77 / 257
新六幕 十日目の先へ(3)
しおりを挟む
☆☆☆
アジトに居たアンダー・ドラゴンの構成員を全員、私達はフィースノーの街まで連行し、王国兵団の詰所へ引き渡してきた。首領と直に会っていた連絡係を捕縛できたことは大手柄だった。
連絡係は組織本拠地の場所を吐くことを拒むだろうが、おっかない尋問(拷問)道具を持った強面兵士の皆さんに接待されるのだ、情報提供は時間の問題だろう。
「あとは兵団に任せよう。冒険者ギルドが関わるのはここまでだ」
ギルドへ戻ったらマスターにそう言われて、私達は任務が完了したことを実感した。
「じゃあもう大丈夫なんですね? 俺達死ななくて済むんですね? レンフォード!! これからみんなで飲みに繰り出しましょうよ!」
明るいマキアがウェーイとなりかけたが、
「阿保、まだ時間のループの問題が残っている。明日一日何が有るか判らないんだから、体調は万全にしておくべきだ。そもそもおまえはほぼ下戸だろうが」
エンが冷静に諭してくれた。クナイを構えて「首は斬らない……」と自己暗示をかけていた彼とは別人のようだ。
「エンの言う通りだ。今日明日は大人しくしていろ。特別におまえ達には明日有休をやる。出動も雑務も何もしなくていいからゆっくりしていろ」
「えっ!?」
「有休!?」
マスターの言葉に過剰反応したのは私とルパートだった。
「有給休暇だな? くれるんだな? マジでいいんだな?」
「そんなに念を押すなよ。まるでウチがブラック企業みたいに聞こえるだろ?」
「まんまブラックじゃねーか! ここ数年間、有休消化できたのは2~3日だけだろう!?」
「普通の休みは一週間に一度はくれてやってるだろーがよ!」
「足りねえ! それに金が欲しい!」
マキアが遠慮がちに尋ねた。
「あの……有給休暇って、冒険者ギルドでは年間で十二日貰えますよね? それに週休二日制では?」
「ウチの支部でそれは無理なの。慢性的な人手不足で」
「そーなんだよ、だから仕方がねーんだよ」
「それを何とかするのがマスターの仕事だろうが!」
「そもそもおまえとセスが新人いびりするのが悪いんだ! 新しく入ってもすぐに辞めちまう!」
「アイツらはウィーのシャワー覗こうとしたり、下着盗ろうとした犯罪者だから!!」
「ぎゃー! まだギルドにお客さん居ます! そんなこと大声で言わないで!!」
「待て、それは初耳だぞ。未遂だろうな!? 手口は!?」
「エリアスさんは、そんなこと掘り下げなくていいですから!」
ギルドに来ている冒険者達が騒ぐ私達を遠巻きに見ていた。時刻は16時を回ったところだ。
受付嬢であるリリアナが、カウンター越しに私を気遣った。
「ウィーお姉様、お疲れなのに大丈夫ですかぁ? まぁったく……粗暴な男達はこれだから困るんです。不能になって賢者タイムに入りやがれですよ」
うん。その発言もマズいんじゃないかな。
「あ、リリアナちゃん、こんにちは!」
女のコ大好きなマキアが、エロ発言にもめげずにリリアナに話しかけた。
「朝も会ったけど、俺マキアって言います! 良ければ今度一緒にお食事でもどうですか?」
「あ、そういうのやってないんで。それに僕は男なんで」
一瞬にしてリリアナの仮面をリーベルトは外した。冒険者達には聞こえていなかったようだが、至近距離で衝撃の事実を知らされたマキアはフリーズし、エンも目を見開いた。
遠慮がちにキースが確認した。
「本当に……男性でしたか」
「はい。黙っていてすみません。あ、キースお兄様はお姉様にグイグイ行かないので好きですよ♡」
「はは……。ありがとうございます」
「もういいから、おまえらとっとと上がれや」
マスターが片手をパタパタ振って、居住スペースへ行くように促した。
「そうですね、部屋へ戻って休みましょう。あ、飲み会は無理として、みんなでゆっくりお喋りしながら夕食会はどうですか?」
「ああ、それはいいな」
「んじゃあ、18時半に食堂に集合ってことで」
キースの提案にエリアスとルパートが賛同した。私ももちろん賛成だ。今日のミッション成功はみんなで作り上げたんだ。互いを労いたい。
「レクセン支部の二人もそれでいいか?」
「はい。……ほらマキア、しっかりしろ」
「リリアナちゃんが……男。あんなに可愛いのに……」
エンは固まったままのマキアを引き摺っていき、他のみんなもゾロゾロ移動した。
(そういえば……)
いつも茶々を入れてくるアルクナイト。一言も二言も多い彼が、さっきは会話に参加しようとしなかった。どうしたんだろう?
