ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新六幕 十日目の先へ(2)

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「さーてあとはアンタだけだぜ? 覚悟してもらおうか」

 独り残った連絡係を、ルパート、エリアス、マキアがすっごい怖い笑顔でじりじりと追い詰める。

「く、くそっ!」

 連絡係は飛び込み前転をして三人の包囲網を突破した。そして後ろを振り返らず一目散に逃げ出した。
 私達が居るこちらへ向かって。

 連絡係は道を塞ぐように立つ私とキースに気づいた。しかし奴は私達を侮っていた。女と僧侶タイプの優男、自分の方が強いと高をくくったのだろう。
 不敵な笑みを浮かべた連絡係は方向を変えずに、腰から二本の剣を抜いて私達の元へ一直線に駆けてきた。

 バシンッ!

 奴の突進が止まった。
 そしてブルブルっと身体を震わせた後、両手から双剣が落ちて地面に突き刺さった。空中浮遊しているアルクナイトが弱い雷魔法を放ち、奴を感電させたのだ。

「やれ、小娘」
「ありがとう!」

 お膳立てしてくれたアルクナイトに礼を言って、私は連絡係の眼前に立った。
 さげすむ瞳の私を奴は睨み返そうとするが、それは虚勢だった。怯えの色がありありと表情に浮かんでいたから。
 私は胸の前でこぶしを作った。

「なっ……何なんだ、おまえ達は……」
「アンダー・ドラゴンを滅ぼす者よ」
「そ、その服装は、ぼ、冒険者ギルドの職員だな……?」

 舌が上手く回らない男。まだ少し帯電しているような。あれ、ここで殴ると私も一緒に感電しない?
 まぁいいや。少しぐらいビリビリしたって構うものか。私は復讐心を優先させた。

 そおーれぇっ!

「えぶらっ」

 腰を捻って繰り出した私の右拳が、連絡係の左頬に深くめり込んだ。ビリビリっとこぶしの先から微弱な痺れが腕全体に伝わった。やっぱり帯電してたーよー。アルクナイトのばーか。

 グラリと男は体勢を崩す。だが倒れることはまだ許さない。
 右拳を引っ込めた私は、すうっと息を吸い込んで気合で痺れを散らした。そして、

「マキアとエンの仇……」

 ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!!!!!

 両拳を連絡係の身体へ連続で叩き込んだ。ああ、一週間の鍛錬のおかげで前より早くこぶしを繰り出せる。気持ちいい。

「ごがぼぼぼぶべらばばぁっ!!」

 高速のボディブローを受けた奴は白目をいた。

「永遠に土の下に潜ってろ、このモグラ野郎!!!!」

 一周目でルパートにかわされたムーンサルトキックを、連絡係相手に今度こそ決めた。何という快感。

 背中から防御無しで地面に沈んだ連絡係。追撃を加えようとした私を、ルパートとエンが左右から抱き留めた。

「ストーップ! ここまでだウィー」
「それ以上やると……流石に死ぬ。ていうかもう手遅れかも」

 マジで?
 倒れた連絡係はピクリとも動かない。秘孔は突いてないから大丈夫だと思うが……、少し心配になった。

「セーフ! 大丈夫ですロックウィーナ、まだ治療可能な程度に生きています!」

 連絡係を診たキースのコメントを聞いて私は額の汗を拭った。危なかった。次からは私もエンのように自己暗示をかけよう。
 そのエンは私の背中を軽く二度叩いた。

「徒手空拳の使い手だったのか。なかなかの腕前だった。今度手合わせを希望する」

 よく解らないが親密度が上がったようだ。

「ロックウィーナ強い……。俺より強くねぇ……?」

 対照的にマキアは蒼ざめていた。

「あ、でも、強い女のコに逆に護ってもらえるシチュエーションも、それはそれで胸熱かも……」

 こちらとも親密度が上がったようだ。

「何はともあれ、無事に上手くいったな」

 ルパートが連絡係を後ろ手に縛った。四人のチンピラ達も向こうで、エリアスとアルクナイトによって拘束されているようだ。

「はい。でも明日一日が終わるまでは油断できません」
「そうだな。明日一日を平穏無事に過ごし切らないとな」
「ええ、明日……」

 私はここでふと思った。明日の最終日、時間のループを十七回も体験しているアルクナイトは、昔の部下と毎回戦うことになると言っていた。
 連絡係を捕縛したことで私達の未来は変わっただろうが、アルクナイトの未来はどうなるのだろう? どう行動しても部下と戦うことになるとも彼は言っていたような気がする。

(アルクナイトは反則並みに強いから、きっと大丈夫だよね……?)

 気絶しているチンピラをイスに代わりにしている魔王の身を、私はちょっぴり案じたのだった。
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