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7の扉 グロッシュラー
白の本
しおりを挟む「いや、そもそも。私が、ラブレターを翻訳出来ると思っていたのが、間違いだった様だ。」
???
そんなイストリアの言葉から始まった、白の本研究会。
いや、「白の本研究会」は私が勝手に名付けただけだけど。
いつものネイアスペース、私達が陣取っている窓の側には人の姿は見えない。
基本的には離れて設置されているネイアスペースのテーブルだが、その中でもラガシュお勧めのここは、時折人が通る程度でゆっくりと調べ物が出来る。
どうやら私が来る前から早々と、白の本を広げていたらしい二人はきっとその「新しい訳」について調べていたのだろう。
私があの二人と歴史や祝詞をやっている間も、トリルはイストリアと白の本についてずっと調べていた。
トリルはまず、イストリアが訳した分の文字を貰って、自分の研究分と照らし合わせていったらしいのだが、その時に少し解釈が違ってきたらしいのだ。
「私も文字を専門で研究している訳じゃないからね。まぁ言ってみればあそこの文字が、判れば良かっただけだから。」
「本当は、この本と対になるものがあればもっと解ると思うんですけど。まあ、今はこれが限界でしょうね。多分、このディディエライトという人は。きっと、この文字でやり取りしていたのかも知れませんね。」
んん?
やり取り………?
私の中にもくもくと湧き上がってきた疑問、貴石の環境とディディエライトの名前。
白の本。
セフィラ宛の手紙。
長の、絵。
でも、確か………?
「この、本って。最初にメッセージが、ありましたよね?」
イストリアが手元の本をパラパラとめくって、初めのページに戻る。
「そうだね。「この絵に祈りが集まる事で
少しでもヴィルが救われます様に」
そう、書いてある。」
うーーーーん?
それを聞いて、腕組みをして悩み出した私を興味深く見ている薄茶の瞳。
その瞳に浮かぶ楽しそうな色を知覚しつつも、何かが気になり口を閉じる。
少し私の様子を見ていたイストリアは、しかしすぐにトリルと文字の話を始めて、二人は再び本の解釈に戻った。
イストリアの薄茶の瞳と、トリルの茶の瞳。
楽しそうに文字の話をしている二人を視界に捉えつつ、私の頭の中は「なにがおかしいのか」を探してぐるぐる、していた。
そう。
何か、が。
ピタリと嵌らないのだ。
何だろう?
白い、本。ラブレター、恋文の本。
あの絵に祈るように、長に、宛てられた、本?
長にも手紙、書いてたのかな?
でも、出せないもんね??
内緒で、本??
作る暇ある??無いよね?
ん?ディディエライトじゃない??
と、いう事は……………?
無言でスッと、白の本を引っ張り手元に持ってくる。
イストリアはトリルと話しているので、私にそのまま渡してくれた。
まだ話を続けている二人を見つつも、私は一人白の本を確かめようと、目の前の大きな本を見つめていた。
うーん?
この、豪華な箔押し。
いや、絶対、違うよね?
やっぱり?そう、かな…………。
確かめる様に、表紙をゆっくり、開いた。
初めの文字は、少し読める。
以前ダーダネルスに読んで貰った時よりは多少成長している私。
でも。
やっぱり?
ちょっと、違うよね?
もう1ページ、めくって確認する。
あれ?もしか、して??
少し、紙に違和感がある。
ほんの、少し。
多分、まじないだ。
私の予想が当たっていれば。
これは、確かに。
私にしか、判らない違いで、きっと私にしか判別出来ないのだろう。
剥がす?いやいや、それは駄目。
まぁ、でもこのままで………別にいいんだ。
そうだそうだ。
ん?待てよ?
でも?
この二人に教えたら…………剥がされそう、じゃない?
いや、無理かな………どうなんだろうか。
「ヨル。」
で?これの翻訳を聞けば解るかな?
「ヨル?」
ラブレターじゃなかったって事?
あ、そうか手紙だからって事か!
「ああ~、成る程!スッキリ!」
「は?」
「ヨル。どうしました?」
「え?………ああ、うーんと?あの、それでこの新しい訳っていうのは…………。」
「ああ、はい、これです。どうぞ。」
そう言ってトリルが渡してくれたのは、意外と短い手紙だった。
「やっぱり…。」
「彼を呼んだ方が良くないか?」
「そうですよね、ラガシュは…呼びに行って…。」
「ぃや、だいじょゔぶでず。」
全く説得力が無い様子の私は、案の定その訳を読んで泣いていた。
確かに。
これは。
ラブレターでも、セフィラに宛てた、ラブレターなのだ。
その、「ありがとう」で埋められた殆どの文はただ簡潔に言葉が綴られていて、短いものだ。
だけど。
本当に、大事な事を伝えようと思ったら。
きっと、余計な事は書けなかったんだ。
私はまだ、子供で。
子供を持った事がないし、想像も出来ない。
自分の子供がとられるって、どんな気分なんだろうか。
それって、我慢出来ることなの?
