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新六幕 十日目の先へ(5)
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まぁいい。私は勧められた豪華なイスに腰かけて、噓吐き魔王と向かい合った。
「……私とあなた、何が有ったの?」
ふぅ──っと、アルクナイトが長い溜め息を漏らした。
「俺は時間のループを破壊する為に、神の書いたシナリオを変えようとした。具体的にやったのは、常にエンディングの主人公となるおまえの結婚相手を変えることだ」
「うん。結婚相手の候補だった、エリアスさんやキース先輩を拉致監禁したんだよね?」
その結果、まさかのルパートと結婚することになったらしいが。どんな結婚生活だったのかちょっぴり気になる。キースとのエンディングも。
「だが、その程度では世界に大きな変化はもたらせなかった」
「みたいだね」
「だから考えたんだ。世界を震撼させた魔王が、神の加護を受ける乙女と結ばれたら大変なことになるだろう、と」
「え」
私の思考が一瞬止まった。
今アルクナイトはとんでもないことを言ったような。確認しよう、そうしよう。
「魔王って、アルクナイトのこと?」
「俺以外に誰が居る」
「じゃあ神の加護を受けた乙女ってのは?」
「おまえだろうな」
ええええええ!?
「アルクナイトっ……。えと、それはつまり……、あなたが私の結婚相手になろうと計画したってこと?」
「そうだ。実際にループ十五周目、俺とお前は夫婦になった。一日目からおまえに張り付いて、積極的にアプローチをした結果だ」
でええええええええええ!?
私は餌を求める金魚のように口をパクパク開閉させた。上手く言葉を紡ぎ出せなかった。
「この周回だけは、最終日に挑んできた部下達がすぐに退散していった。おそらく神が、俺とおまえのエンディングを守る為に裏から手を回したんだろう」
私達は過去に結ばれていたのか。目の前に座る少年の姿をした魔王が、私に愛の言葉を囁いたのだろうか。想像できない。
でも、彼が言っているのは真実だった。そう確信する根拠となる出来事を私は体験していた。
私にとってこの世界はまだ二周目だが、アルクナイトにとっては十七周目。つまり前回、私の首を絞めた時が十六周。結婚したのはその前の周……。
私の首を絞めながら、彼がつらそうにしていた理由が解ってしまった。
「取るに足らない市井の小娘が、魔王と結婚しても幸せになれる訳が無い。神の意向を覆す良いアイデアだと思ったんだがな……」
アルクナイトは苦笑した。
「俺と結婚したおまえは幸せそうに笑っていた。……他の男達と結婚した時と同様に、ハッピーエンドで終わってしまったんだ。だから俺は次の周、おまえ自身を殺そうと企てた」
「……でも、できなかったんだね」
「……………………」
しかも彼が私を殺そうとしたのは最終日、手下の軍勢と戦うギリギリ前だ。殺すつもりなら一日目にだって可能だったはずなのに、アルクナイトはそこまで引き延ばした。きっと迷っていたんだ。
「あのね、アルクナイト……。私があなたと結婚したエンディングで笑っていたのは、あなたが優しくしてくれたからだよ」
「覚えていないくせによくも言う」
「うん、ゴメンね覚えてなくて。でもね、あなたに首を絞められたのにあなたを怖いと思えなかったのは、私の本能があなたを信頼していたからなんだよ」
「……………………」
アルクナイトは私から目を逸らした。
「魔王だけど、あなたは優しい人だ」
エリアスもアルクナイトのストーカー行為をウザがってはいるが、嫌ってはいない。
「十五周目で私に近付いたのは企みの為だったのかもしれない。でもあなたの優しさは本物だった」
ガロン荒野でゴースト人形に襲われた時にしてくれたように、十五周目では私を護ってくれたんだろう。全ての災いから。
「覚えてないけど私はいっぱい笑って、あなたと一緒に、いっぱい幸せな思い出を作ったんだろうね」
「……………………」
「その周回の私は、本気であなたのことを好きだったんだと思う」
今も胸の高鳴りがそれを教えてくれている。
「アルクナイト、あなたは違うの? 私を殺せなかった。あなたも私を……」
「それ以上言うな」
アルクナイトは私の眼前に右手をかざした。その手の平を見た途端、私の全身から力が抜けた。
「あ、アルク……ナ……」
舌がもつれて、瞼が重くなってきた。これは催眠術だろうか?
