透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

あなたは何色

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朝の後を追い、私も走っていた。


気焔に突っ込まれる前に逃げているのだが、新しい仲間が増え、ハイテンションなのも、ある。

それに。

もし、あの窓が。

「窓」じゃないかもしれないけれど、私のお願いを聞いてくれた「何か」が。

もし、ちゃんと色々な、石を用意してくれたなら。

ドキドキとウキウキが混ざって、転ばない様気を付けながら先を急ぐ。
兎に角早く、それを確認したくて細い川の横を急いで駆けていたのだ。





朝が池を覗いているのが目に入る。
辿り着くまで待ちきれず、つい遠くから手を振りながら呼び掛けた。

「朝!どう?いい感じ??」

「いい感じって何よ。………まぁ、予想通りよ。」

んん?
何それ?

とりあえずそのまま駆け、よろけながら「おっとっと」と止まって、池の縁に立った。

この島の水の始まり、湧き水の池だ。


今日も豊かな水が湧き上がっている様子が、走りながらも見えていた。

その、小さいながらも豊かに湧き出る水を湛える池には。
そこには朝の言う通り、水以外のものも沢山生まれていたのだ。



「わ、あ~っ!!」

思わず歓声を上げた私の目に、飛び込んできたのは。

こんなの、見た事ない。
予想、以上。


それは、それは沢山の、色、色、色。
まるで、色の洪水だ。

モコモコと湧き上がる美しい水の中に揺れて見えるのは、まるでジェリービーンズの様な色とりどりの石たち。
沢山のカラフルな色の石たちが、池の中で存在をアピールしてカラカラと待っている。
みんながみんな、元気のいい色で「早く、早く手に取って!」と言っている様に聞こえるのは、私だけだろうか。


この世界には無い、色数とその鮮やかさ。

外の世界から持って来た色も、そう鮮やかなものはあまり無い、このグロッシュラーで。

ここだけ、なんだか解像度が違う様に見える、池の中。
もし、自分でを創ったのでなければ。
なんだかニセモノの様な、気すら、する。

自分で創った筈なのに、しばらくまじまじと見つめてしまった。


正直、ここまでだと思ってなかった。

みんなにオモチャだと思われたら、どうしよう?
でも、大丈夫だよね??

まぁ…可愛いから、いんじゃない??


ニヤリと開き直った私は、嬉しくなって誰に何色をあげたらいいのか早速想像をし始めた。

みんな、それぞれ似合う色が、ある。
顔を思い浮かべて、ぴったりな色を探すのだ。

何しろ、色数だけは、いっぱいあるんだから。


「え。嘘、どうしよう。迷う。みんなそれぞれ、色がある子はその色にして、黄色の人はどうしよう?私が決めていいよね?いいよね?多分、みんな似合う色があると思うんだ?こんなにいっぱいあったら選びたい放題だし、絶対似合う色、見つかるじゃん……ウフフフフフフ……。」


「おい。」

「何度見ても凄いな、これは。」

三人も到着して、みんなで池を覗き込む。

一番最初にツッコミを入れたレシフェは、どうしてこんな色になったのかそれが気になる様だ。

「だってお前、この前と随分違う毛色だろうよ。前回は、よくあるまじないの色だったが。これは、なぁ…。」

「?駄目?」

「駄目じゃあ、ないが。」

「誤魔化しが、効かんだろうな。」

そう、気焔が言う。

「………あー、そうか、な?」

確かに。

鮮やか、過ぎるのだ。


「でもさ、綺麗過ぎて駄目って事、無くない?」

「いや。」

キッパリと、そう言ったのはクテシフォンだった。

「理由が、無い。こんなに、鮮やかな色になるはずがないんだ。」


えーーーーーーーーー。

困った様に、黙り込む男達。

クテシフォンは、「無理」と顔に出ているが、気焔とレシフェはきっと何か方法を考えているのだろう。
上手い、理由が思い付くかは分からないけど。



私は、不満だった。

さっき、「みんな、自由でいい」って思ったばかりだからかもしれない。
その後すぐに、この、クテシフォンの「縛られた考え」に触れてしまったから。

もう、いいんだよ。そんなの。

辞めちゃえ、辞めちゃえ!って。

どうしても、思ってしまうんだ。


不満気に、青い瞳を見つめてしまう。
彼の、所為じゃ、ない。

それも、解る。


でも。だって。そう、なんだよ。

ぐっと拳を握りしめて、灰色の大地を見る。
この、灰色の砂だらけの、島だって。
持ってる、チカラはきっと無限な筈だ。

それが、大地というもの、だから。


の、自然の、宇宙そらの、力を借りたなら。

これだけの、鮮やかな色に、なる筈なんだ。


みんな、見たでしょ?祭祀で。

あの、虹色の、光を。

降ったよね?

私、降らせたんだけど?


あらゆる綺麗なものが、世界には沢山あって、それはみんなが目にすることができる、そういうものだって。

そう、感じて欲しかったのに。


、なの?