想像だけでも、多分、私無理そうなんだけど………。
それに、この手紙で多分一番伝えたかったこと。
それはきっと、「自分で決めて、進む」って事だ。
この、世界に来てから。
みんなが私に、言ってくれたこと。
それと、おんなじなんだ。
私が自分で決めて、自由に進めるように。
出会った人、みんなが。
私に、言ってくれた。
みんなは、自由に進めなくても。
私は、それで、いいんだと。
「ああ、だからだよね………。」
呟いて顔を上げると、二人は黙って私を見ている。
自然と、口を開く。
あの、イストリアが言っていた「理由」が分かったからだ。
唐突で、いきなりここで、する話じゃ無いかもしれないけど。
今、思った事を。
言いたいと思って口を開いた。
「私が、貴石を何とかしたいと思う、理由も。この世界を変えたい、変わればいい、と思う理由も。」
「みんなが、出会ったみんなが言ってくれるんです。「ヨルは自由にしていい」って。こっちはこっちで何とかするから、って。多分、みんなが私の事を思って、そう言ってくれてて。それって私を大事にしてくれてるからなんですよね。」
「私を大事にしてくれる人を、大事にしたい。これって、普通ですよね?なにも大層な事がやりたい訳じゃない。私なんて普通の中二だし。でも、私の事を考えてくれる人が幸せになって欲しいと、思うのは当然で、自分が出来る事があるならば。やりたいと思うのも、それも当然で。」
少し、考える。
私が、どうして。
そう、するのか。
「大義名分は、多分無いかもしれません。でも、「割りに合わない」からって、人助けをしないのは違うと思うし、私は「そうしたくない」。全てを、損得でしか見れなくなったら。私は、私を嫌いになる。それは、駄目だ。」
「私は、綺麗なものが見たいし、美味しいものも食べたいし、みんなと楽しく過ごしたいし、あの人が………むぅぅ、まぁそれは置いとこう、うん。それで、それを人から制限されるのなんて真っ平ごめんです。でも、みんなそうですよね?私に「それをしていい」と言ってくれる人にも、「そうして欲しい」と思う。そういう事じゃ、ないのかなぁ。」
最後は殆ど独り言になっている私の話を笑顔で聞いているイストリア。
トリルは何とも言えない、表情になっている。
その、楽しそうなイストリアに素朴な疑問をぶつけてみた。
私には、「それ」の意味が分からなかったからだ。
「でも、どうして「自分だけ」良ければいい、と思うんですかね?だって自分だけいいものを食べていても隣の人が粗末な食事とかなら、楽しめなくないですか?妬みとか、嫉妬とかも怖いし。いい事ないと、思うんですけどね??」
その、私の疑問に溜息を吐いて、深く腰掛けたイストリア。
その答えは疑問系だったのだけど、酷く納得できる事でもあった。
だって今の私の考えと。
内容は違えど、同じ事だったからだ。
「そうだね。私は本当のことは分からないけれど。多分ね、始まりは些細な事だったのだと、思うよ?」
「些細な事?」
「そう。「こっちの方が美味しそう」、「大きい方がいいな」とか、誰でも思う様な単純なことだ。でも、それができる人と、できない人が分けられてきて些細な事だからと「我慢」する人が出てきた。「争うよりは」と、みんなの和を望む人たちだ。それ自体は、とてもいいものだと思う。けどね、多分主張する人達が調子に乗ったんだろうね。それに「金」や「力」が絡んでくると、もう今の土台の出来上がりだ。ちょっとの狡さが、積み重なってこうなったのかも、しれない。」
「そして、それが普通になる。これが一番、厄介だ。君の知る、私を始めこのグロッシュラーの神官たちは。どんな人だと、思う?」
「神官、ってネイアとかって事ですよね?」
「そうだ。」
「うーん?よく知らない人もいるけど、基本的にはみんないい人ですよね?」
隣でパタンと本を閉じるトリル。
しかし、会話に参加する気は無い様だ。
「そうだね。でも。ロウワを酷使していたのも、そのネイアだしあの子達が通常どうなるのかも。知っているね?」
「…………。」
「そういう事だ。些細な事が積み重なり、それが普通になると感覚が麻痺する。それが当然の事だと信じて疑わずに、同じ人間を奴隷の様に使うことすら、ある。「いい人」である筈なのに。」
「これはね、誰しもがあり得る事で始めは小さな事なのだけれど、無視するととんでも無いことになる、そんな代物だ。「無意識」と「無関心」と「無知」。これが重なると、まあ酷いな。それは、また別の話で置いておくとして。どうして君は、そう、思った?何かこれを読んで気が付いたのか?」
あれ?
そういえば話がだいぶ、脱線している。
確か白の本について、考えてたんだよね?
そうして私はとりあえず、自分が気が付いた事を話す事にした。
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