ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新六幕 十日目の先へ(4)

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☆☆☆


「アンタ、何か隠しているでしょう?」

 時刻は19時。場所はギルドの安食堂。昼間は冒険者達で賑わう食堂だが、夜間はギルド職員しか使用できないので閑散としている。選べるメニューも少ない。
 だからこそ職員同士が親睦を深めるにはもってこいの場所なのだが、アルクナイトはここでも会話せず黙々と食事をするだけだった。
 そんな態度に私は不安を覚え、斜め前に座る彼へ我慢できずに聞いてしまった。

「教えて。アンタ、まだ私達に言ってないことが有るんじゃないの?」
「……喧嘩腰で人に物を尋ねるべきではないな」

 アルクナイトはナフキンで口元をぬぐいながら私をたしなめた。所作が綺麗でさまになっている。流石は王様。
 私は一呼吸して、幾分か態度を和らげた。

「あなたは明日、昔の部下と戦うんだよね? 結果はどうなるの?」
「……………………」
「それは勝つのだろう。アルはロックウィーナの結婚式エンドを見ているのだから」

 エリアスがそう言ったが、アルクナイトは物憂ものうげな表情でかすかに笑っただけだった。

「……違うのか? アル」
「……………………」
「負けたのか? だがエンディング時に生存はしていたんだよな?」
「……………………」

 エリアスは身を乗り出した。

「答えろ、アル!」

 真剣なエリアスの様子に皆は息を呑んだ。彼のまとう闘気が食堂に充満して私達の肌をピリピリ刺激した。

「気を落ち着けろエリー。その闘気はここでは場違いだ」
「ならばアル、答えてくれ。勝敗はどうなった。おまえは無事なのか?」

 二人が親友同士だったというのは本当なんだな。今のエリアスは心からアルクナイトを心配しているように見えた。

「……部下との決着はついていない。戦いの最中でいつもエンディングが始まるんだ」
「え、では……」

 キースが口を挟んだ。

「ループが壊れて先へ進んだとしたら、戦いが継続されるということですか?」
「そうなるだろうな」
「アル、それで勝てそうなのか? 難しいようなら助太刀するぞ」
「ああ、魔王様にはずいぶんと世話になった。俺の力も使って下さい」

 アルクナイトはフッと笑った。

「馬鹿者どもが。人間が魔王に加担したらその後が面倒なことになるぞ。特にエリーおまえは、勇者の血を受け継ぐ者だろうが。家名を汚すつもりか」
「しかし……!」
「俺様を誰だと思っている? 至高であり唯一無二の存在、魔王アルクナイトだぞ。俺様の方から手を貸すことは有っても、脆弱ぜいじゃくな人間の助けなどらない」

 アルクナイトは席を立った。

「俺はもう寝る。おまえ達はそのまま宴を楽しむといい」
「アル!」

 アルクナイトはエリアスの呼び止めを無視して、さっさと食堂を出ていってしまった。駄目だ、このまま彼を独りにはできない。

「私、話してきます!」
「私も行く!」

 私に続いて席を立とうとしたエリアスを、隣の席のルパートが押し留めた。

「ここはウィーに任せよう」
「だが……!」
「ウィーは出会った当初から魔王様を怖がっていなかった。前の周回でも魔王様と会ったことが有るんだろう?」

 有る。首を絞められたあの周回よりもきっと前に。忘れてしまったが、きっと私はアルクナイトをよく知っている。

「はい……。彼との間に何が有ったかまでは覚えていませんが、私はアルクナイトを懐かしく感じるんです」
「ロックウィーナ」

 エリアスが私を真っ直ぐ見た。

「魔王と言う称号はこの際忘れてくれ。君はアルクナイトという一個人をどう思う?」

 魔王ではなくただのアルクナイトとして見て、彼は……。

「優しい人です。とても、優しい人なんです……!」

 私の脳裏に、忘れていたアルクナイトの温かい笑顔が蘇った。心が熱くなる。何だろうこの感情は。
 エアリスが微笑んだ。

「アルはキミに任せる。行ってくれ、ロックウィーナ」
「はい!」

 私は小走りでアルクナイトを追った。


「アルクナイト!」

 住居スペースである二階への階段を駆け昇った私は廊下も疾走し、自室へ入ろうとしていた魔王を呼び止めた。

「騒々しいな小娘。廊下を走ってはならんというマナーを知らんのか?」

 空飛ぶ反則野郎に常識をさとされたくなかった。

「話をしよう。あなたのことをちゃんと聞かせて?」
「もう話した。明日俺はかつての部下と戦う。時間のループを破ることができたらその後も戦いは続く。それ以上でも、それ以下のことでもない」
「まだ言ってないことが有るでしょう?」
「何をだ」
「私とあなたの過去だよ。私達は……、首を絞められた周回以前にも会っているよね?」
「会っていない。神のお気に入りであるおまえを観察はしていたが、俺がおまえの前に姿を現したのは前回が初めてだ」

 噓だ。私は熱くなる胸を押さえた。彼は独りで何かを抱えて、大きな戦いに挑もうとしている気がした。

「じゃあどうして私は魔王であるあなたを怖がらないの? あなたを見ていると懐かしいと感じるのはどうして? 泣きそうになるのは? この温かくて苦しい気持ちは何?」

 アルクナイトは軽く舌打ちをした後、自室の扉を開けて中へ入った。しかし私は足を出して隙間に挟んで、扉が閉まるのを直前で防いだ。

「……小娘、下品だぞ」
「時には強引に行くことも必要だと、ルパート先輩から学んだからね!」
「チャラ男め」

 諦めたのかアルクナイトは、扉をもう一度開いて私が通れるスペースを作った。

「さっさと入れ。もてなしはせんぞ」
「……うん!」

 そして室内を見て私はたまげた。
 細かい装飾が施されたチェスト、数点の絵画が立派な額縁に入れられて壁を飾り、職人の技が光る美麗なカーブを描くテーブル、程良いクッションを背もたれに付けたイスが私を迎えた。
 ここまでなら「いつの間に運び込んだんだ」で済ませられるが、どうやったのかベッドが天蓋てんがい付きになっていた。これは工事しないと無理だよね?
 私の視線の意味に気づいたアルクナイトはさらりと言った。

「出来得る限り魔城の雰囲気に部屋を似せた。俺は繊細で枕が変わると眠れなくなるんでな」

 私やエリアスの部屋で寝落ちしていたやん。
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