ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
131 / 291

西へ駆けろ!(1)

しおりを挟む
 日付は変わったががまだ昇っていない午前4時。暗い中で準備を整えた王国兵団第七師団と私達冒険者ギルドのメンバーは、アンダー・ドラゴンの本拠地へ向けて急ぎ出発した。
 本拠地の方角は国の西側、国境近くだ。日が暮れる前に目的地へ何とかして着いておきたい。アンダー・ドラゴンの構成員を逃がさないことも大事だが、暗い中で敵の陣地へ踏み込めば危険が増え、無駄な犠牲を払うことになるだろう。戦うなら明るい内だ。

 揺れる馬車の中で、私の隣に腰かけていたリーベルトがギュッと腕を組んできた。昨晩、暗殺者相手に大立ち回りを演じてしまった私。一晩経った今も彼はまだ心配してくれているようだ。
 リリアナではなくリーベルトと称したのは、今日の彼が化粧も女装もしていない青年姿だからだ。

「時間が無くてメイクできなかったみたいだね。私もすっぴんだけどさ」
「いえ。ヒラヒラした服では戦いにくいので女装をやめたんです」
「でもそれだと、あなたがシュターク商会の御曹司だとバレちゃうかもだよ?」
「いいんです。お姉様を護ることが最優先です」

 キッパリと言い切ったリーベルト。完全に男性の見た目となった彼に密着されるのはドキドキした。ギルドで何度も抱き付かれていたが、その時はおっぱいの詰め物がワンクッションとなっていたので気にならなかった。女性だと信じていたし。

 アスリーは普段通りだったが、マキアが険しい表情で暗い窓の外を眺めて……と言うより睨んでいた。「おはよう」の一言以外は無言だった。
 私は馬車メンバーの最後の一人、エンに気になっていたことを尋ねた。

「ねぇエン、ユーリさんはアンドラ本拠地へ戻ったと思う?」

 聞きにくかったが大切なことだ。私達によって退しりぞけられたユーリは今どうしているのか。エンは表情を変えずに答えた。

「戻っただろうな。首領に即時の亡命を勧める為に」
「財宝を諦めて首領はさっさと国外へ逃げるかな?」
「判らない。俺は首領の人となりを知らない」

 そっか。前の周回で首領に会った記憶を持っているのは私だけなんだ。私は首領のことを思い返してみたのだが……、物欲が強いかどうかまでは判らなかった。
 ただ一つ言えるのは、残忍な人物だということだ。
 喋り方は明るく社交的なようだったが、潰されたアジトの報復に、自ら乗り込んできたところから見て好戦的な性格なのだろう。そして遺体となったエンを足蹴にした男。

 前の周回での嫌な記憶を思い出して、顔を強張こわばらせた私にエンが謝罪をした。

「俺とユーリとのことに巻き込んでしまってすまない」
「それは気にしなくていい。私は討伐隊メンバーとしての仕事をしただけだから」

 そういえば。エンはユーリをどうするつもりなんだろう?
 私はユーリを取り逃したことをミスだと思ったけれど、もし捕らえていたらユーリは王国兵団に引き渡された。そして拷問に近い尋問を受けることになっていただろう。情報を吐いた後は投獄だ。最悪、死刑も有り得る。

(ユーリを生かす為には捕まえちゃ駄目なんじゃない?)

 エンの考えを確認したかったが馬車内ではできない。マキアはともかくリーベルトとアスリーが居る。ユーリはルービック師団長の暗殺未遂犯だ。彼を助ける方法を議論するのはマズイだろう。

(次の休憩がチャンスかな)

 私は馬車内で仲間達と他愛ない会話をしながら、エンと内緒話ができるタイミングを図った。


☆☆☆


 三時間後、待ちに待った休憩時間が与えられたが十五分と短かった。私は停まった馬車から飛び降りて女性兵士エリアまで走り、速攻でトイレを済ませた。
 それからエンと話をする為に彼を捜したかったのだが、ぎゃー、立って用足し中の男性兵士がそこかしこに居てあまりキョロキョロできなかった。休憩時間が短いもんね。集中するよね。この中から運良くエンを見つけられても、彼も最中だったらどうしよう。

(あぁもう時間が無い。本拠地に着くまでにユーリさんのことを相談しておきたいのに……!)

 立ちション兵士を背景にして私が頭を悩ませていると、誰かが横から腕を引っ張った。

「ロックウィーナ、こっち」

 マキアだった。昇った太陽の下で燃えるような赤髪がキラキラと美しかった。

「こっちからなら見えないように歩いて、馬車まで行けそうだよ」

 マキアは小便兵士オブジェから私を遠ざけてくれた。私が男性の排泄姿を見て、羞恥心で立ち尽くしていると勘違いしたらしい。ああうん、ありがたいんだけど今はエンを捜さないと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...