だ、駄目だ。今眠ってしまうと、もうこの先アルクナイトに会えなくなる嫌な予感がした。そして私は夕食後の歯磨きをしていない。起きた時に口の中がえらいことになりそうだ。
「抗うな。眠ってしまえ」
瞼が閉じて闇の中を漂う私の耳に、アルクナイトの柔らかい声が届いた。
「おまえは何も心配せずに、十日目の先へ進むんだ」
強烈な睡魔と戦いながら、私は自分の身体がふわりと浮かび上がるのを感じた。アルクナイトがイスから抱き上げたのだ。
お姫様抱っこをされて、私は心地良いスプリングの上に寝かされた。天蓋付きの魔王のベッドだろう。
「すまないな。俺との結婚のことは言わないで行こうと思ったんだが」
アルクナイトの指が私の髪の毛に触れた。行くって……何処へ? 独りで!?
彼を止めたいのに、私の身体は指の一本も動かない。
「せめておまえには良い夢を贈ろう」
左頬に温かいものが触れた。彼にキスされたのだ。
「さようなら。……ロックウィーナ」
小娘ではなく私の正式名を口にして、アルクナイトが私から離れた。遠ざかる靴音、扉の開閉音。
行かないで。お願い、ここに居て。
何度願っても応えてくれる相手は居なかった。
そして私の意識は、アルクナイトが用意した夢の中へ引き込まれたのだった。
のどかな草原。そこへ脂肪をたっぷり蓄えた男達が十数人集まってきて、協力して白い柵を設置し始めた。嫌な予感がした。
出来上がった柵を、助走を付けて腹の出た男が飛び越えた。それを皮切りに、次々と太った男達が順番に柵を飛び越えていく。飛んだ後はまた列に戻って延々とそれを繰り返した。
肥えた男が飛び越えた。
くだらないダジャレを思いついている間に、男達は玉の汗を掻き呼吸が荒くなっていく。嫌あぁぁ、暑苦しい~。
アルクナイト、贈る夢の選択間違えてない? これはルパート用の呪いの夢でしょ? ロマンチックなキス、切ない別れの言葉、全てが台無しになったよ!?
やり直しを要求します! 今すぐここへ来なさい馬鹿魔王!!
「……私とあなた、何が有ったの?」
ふぅ──っと、アルクナイトが長い溜め息を漏らした。
「俺は時間のループを破壊する為に、神の書いたシナリオを変えようとした。具体的にやったのは、常にエンディングの主人公となるおまえの結婚相手を変えることだ」
「うん。結婚相手の候補だった、エリアスさんやキース先輩を拉致監禁したんだよね?」
その結果、まさかのルパートと結婚することになったらしいが。どんな結婚生活だったのかちょっぴり気になる。キースとのエンディングも。
「だが、その程度では世界に大きな変化はもたらせなかった」
「みたいだね」
「だから考えたんだ。世界を震撼させた魔王が、神の加護を受ける乙女と結ばれたら大変なことになるだろう、と」
「え」
私の思考が一瞬止まった。
今アルクナイトはとんでもないことを言ったような。確認しよう、そうしよう。
「魔王って、アルクナイトのこと?」
「俺以外に誰が居る」
「じゃあ神の加護を受けた乙女ってのは?」
「おまえだろうな」
ええええええ!?
「アルクナイトっ……。えと、それはつまり……、あなたが私の結婚相手になろうと計画したってこと?」
「そうだ。実際にループ十五周目、俺とお前は夫婦になった。一日目からおまえに張り付いて、積極的にアプローチをした結果だ」
でええええええええええ!?
