ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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西へ駆けろ!(2)

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「マキア、エンを見なかった?」

 私の質問にマキアは眉間にしわを寄せた。彼にしては珍しい表情だ。

「……エンに会って、どうする気?」
「ちょっとね、話しておきたいことが有って」
「ユーリさんのこと?」

 鋭い。彼も以前エンからユーリのことを聞かされていたからか、結論に到達するのが早かった。

「ユーリさんを助ける為にどうすればいいか、エンと相談しようとしているの?」
「あ、うん……」
「やめろ」

 マキアに低い声で言われて、私は思わずビクッと肩を揺らしてしまった。

「キミはもう手を引け。ユーリさんのことは、俺とエンが何とかする」

 アルクナイトにワンコのようだと揶揄やゆされた愛嬌がマキアから消えていた。意志の強い男の目をしていた。

「いいね? この話はこれで終わりだ」
「嫌よ。私は引かない」
「何で!」

 私の腕を掴むマキアの手に力が込められた。痛いほどに強い。筋肉量はエリアス達に遠く及ばないが、マキアもまた男性なのだ。

「解ってないだろ? ロックウィーナ、キミは昨日の夜に死にかけたんだ。エンより強いユーリさんが逃げたのは幸運だったんだ」

 似たようなことをエリアスとルパートにも言われたな。みんなに心配をさせたことを一度は反省した。
 でもさ、やっぱり納得できないよ。どうして私だけ危険を免除されるの? 女だから?

「キミは確かに強い。でも勤務年数は長くても実戦経験はほとんど無いって、ルパート先輩と出動した時に彼から聞いたよ。無理をさせないでやってくれって」

 ルパート……。そんなことを根回ししていたんだ。彼は私に過保護だ。 

「だから、キミはキース先輩と一緒に後方支援に回るんだ」
「嫌」
「だから何で!」
「前の周回で……その状況だったから」

 私は顔を伏せた。

「キース先輩と私は安全な場所で待機して、あなたとエンの二人だけでアジトの裏口へ向かって……、それで…………」

 マキアの息を呑む音が聞こえた。

「もうあれを繰り返したくない。エンを殺させない。あなたを……自爆させない」

 見送った二人の背中。何もできなかった無力な私。変えてやると決意して過去へジャンプした。決意だけじゃない、以前よりもハードなトレーニングを課して日々励んでいる。
 顔を上げてマキアを見た。

「私は変わる為にここに居るの。もう護られているだけじゃない」
「!…………」

 マキアはひるまず、より険しい目つきとなって私を見据えた。

「キミの決心は立派だよ。それでも引くんだ。キミが嫌がってもみんなはキミを護ろうとするだろう。キミを死なせたくないんだ」
「それは私だって同じだよ。仲間を死なせたくない」
「ロックウィーナ」
「私とあなたとどう違うの? 性別? 男のあなたは死んでもいいの?」
「………………」

 マキアが唇を噛んだ。私を説得できずに苛ついているのだ。

「私とちゃんと向き合って、マキア」
「向き合ってるよ」
「向き合ってない。私を仲間ではなく保護対象者として見てる」
「それは……」
「私が足手まといにしかならないんなら諦めるよ。でも私だって七年間訓練を積んできたんだよ?」
「実戦経験はほとんど無いんだろ?」
「ええ。フィールドではルパート先輩が全ての危険を取り除いてくれたからね。まるで子供に接する親のように。今のあなたと同じように」
「……………………」

 マキアは言葉を失った。ただ訴えるような哀しそうな瞳で私を見ていた。彼を責めたい訳じゃない。
 私は一度深呼吸をして言葉の棘を消した。

「……前にどっかの馬鹿魔王がさ、独りで魔物の軍勢と戦いに行ったことが有るじゃない? みんなで馬鹿の後を追いかけたね」
「え、ああ」
「その時マキアが私の鞭に火魔法を付加してくれたんだよね。覚えてる?」
「うん。攻撃力が上がればいいと思って」
「あれ助かったよ。魔物を一気に数体倒せたからね。力を合わせると凄いんだね!」
「ロックウィーナ……?」

 私はマキアへ微笑んだ。

「私独りの力じゃ大したことはできない、そのくらい解ってる。頼りなく思われるのも」
「………………」
「だから、力を貸して下さい。私が独りで突っ走らないように傍に居て」
「傍に……」
「ユーリさんのことで暴走しないって約束する。私はあなたやエンの仲間に入れて欲しいだけなの」
「……………………」

 マキアはしばらく私をじっと見ていた。それから柔らかく笑った。

「キミは頑固だ」
「ガッチガッチだよ。自覚してる」

 笑い合う私達の耳にピイ──ッと高い笛の音が届いた。

「ヤバッ、休憩時間終了だ。急いで馬車へ戻らないと」
「ロックウィーナ、昼休憩なら流石に少しは時間が多く取られるはずだ。その時にエンとユーリさんのことを話そう」
「……うん!」

 私はマキアに手を引かれて走った。腕ではなく、手を繋がれて。
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