私は黙ったまま歩く彼の横顔を観察した。
アジトに居たアンダー・ドラゴンの構成員を全員、私達はフィースノーの街まで連行し、王国兵団の詰所へ引き渡してきた。首領と直に会っていた連絡係を捕縛できたことは大手柄だった。
連絡係は組織本拠地の場所を吐くことを拒むだろうが、おっかない尋問(拷問)道具を持った強面兵士の皆さんに接待されるのだ、情報提供は時間の問題だろう。
「あとは兵団に任せよう。冒険者ギルドが関わるのはここまでだ」
ギルドへ戻ったらマスターにそう言われて、私達は任務が完了したことを実感した。
「じゃあもう大丈夫なんですね? 俺達死ななくて済むんですね? レンフォード!! これからみんなで飲みに繰り出しましょうよ!」
明るいマキアがウェーイとなりかけたが、
「阿保、まだ時間のループの問題が残っている。明日一日何が有るか判らないんだから、体調は万全にしておくべきだ。そもそもおまえはほぼ下戸だろうが」
エンが冷静に諭してくれた。クナイを構えて「首は斬らない……」と自己暗示をかけていた彼とは別人のようだ。
「エンの言う通りだ。今日明日は大人しくしていろ。特別におまえ達には明日有休をやる。出動も雑務も何もしなくていいからゆっくりしていろ」
「えっ!?」
「有休!?」
マスターの言葉に過剰反応したのは私とルパートだった。
「有給休暇だな? くれるんだな? マジでいいんだな?」
「そんなに念を押すなよ。まるでウチがブラック企業みたいに聞こえるだろ?」
「まんまブラックじゃねーか! ここ数年間、有休消化できたのは2~3日だけだろう!?」
「普通の休みは一週間に一度はくれてやってるだろーがよ!」
「足りねえ! それに金が欲しい!」
マキアが遠慮がちに尋ねた。
「あの……有給休暇って、冒険者ギルドでは年間で十二日貰えますよね? それに週休二日制では?」
「ウチの支部でそれは無理なの。慢性的な人手不足で」
「そーなんだよ、だから仕方がねーんだよ」
「それを何とかするのがマスターの仕事だろうが!」
「そもそもおまえとセスが新人いびりするのが悪いんだ! 新しく入ってもすぐに辞めちまう!」
「アイツらはウィーのシャワー覗こうとしたり、下着盗ろうとした犯罪者だから!!」
「ぎゃー! まだギルドにお客さん居ます! そんなこと大声で言わないで!!」
「待て、それは初耳だぞ。未遂だろうな!? 手口は!?」
「エリアスさんは、そんなこと掘り下げなくていいですから!」
ギルドに来ている冒険者達が騒ぐ私達を遠巻きに見ていた。時刻は16時を回ったところだ。
受付嬢であるリリアナが、カウンター越しに私を気遣った。
「ウィーお姉様、お疲れなのに大丈夫ですかぁ? まぁったく……粗暴な男達はこれだから困るんです。不能になって賢者タイムに入りやがれですよ」
うん。その発言もマズいんじゃないかな。
「あ、リリアナちゃん、こんにちは!」
女のコ大好きなマキアが、エロ発言にもめげずにリリアナに話しかけた。
「朝も会ったけど、俺マキアって言います! 良ければ今度一緒にお食事でもどうですか?」
「あ、そういうのやってないんで。それに僕は男なんで」
一瞬にしてリリアナの仮面をリーベルトは外した。冒険者達には聞こえていなかったようだが、至近距離で衝撃の事実を知らされたマキアはフリーズし、エンも目を見開いた。
遠慮がちにキースが確認した。
「本当に……男性でしたか」
「はい。黙っていてすみません。あ、キースお兄様はお姉様にグイグイ行かないので好きですよ♡」
「はは……。ありがとうございます」
「もういいから、おまえらとっとと上がれや」
マスターが片手をパタパタ振って、居住スペースへ行くように促した。
「そうですね、部屋へ戻って休みましょう。あ、飲み会は無理として、みんなでゆっくりお喋りしながら夕食会はどうですか?」
「ああ、それはいいな」
「んじゃあ、18時半に食堂に集合ってことで」
キースの提案にエリアスとルパートが賛同した。私ももちろん賛成だ。今日のミッション成功はみんなで作り上げたんだ。互いを労いたい。
「レクセン支部の二人もそれでいいか?」
「はい。……ほらマキア、しっかりしろ」
「リリアナちゃんが……男。あんなに可愛いのに……」
エンは固まったままのマキアを引き摺っていき、他のみんなもゾロゾロ移動した。
(そういえば……)
いつも茶々を入れてくるアルクナイト。一言も二言も多い彼が、さっきは会話に参加しようとしなかった。どうしたんだろう?
私は黙ったまま歩く彼の横顔を観察した。
1
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる