ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新七幕 魔王の瞳に映る世界(2)

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 俺の本来の姿は青年なのだが、エリアスを怖がらせないように少年の姿まで肉体年齢を戻した。更に少しでも放出魔力を抑える為に、封魔の効果が有るアクセサリーを身に付けた。
 この俺がかなり気を遣ってやったんだぞ? 解ってんのか馬鹿エリー。

 俺が現場に着いた時、魔物の返り血で真っ赤になっていたエリアスは、一本の大樹の陰に隠れて膝を抱えてシクシク泣いていた。面倒事を引き起こされて泣きたいのはこちらの方だったのだが。
 だというのに、アイツは俺を見た瞬間に目を輝かせて言い放ったのだ。

『キミも道に迷ったの!?』

 一緒にするなと突っ込みたかった。

『大丈夫、僕が護ってあげる! だから泣いちゃ駄目だよ?』

 泣いていたのはおまえだろうが。草で鼻水拭いたの見ていたぞ。
 俺は呆れながらも自分は魔王に仕える下男だと伝え、ディーザ領までの道案内を申し出た。
 救世主の出現に安堵したエリアスは、ゴミ捨て場で井戸端会議に興じる主婦の如く、根掘り葉掘り下男Aに扮する俺に質問してきた。俺は仕方無く適当な設定を話してお茶を濁した。エリアスは下男Aの身の上にとても同情的だった。

『そうか……。お父さんとお母さんが居なくて、お金の為に魔王の所で奉公を……。大変な思いをしているんだね。でもそんな環境に負けずに、自分の力でお金を稼いで暮らしているキミはとっても立派な人だよ!』

 話したことは全部嘘だったのだがえらく感動されて、あの時は非常に居心地が悪かった。
 とっとと厄介事を片付けたかった俺は、エリアスを連れて早足にディーザ領との境界線まで向かった。そして辺境伯の私兵が詰めている監視小屋を見つけた。

『あそこに居るのは父の兵士だ! ありがとう、連れてきてくれて。それでね……アル』

 どうせすぐに別れる相手だと、下男Aの名前を考えるのが面倒臭かった俺は、本名のアルクナイトを省略したアルと名乗っていた。

『キミさえ良ければ僕と一緒に来ないかい? 僕の父は厳しい人だけど、とても優しい人でもあるんだ。きっとキミを助けてくれる』

 何も知らないエリアスは、魔王を勇者の一族の保護下に置こうとした。思わず俺は苦笑してしまったのだが、その表情がアイツには哀しいものに見えたそうだ。
 エリアスは俺をしつこく勧誘したが、俺はお世話になった魔王様を裏切る訳にはいかないと、首を縦に振らなかった。

『そうか……。キミにもいろいろ事情が有るんだね』

 エリアスは諦めてくれたが、

『でもアル、僕達はもう友達だ! 僕はキミに会いにまた魔王領へ行くよ!』

 とんでもないことを言い出した。二度と来るな。大戦前に部下の数を減らされたらたまらない。
 だから折衷案せっちゅうあんを出した。俺の方がたまにディーザ領へ遊びに行くと。魔物の中にエリアスがうろついたら目立ってしまうが、人の俺なら人間が暮らすディーザ領をぶらついても誰も咎めないだろうと。
 エリアスは俺の提案を大喜びで受け入れた。自分の身を気遣ってくれたのだと勘違いして、俺に感謝して涙まで流した。こちらとしては事を大きくしたくないだけだったのだが。

 こうした経緯で俺は城を抜け出して、時々ディーザ領のエリアスに会いに行くようになった。アイツの友達として。
 魔王と呼ばれた男が滑稽こっけいなことだ。

 エリアスと交流を重ねる内に気づいた。アイツの世界はとても狭いものだった。
 辺境伯の息子として身体と精神を鍛え、将来は父親と同じく魔王領の監視役に就くことが決まっていた。そういうものだと物心ついた頃から教えられていた彼は、決められた将来に疑問を抱いていなかった。
 モルガナン家に生まれた高位貴族としての義務。それは時として呪いとなる。先祖が魔王と戦った勇者だとして、何故子孫も同じ道を辿らなければならない? くだらない。

 そして俺は魔王だ。世界へ宣戦布告する準備はほぼ整っていた。だからもう仮初めの友達ゴッコはやめにしようと考えた。

 ある日の密会時、俺は自分こそがモルガナンの宿敵、魔王アルクナイトだと打ち明けた。あの時のエリーの顔ときたら。
 もちろん簡単には信じなかったので、目の前で野原を一つ焼いてやった。焼いたのは俺の領地で、農作業で発生した茎や葉を集めておいた所だ。放っておくと害虫が発生する為に年二回、俺の魔法で野焼きをしている。

『あ、アル……、本当に魔王なのか……? 今まで私を騙していたのか!?』

 この時エリアスは14歳。一丁前に「私」と言う一人称を使うようになっていた。
 エリアスは瞳に涙を溜めてディーザ領へ戻っていった。途中で道を間違えそうになったので、俺の風魔法でさりげなく誘導して帰した。手間のかかる男だ。
 これで俺達の関係は切れた。俺は戦の最終準備に心置きなく取りかかれるはずだった。
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