私は餌を求める金魚のように口をパクパク開閉させた。上手く言葉を紡ぎ出せなかった。
「この周回だけは、最終日に挑んできた部下達がすぐに退散していった。おそらく神が、俺とおまえのエンディングを守る為に裏から手を回したんだろう」
私達は過去に結ばれていたのか。目の前に座る少年の姿をした魔王が、私に愛の言葉を囁いたのだろうか。想像できない。
でも、彼が言っているのは真実だった。そう確信する根拠となる出来事を私は体験していた。
私にとってこの世界はまだ二周目だが、アルクナイトにとっては十七周目。つまり前回、私の首を絞めた時が十六周。結婚したのはその前の周……。
私の首を絞めながら、彼がつらそうにしていた理由が解ってしまった。
「取るに足らない市井の小娘が、魔王と結婚しても幸せになれる訳が無い。神の意向を覆す良いアイデアだと思ったんだがな……」
アルクナイトは苦笑した。
「俺と結婚したおまえは幸せそうに笑っていた。……他の男達と結婚した時と同様に、ハッピーエンドで終わってしまったんだ。だから俺は次の周、おまえ自身を殺そうと企てた」
「……でも、できなかったんだね」
「……………………」
しかも彼が私を殺そうとしたのは最終日、手下の軍勢と戦うギリギリ前だ。殺すつもりなら一日目にだって可能だったはずなのに、アルクナイトはそこまで引き延ばした。きっと迷っていたんだ。
「あのね、アルクナイト……。私があなたと結婚したエンディングで笑っていたのは、あなたが優しくしてくれたからだよ」
「覚えていないくせによくも言う」
「うん、ゴメンね覚えてなくて。でもね、あなたに首を絞められたのにあなたを怖いと思えなかったのは、私の本能があなたを信頼していたからなんだよ」
「……………………」
アルクナイトは私から目を逸らした。
「魔王だけど、あなたは優しい人だ」
エリアスもアルクナイトのストーカー行為をウザがってはいるが、嫌ってはいない。
「十五周目で私に近付いたのは企みの為だったのかもしれない。でもあなたの優しさは本物だった」
ガロン荒野でゴースト人形に襲われた時にしてくれたように、十五周目では私を護ってくれたんだろう。全ての災いから。
「覚えてないけど私はいっぱい笑って、あなたと一緒に、いっぱい幸せな思い出を作ったんだろうね」
「……………………」
「その周回の私は、本気であなたのことを好きだったんだと思う」
今も胸の高鳴りがそれを教えてくれている。
「アルクナイト、あなたは違うの? 私を殺せなかった。あなたも私を……」
「それ以上言うな」
アルクナイトは私の眼前に右手をかざした。その手の平を見た途端、私の全身から力が抜けた。
「あ、アルク……ナ……」
舌がもつれて、瞼が重くなってきた。これは催眠術だろうか?
だ、駄目だ。今眠ってしまうと、もうこの先アルクナイトに会えなくなる嫌な予感がした。そして私は夕食後の歯磨きをしていない。起きた時に口の中がえらいことになりそうだ。
「抗うな。眠ってしまえ」
瞼が閉じて闇の中を漂う私の耳に、アルクナイトの柔らかい声が届いた。
「おまえは何も心配せずに、十日目の先へ進むんだ」
強烈な睡魔と戦いながら、私は自分の身体がふわりと浮かび上がるのを感じた。アルクナイトがイスから抱き上げたのだ。
お姫様抱っこをされて、私は心地良いスプリングの上に寝かされた。天蓋付きの魔王のベッドだろう。
「すまないな。俺との結婚のことは言わないで行こうと思ったんだが」
アルクナイトの指が私の髪の毛に触れた。行くって……何処へ? 独りで!?
彼を止めたいのに、私の身体は指の一本も動かない。
「せめておまえには良い夢を贈ろう」
左頬に温かいものが触れた。彼にキスされたのだ。
「さようなら。……ロックウィーナ」
小娘ではなく私の正式名を口にして、アルクナイトが私から離れた。遠ざかる靴音、扉の開閉音。
行かないで。お願い、ここに居て。
何度願っても応えてくれる相手は居なかった。
そして私の意識は、アルクナイトが用意した夢の中へ引き込まれたのだった。
のどかな草原。そこへ脂肪をたっぷり蓄えた男達が十数人集まってきて、協力して白い柵を設置し始めた。嫌な予感がした。
出来上がった柵を、助走を付けて腹の出た男が飛び越えた。それを皮切りに、次々と太った男達が順番に柵を飛び越えていく。飛んだ後はまた列に戻って延々とそれを繰り返した。
肥えた男が飛び越えた。
くだらないダジャレを思いついている間に、男達は玉の汗を掻き呼吸が荒くなっていく。嫌あぁぁ、暑苦しい~。
アルクナイト、贈る夢の選択間違えてない? これはルパート用の呪いの夢でしょ? ロマンチックなキス、切ない別れの言葉、全てが台無しになったよ!?
やり直しを要求します! 今すぐここへ来なさい馬鹿魔王!!
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