透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

仲直り

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結局、イストリアの所で相談した結果は。

やっぱり「私の気持ちを正直に話す」という事、一択だった。
まあ、言い訳しようとしても難しい状況だし。


しかし、私はまだ往生際悪く天空の門でウロウロしていた。

あの畑から帰ってきた後、イストリアの言う通り気焔は木を確認に行った。勿論、帰りは何も話していない。
迎えに来てくれた時も、イストリアがいるからか気焔はいつも通りだったし私も普通にする様努めてしまった。

顔を見た時が、まず、始めの謝るタイミングだったのは、分かっている。
でも……………。
まぁ、失敗、したのだ。


そうして私は、寝ている朝を部屋に置いてから、天空の門へ向かった。

あの木が島の、両端に伸びて出ているのなら。
きっとあそこから、見える筈だからだ。






どう、話したらいいのか。
ぐるぐると考えながら歩いてきたのだが、結局考えが纏まらず、到着してからもまだぐるぐるしている、私。

そしてここ、天空の門の舞台の上には少し緑が見える。
案の定、ひょっこりと緑の葉が顔を出しているその木は、今はまだそうはみ出てはいない。

どのくらいの早さで成長するのか、しばらくバレないといいんだけど。


気焔は飛んで行ったのだろう、何処にいるのかここからは姿は見えない。
辺りを確認して少しホッとした私は、解決していない問題を考えつつも自分もぐるぐると回っていた。




あの、イストリアの庭で私が相談をしていた時。
最終的に私の愚痴みたいになってきて、なかなかこの世界で本音で話せる人がいない(素性込みで)私は、思ったよりストレスが溜まっていた事に気が付いたのだ。

特に、今後の、事。

私達の未来、行く末の、話。


「まぁ、依るならなんとかなるわよ。」

朝なんかは、そう言うんだけど。

私だって、何とかなると、正直思っている部分はある。

でも。やっぱり。

漠然とした、不安に駆られる事だって多いのだ。


でもある意味、今回の様に「あの人」と私がハッキリした事でモヤモヤしなくなった部分は大きい。
多分今迄は、「気焔は姫様の石」というその事実の方が気になっていて、将来の話までは頭が追い着いていなかったのだと思う。


「あまり、不安になり過ぎず彼を頼りなさい。君のためなら。彼は、やり遂げるよ。そう、きっとどんな事でも。」

そう言って励ましてくれたイストリア。

私も、そう思う。


遠く流れる雲を見ながら、思い出す。

ラピスで私が迷っていた時。
ここに来て、また彼が燃えた、あの時にも。


約束、してくれた。

「信じれば、それがチカラになる」と、言ってくれた。

そう、なんだ。

それも、分かる。

だから多分。
理屈じゃないし、頭でも分かってるんだ。
でもどうしても拭えない、不安。
心の奥に、いつも小さく残る、なにか。

どうして、なんだろう。
スッキリしてないわけじゃ、ないんだけどな…………?

でも、な?
人は、悩むものだとも言うし?


「うーーーん。」

「何を唸っておる。」

「!」

「馬鹿者!」

いきなり声を掛けられて飛び上がった私は、お約束通りバランスを崩しフラフラと落ちそうになってしまった。

「えっ?!」

そのまま私を抱えて飛んだ気焔は、ふわりと島の外へ、飛んだのだ。

「びっ、くりしたぁ………。」


落ちるとは、思ってなかったけど。

流石に、ビックリするよ……。


少し、島から下がった場所、岩肌に沿って木が畝りながら伸びている。
その、少し隙間というかたわみのある場所に。

私を抱いたまま、腰掛けたのだ。

いやいや、かなりファンタジーな場所で、いつもだったら手放しで喜ぶ所なんだけど。
ただ、今日は逃げ場を塞がれた感が否めないのだ。



辺りは一面白く厚い雲に覆われ、グロッシュラーの下部、普通ならば絶対に見れない場所。
それだけでもワクワクの、この天空の揺り籠の様な、椅子。
背中には灰色の岩肌がすぐに見えるので、怖くはない。
まぁ、気焔が私を落とす筈がないのを知っているせいもあるけど。

しかし、今は夕方で目の前には厚く白い雲が漂っているのだけれど、下の方には所々橙の雲が見える。
以前、朝とベイルートと見た夕焼けに近い、紅はまだ見えない。

もしかしたらお天気の関係で今日は橙迄しか見れないのかもしれないけど。

「できれば、紅く。ならないかなぁ……?」


すっかり気まずさも忘れて雲に見入っていたが、ふと、いつもの様に気焔を見ると目が合ってしまった。


あ。

ど、どうしよう……………。

気まずいけど、目が逸らせない。


「あの瞳」をしている訳じゃない。

責める様な色も、呆れた様な色も見えなくて、そこに浮かんでいるのは、ただただ、私を心配しているであろう、いつもの金色だ。


……………綺麗。


天空の揺り籠で見るその、金の瞳はこの空の空間も相まってひどく透明度が高く、見える。
その、透き通りそうな金色が湛える色は、綺麗にゆらゆら揺れていつもよりも曖昧なのが見て取れた。


こんな時でも。
どんな時でも。

いつだって。

この、宝石の様な金色に護られてきた、私。


気持ちだって、伝えてくれていた。

解ってる、彼の心の中も、想いも。

なのに。

どうして?


逃げて、しまったんだろう。
きっと傷付いたかもしれない。
心配はかなり、した筈だ。
あの祭祀から、姫様とシンが協力してから。
私達の間で、その話はしていない。

私の中ではする必要のない話だったからだ。

だって私達は、「おなじ」でも「ちがう」から。

それでもこうして頻繁に姫様と交代する事が、いい事ではないのは、判る。
なんとなく、だけど。


でも。


だって。

やっぱり。


ジワリと目が潤んできたのが、分かる。


どうしたって。

一瞬だって。

「そんな話」があった事、考えられていた事、ラガシュの頭の中だけでなく相手のトリルにまで話が行っていて具体的だった事。

「あ。」

そうか。

が嫌だったのかも?

