ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新七幕 魔王の瞳に映る世界(3)

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 しかしエリアスは翌日、再び魔王領を訪れた。てっきり騙された恨みで我を失い、無謀にも単身斬り込んできたのかと思ったが、そうではなかった。

『アル、何が有ろうと私達は友達だ!!!! 二人の友情は天が落ちてこようが揺るがない!!!! 私達のことは誰にも引き離せない!!!!』

 エリアスは魔王領の中心で愛を叫んだ。
 おまえの身体を濡らすその赤い液体は、おまえに倒された俺の部下の返り血なんだがな。友の戦力をぐなよ。
 俺は悟った。コイツは馬鹿なんだと。

 こうなったら向こうに嫌われるように仕向けよう。エリアスが嫌がることを徹底してやろうと決めた。

 俺は今までディーザ領では普通の少年の振りをしていた。しかしこの瞬間からそれをやめた。空を飛び、虹色のオーラをまとい、真冬だというのに大量の花びらを道に撒きその上を歩いた。
 俺を目撃したディーザ領の民の間で、「奇跡の子」の噂が立つようになった。

『アル、会いに来てくれるのは嬉しいがもっと地味にしてくれ。このままではいずれおまえが魔王だと知られてしまう』

 エリアスの忠告は一切聞かなかった。
 目立つ黒い羽根が付いたコートを着て城下街を練り歩き、金貨で屋台の商品を買い占め貧乏人に配り、公園の噴水に遠い場所の風景を映し出して子供達の心を掴み、エリアスの兄貴の結婚式には魔法で大きな花火を打ち上げてやった。
 ハラハラしているエリアスの横で、ディーザの民からは盛大に感謝された。

 ここら辺で流石にエリアスは俺の存在を隠そうとするのだが、もう遅い。
 俺は暇さえ有ればエリアスを付け回した。剣の訓練を覗き見し、家族の食卓を窓から覗き、ついでに風呂も覗いておいた。断っておくが俺におかしな性癖は無い。全てはエリアスに鬱陶しがられる為の行動だ。
 アイツが令嬢とデートする日は行く先々に現れて邪魔をした。これには猛抗議された。もっとも、相手の女性を怖がらせたという理由でだったが。いかにも紳士なエリアスらしい。

 20代のエリアスは従順な子供ではなくなっていた。俺にも家族にも自分の意見をハッキリ言える自立心が育っていた。肉体的にはとっくの昔に。
 そんな彼は24歳の時に故郷を飛び出して冒険者となった。俺への別れの言葉は「もう付き合い切れない」だった。それでいいんだ。
 俺を嫌え。勇者の掟に疑問を抱け。そして広い世界に目を向けろ。ずっと思っていた。ディーザ領はエリアスにとって狭過ぎる空間だと。

 俺はきっとエリアスに、自由にできなかった自分を重ねていたのだ。だからアイツが旅に出た時は本当に嬉しかった。
 自分の剣の腕がどれほどのものなのか、並み居る猛者もさと競えばいい。家の為ではなく、自分の心に従って自然な恋をすればいい。
 いつかはディーザ領に戻らなければならないかもしれない。それでも、わずかな間だとしても、エリアスに自由な時間を味わって欲しかった。

 戦いの準備が整ったというのに、いつまでも行動を起こさない俺に部下達は苛立った。だがどうしようもなかった。エリアスと交流を持った16年間の内に、俺の中で燃えていた人間への恨みの炎が消えてしまっていたのだ。
 呆れた部下の半数……武闘派の連中が俺から離反し、戦力は一気に低下した。もはやいくさを起こすことなどできないだろう。
 俺は人類との協定をこの先も守り続け、静かに魔王領で暮らしていこうと思った。

 時折こっそり様子を見に赴いたが、エリアスは充実した冒険者生活を送っているようだった。数年間は平和な時が流れた。
 しかしここで前触れなく、時間のループが発生した。何度も続く十日間。俺はループを破る為に、人類ではなく神に挑むことになった訳だ。


☆☆☆


「お久し振りでございます、我が王よ」

 草原に点在する岩の上に座っていた俺の元へ、赤い短髪で黒い鎧を装着した騎士が近付いてきて片膝を折り、うやうやしく頭を下げた。

「おまえとは十日前にも会っているんだがな」
「……は?」

 俺の苦笑の意味を、時間のループを知らない黒騎士は理解できなかった。

「……王よ、最後の確認でございます。我々と一緒に来て頂くことは叶いませんか?」
「城に居る間に何度も議論したな? ソル。俺にはもう人類と戦う気は無い」

 コイツはソルだ。俺の元部下にして側近だった人間の男。優秀な魔法剣士だったが禁呪に手を出してしまい、国から犯罪者の烙印を押された。俺と同じく体内を巡る膨大な魔力で老いなくなっている。
 コイツが来たということは、ということだ。

 顔を上げたソルは俺を睨んでいた。忠臣だったが、だからこそ期待を裏切った俺を許せないのだろう。可愛さ余って憎さ百倍というヤツだ。
 ソルの背後には何千という魔物が控えていた。魔王の称号は今の俺よりソルの方が相応ふさわしいな。

「ただの傍観者でいて下さるのなら、貴方に手を出すことは有りません。でも貴方は我々が世界にいくさを仕掛けた時、きっと人間を護ろうとなさるのでしょうね」
「おそらくはな」

 俺は人に関わり過ぎた。自分と関係無いと言って見殺しにすることはできないだろう。
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