らなかった。二人のおかげで漸く僕は人間らしい生活を送られるようになったんです」
「それでアンタはマスター夫妻と仲が良いんだな。このギルドへ就職したのもマスターと一緒に?」
「ええ。ケイシー曰く現役冒険者を続けるのがキツイ年齢になったそうで、引退してこちらへ。元Sランク冒険者だったケイシーは、前マスターを始めとした当時のギルド職員とは懇意の仲だったので、僕も含めて簡単に受け入れてもらえました。エルダは元気に専業主婦をやっています。たまに掃除で家の一部を破壊してしまうそうですが」
「そっか。……ゴメン」
ルパートは頭を下げた。
「軽々しくすげぇ特技だなんて言って、無神経だった。アンタはずっと苦労してきたんだな」
キースはふっと口元を緩めた。
「ルパート、僕はキミが優しい人間だと知っています。ロックウィーナを大切に想っていることも。彼女が七年間危険な出動で大怪我しないで済んでいるのは、キミがしっかり護っているおかげでしょう」
ルパートは少し照れたようだ。モゴモゴと言った。
「……ま。アイツはイイ奴だからな。死なせたくはねぇよ。弟……じゃなくて妹みたいな存在だ」
「だからこそです。妹のように想うのなら一線は引かないと。今のキミは優しいお兄ちゃんではなく、超シスコンのキモヤバ兄貴です」
キースの容赦無い物言いは、鋭いナイフのようにルパートの胸に刺さった。
「そこまで……酷いかな?」
「本気で気持ち悪くてヤバイです。己をよく知りなさい。さっきもノックせず彼女の部屋へ入って……。若い女性の部屋ですよ? 着替えの最中だったらどうするんですか」
「う……気をつける」
「あと彼女が他の男性と仲良くしても怒らないこと」
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「王都ほどではないにしろ、ロックウィーナは都会と呼ばれるこのフィースノーの街で七年間生活しているんですよ? もう充分世間は知っているでしょう」
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煮え切らない態度のルパートにキースは苛立った。
「死ね。ルパート、新しい友達を作るなり趣味を見つけるなりして、自分の生活を充実させなさい。キミは夢中になるものが無いから、つい身近に居るロックウィーナに目が行ってしまうんですよ。できないのなら速やかに死ね」
「おい元僧侶、呪殺の言葉が紛れてたぞ」
「変わろうとしないキミに腹が立ったんです」
変わろうとしない……。言い当てられてルパートは身体を固くした。
痛い所を突かれた。恋人と親友を失って以来、特にやりたいことも無く惰性で生きてきた。
「夢中になるもの……か」
「そうです。ああ、後でロックウィーナにも魅了の瞳について説明をしておかないと。僕の目を見て顔を赤らめていましたからね」
「何っ!? アイツのことを魅了したのか!?」
「注意した傍から過剰反応してどうするんですか、死ね。前髪越しでしたし、すぐに離れたから彼女は大丈夫ですよ。もし僕を見てドキドキしてもそれは錯覚だと教えようとしたのに、キミが部屋に乱入してきたから説明が中断してしまったんです」
「それはすみませんでした。前髪が有れば大丈夫なのか?」
「オールクリアで見つめるよりはだいぶ魅了確率が下がります。ただ、長い前髪って邪魔でつい搔き上げたくなってしまうんですよ」
キースは前髪の先を指で摘んで溜め息を吐いた。前途は多難のようだ。
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ルパートも長い息を吐いた。
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