、する?


どうすれば?

みんなが、これを受け取って、が変わっていけるんだ?




「解っとる。落ち着け。」

ふわりと背後から包まれ、目も塞がれる。

どうやら、また髪がフワリとし出していたらしい。


「お前、この頃ちょっとないか?」

呆れた声で言うのは、レシフェだ。

「………。」

否定できない私はそのまま、気焔の腕の中で黙っていた。

スッと、目隠しが外されて少し落ち着いたであろう事が判る。
自分ではもうすっかり、いいつもりだけど気焔の腕が外れないからまだ駄目らしい。

そのままレシフェの話を聞いていた。


「とりあえず。はウェストファリアに頼もう。渡すにしても、どういった理由付けにするのか、まだ聞いてないしな?そもそも、お前が配るのは無理だ。まぁ、どうしてもってなら、色の指定くらいは言ってみればいんじゃないか?が出来れば、お前はいいんだろう?」

「うん。……まぁね。」

なんだか腑に落ちないけれど、「私が」配れないのは、その通りなのだ。


ウェストファリアならまだしも、もしかしたらコレだってアラルエティーの……うん?でもアラルエティーはあの大きな石に力を込めて?みんなの?石を??うん??

その辺って、どう、なってるんだろ…?


私がぐるぐるしている間に、向かい側のクテシフォンもどうやらぐるぐるしていた様だった。

顔を上げると、腕組みのまま、まだじっと池の中を見つめていたからだ。


でもな…。

クテシフォンには。

今。ここで。

あげたい………な…ぁ?


くるりと振り返る。

気焔は正面から私を見ていて、言いたい事が分かっているのだろう。
独り言を言いながらぐるぐる回っているレシフェを顎でクイと指した。

そっちに、訊けって?そう?
なら………。

「ねぇ?」

「ん?」

レシフェはまだ私を見ない。
きっと石をどう、配るのか。
色々考えているのだろう。
だって彼は、いつだって調整役だから。

んー。
じゃあ、先に選んじゃおっかな??うん。


そうして私は勝手に、池の中を覗き込みクテシフォンに合う色を探し始めた。




うーーーーん。
白。普通。
髪色?濃灰。地味。
黄色系じゃないんだよなぁ………。
赤も違う。
橙なんて………いや、悪くは、ないな?
青系も違う。
紫も駄目。
紺…地味。

あ。

。これがいいじゃん!

これにしよう。


そうして、私がクテシフォンに選んだのは。

落ち着いているけれど明度がある緑に、黒がマーブルで入った半透明の石。
透明度は黒が入るのでそう、高くないがなんと言っても雰囲気にピッタリだ。

何となくだけど、こういうのって。

「名前」とかと同じで、イメージが大切だと思う。

力を使う時だって、クテシフォンが「この色」だったら。

「かぁっこ、イイ!!」

決めた。

これにする!


一人でグフグフ言いながら、石を拾い上げる。

冷たいけれど、気持ちのいい池の水はきっと出来たばかりの石たちを、しっかりチャージしてくれている筈だ。
そうして、一つ一つが誰かの手元に渡って。

また、みんなの力に、なるんだ。


水の中で、ツルリと撫でる。

汚れていた訳じゃ、ないだろう。
でも少しだけ。
緑の部分の明度が上がった気が、する。


そっと水から上げて、くるりと振り返ると気焔がパッと乾かしてくれた。

あれ。ハンカチ、借りようと思ったんだけど。
あの、最近は使っていない私の涙腺君が逃亡した時用の、やつ。

とりあえず乾いた事には違いないので、またくるりと回ってクテシフォンを見る。


腕組みをしたままの視線は、既に私に注がれていた。

フードが外れた、濃灰のサラリとした、髪。
青の瞳はいつもより、少し翳って見える。

大きなクテシフォンが少しだけ小さく見えて、胸がキュッとする。

きっと。

ここの人達、みんな。

だろう。


期待。逡巡。迷い。
諦め。後悔。期待。それをまた打ち消す迷い。


でも、決めた。
この人には、渡す。私が。

多分、渡さないと、受け取らないと思うからだ。

この人は、真面目だし、まともだ。
この世界で。
言われるがままだったとしても。

きちんと自分で考えて、修正してきたんだ。



躊躇するんだ。


もし、クテシフォンが「ありがとう!」とホイホイ受け取るタイプなら。
私も、考えたかもしれない。

石を、配るなんて。
無理かも、しれないって。


でもこうしてここで、この人が、迷ってくれるから。

私は、みんなに石を配りたいと思えるんだ。


「………そう、か。」

青い瞳を見つめたまま、ぐるぐるして自分の中での答えに辿り着く。

向かい側の青の瞳はまだ迷いが、見える。


しかし、私はニヤッと笑って。

スタスタと彼のいる方へ、池をぐるりと廻って行った。




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