冗談でもなんでもなく、ラガシュが考えていたならば。
実現し得る、未来だったこと。

それが、嫌なんだ。

よりにもよって、ラガシュだもんね…………。

本気だって事が、判るから。

、嫌なんだよ…………。



「もう!あの人、とんでもないな……………。」

「?」

「なんか、もう…………。フフッ。」


急に笑い出した私に怪訝な顔の、気焔。
その顔もなんだか愛しくて、頭をいつもの胸に預けた。



「はーーーーーーぁ…………。」

少し、落ち着いてきて自分の位置を確認する事ができる様になる。

私達が座っている木はそこそこ太くて、ただ二人がきちんと体重をかけると折れるかもしれない、というくらいの木だ。

少しだけ小さな枝が、所々から出ていて小さな若葉も見える。どうやら知らない木みたいだけど。

おじいさん達、こんな木だったっけ??


すべすべと木肌を撫でていると、それまでずっと黙っていた口が開いた。

「……………お前、は。」

あっ。
これダメなやつだ。

その口調で気焔は自分の所為、もしくは姫様がなにか異変をきたしていると思っている事が分かったのだ。

この、少し口籠る感じ。

何となく、言いづらそうな、話題にしてはいけない事を持ち出す様な、そう、姫様の事を話す時の感じだ。

「違うの!……………私が、悪いの。」

パッと、頭を離し顔を見て瞳を確認する。

さっきよりも、揺れている瞳。

「違うの。」

ぎゅっと、首に抱きついて耳元で囁く様に話す。
顔を見たら、ちゃんと話せないかもしれないから。


「あの、ね?ごめんなさい。私、トリルから、ラガシュが気焔をトリルの婚約者に考えてたって、聞いちゃって…………。」

言葉にすると、凄く、恥ずかしい。
だって、滅茶苦茶たいした事ない、話だからだ。

ただの、ヤキモチでこんな事になるなんて。

「自分でもビックリしたんだけど、全然実現もしなかったし、ただのラガシュの思い付きだっていうのも、わかってた。分かってたんだけど、なんでか…………解んなくて。自分が。」

「モヤモヤしてて、大丈夫、大丈夫って言い聞かせてたんだけど、あの時、気焔を見て。「この人が、他の人の…」いや、無理駄目、ってなってもうどうしていいか分かんないし、逃げたくて、でもどうしようもないのも分かるし、気焔は悪くないしまぁラガシュはちょっと悪いけど、勿論トリルなんて全然被害者だし…………。」

「被害者。」

「あ、ごめん、違うの。そうじゃなくて…………。」

なんか。

意地悪。

「……………だって。」


「嫌だったんだもん。とにかく。どうしても。もう、凄く、すっごく、もう、心がうわーーーって、なって、もう、わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーって、」
「コラ!!」

「え」

気焔の声に、腕を離す。

背中を支えられくるりと首を、回された。

「あっ。」

そう、背後の空が。

さっき迄は軽めの橙だったのに、下からどんどん紅に染まってきたのだ。


「えーー?ただの、夕暮れじゃないの?」
「多分、違う。お前の声とピッタリに上がってきたからな。とりあえず、落ち着け。」

そう言って、私をギュッと懐に入れる気焔。

ちょ?

逆にドキドキ、するんですけど???


紅い空が見たくて、少しだけ、顔をずらした。



「う、わぁ……………。綺麗。」


紅が、上ってくるのは止まったけれど。

しかし既に染まっている部分は少しの橙も、どんどん紅に侵食され出してとても、美しい。

雲の濃淡と、紅の濃淡。
変化してゆく橙、はっきりと分かれる灰色の雲。


「こんな綺麗なら、毎日叫んでも、いいかも。」

ポツリと呟いた私の独り言に、文句を言う人は意外といなかった。



迫る紅と、空と、二人しかいない、この空間。

デジャヴだな……………。


「もう、なんもいらないな」とふと思って、シャットの煙突の上を思い出す。

しかも、「なにもいらない」とは全く思っていなかった事に気付かされた、今回の件。


気焔はどう、思っただろう?

急に心配になって、チラリと振り返り瞳を確認した。



目が合った途端言葉を発する間も無くチカラを流し込まれる、私。

強く、支えられている背中の腕が熱くて、きっと瞳が燃えているのが分かる。

「ごめん」

心の中で、呟いた。


きっと、彼だって。
嫌、というか不本意なのだろう。

自分の関係しないところでそんな事がありしかも私が逃げて、姫様になって。
心配したけど自分の所為もあると、思っているに違いない。
全然、責任無いと思うんだけど。


なんとなく、流れ込んでくるチカラでそれが解って、「大丈夫だよ」と背中をポンポンした。


それが、いけなかった。


ちょ、ちょ?


ちょっ、と??


き、気焔、さん???


ま、まっ いや、でも、おち、る?


えっ。

あっ?



あ、駄目もう、無理。



「依る?!」

パタリと力の抜けた私を抱えて、気焔が心配しているのが、分かる。

ふーんだ。

だって、もう!
キャパオーバーだっての!

落ちちゃうじゃん!
心配、してればいいんだ、フン!



弾かれたり、私が逃げたら落ちる、この状況で攻めてくる人が悪いと思う!


そうして私は、心配そうに呼ぶ声に「うーん」と一応の意思表示をしてタヌキ寝入りを決め込んだ。

もう!
自業自得だからね??






















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