透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

ある日の朝

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白い、部屋。


見慣れたドレープと繊細な刺繍、星屑の様な煌めきが朝の光でキラリと光る。

三角屋根の白い部屋、窓からの白い雲。

何故だかそれが重なって、「あの部屋は大丈夫だろうか」とふと思う。

エルバは「ここは残しておく」と言っていたけれど。

本の一冊でも。

持って来れば、良かったろうか。

あそこにだけで、誰もいない部屋に在るのは寂しく、ないだろうか。

今度訪ねた時に、預かって来ようと心に決めて意識を部屋に戻した。


私の現実は、この金色の隣。

この頃ちょくちょく私に滲出してくるこの想いに、悪気が無いのは解っている。
祭祀で祈れば、何か変わるだろうか。

変わって欲しいような、寂しいような。

複雑な気分でゆっくりと開く金の瞳を見つめていた。


「おはよう。」

「…………おはよう。」

相変わらずあのおかしな目をする気焔は、この頃諦めたようである。

しかし暫くは、外で私の事をずっと観察していて、何故だか納得した様な素振りを見せた後はおかしな目をするのは二人だけの時になった。

ただ、黙ってその金の瞳を見つめているだけなのだけど。

何とも言えない、気分になってつい、目で訴えてしまう。

そうして朝から流し込まれる、金色。

なんだか、あの子が私と一緒になってから。
もっと、もっとと思ってしまうのは、バレているだろうか。

そうだとしたら…………。


あばばばば…………。



懐に潜り込んだ私に、溜息が降って来る。

「今日も、図書室だろう?」

「うん。」

少しゆっくりと、落ち着かせるような声に安心してまた顔を出した。


いかん。

再び「もっと」モードになるのを恐れた私はその温かい場所を抜け出し、切り替える事にした。

うん。それが、いい。

そうして着替えを選ぶと「覗くなよ?」とお決まりのセリフを言って、扉を閉めた。






灰青の扉を潜り、広く白い廊下を見渡す。

もう、殆ど冷んやりとした空気を感じなくなった廊下は、春の訪れをその空気と高い場所から下がる空色の布で表していた。

緩んだ空気と、床から靴に伝わる感触で更に微細な変化が判る。

一昨日より昨日、昨日より今日。

確実に迫る空気の緩みと、石床の温度、祭祀への日にち、廊下を行き交う人の、多さ。

その変化を楽しみながらも、ついつい人間観察もしたくなって、足が止まってしまうのだ。


「行くぞ。」

そう、背後から声を掛ける金色。
立ち止まっている私の手を取ると、真っ直ぐに廊下を横切り進んで行く。

その靡く青のローブを見ながら、食堂へ向かった。




最近の朝食時の日課は、食堂で朝を探す事と銀ローブを探す事だ。

朝は、この頃大抵勝手にテトゥアンにご飯をもらっているか、地階へ行っているか。

一応ご飯をちゃんと食べているか、確認するのは私の仕事だと思っている。

いや、多分朝自身は「あんたに世話されるようじゃおしまいね」とか思っていそうだけど。


今日は姿が見えないので、地階に行っているのだろう。
少し寂しいけれど、朝が居れば私も安心だ。
この頃図書室ばかりで造船所も、地階も中々行く事がないのでありがたい事でもある。
それに、造船所はシェランも戻ったし、リュディアも来てくれた。
あっちは任せておいて大丈夫だろう。

そう、私は私のやるべき事を、やらなければならない。

それに、もう一つ含まれているもの。


ああ、いたいた。

銀ローブが二人に黄ローブが一人。赤もいるけれどあれは誰だろうか。
私の知らない人っぽいから、から来た人かな?

クテシフォンが言っていた「身分が上の人」の事を思い出して、「今日は無理かも」と小さく溜息を吐く。

そう、実は。

私は「アラルエティーに対するエローラ的役割」を諦めていなかったのである。


て、言うか。
考えれば考える程、祭祀前に話さなきゃいけないと思うんだよね………。じゃないと面倒くさい事になるだろうし、そもそも彼女がどう思っているのか、私は正確には知らないし??

この計画が、成功すれば。

多分、アリススプリングスがアラルエティーに「!」ってなって、そこから二人の関係がアレがそれでラブラブになったら、いいと、思うんだよねぇ………。


「おい。」

「ふん?」

ひたすらモグモグしながら、そんな事を妄想していた私を憐れみの目で見る気焔。

いや、食堂でその目はやめて欲しいんですけど……?

案の定、とっくに食べ終わっている気焔は私の空いた皿を纏めつつ、無言で「余所見しないで食べろ」と言っている。

確かに食堂は図書室よりは、危険だ。

人が増える事で「銀と青」の組み合わせの私達が注目される事も、増えたのである。


「はぁい。」

その目に対して返事をして、食事に集中する事にした。










食後はいつもの様に図書室で、研究の続きをする予定である。

とは言っても、私は祝詞の訳を詰める事と今日は多分イストリアが来ている筈だ。
なにやら「新しい事が判った」と伝言を受け取ったのは昨日で、とりあえず今日は白の本を調べる事になっていた。

トリルを加えて研究が進んだのなら、何よりだと思う。
それにしても、「新しい事」とは何だろうか。


期待に胸を膨らませながら、前方の金髪を追って歩く。

この、図書室での灯りの金髪も綺麗なんだよねぇ………。

そんな呑気な事を考えながら、いつもの様に右奥へ進んでいた。



「また、迎えに来る。」

「うん。」

いつものテーブルにイストリアとトリルが見えた所で、気焔は振り返ってそう言った。
何か用事があるのだろう。

祭祀関係の事では、何やらウイントフークも加わった事で更に手配が忙しいらしい。
布陣としては最強だと思うのだけれど、きっと祈りついでに石を大きくしようとか、あっちとこっちのバランスに拘ったりとか細かい余計な仕事が増えているに違いない。

きっと、いいものにはなるのだろうけど準備するのは大変そうである。

まぁ聞いてる分には、楽しそうだけどね………。


なんだかんだでシェランとリュディアは盛り上がっているし、レシフェもやはりウイントフークがいるといないのとでは全然違うだろう。
気焔もきっと痒い所に手が届く様になったに違いない。
ウイントフークが居ると、シンまでカバー出来るのも、大きい。

白い魔法使いは自分の研究に集中できそうだし、イストリアはこうして私達に勉強を教える暇もできる。
本当にウイントフーク一人を加えただけで、かなりみんなが楽になったのだ。


「やっぱりイストリアさんは、目の付け所が違いますよね………。」

イストリアの向かい側、トリルの隣に座った私は既に白の本を開いているイストリアを見ながら自然と呟いていた。


「ん?どうした?」

「いいえ。あ、一つだけ聞いてもいいですか?どうやってあの人、呼び出したんですか?」

結局、あの後イストリアの所には行けていない。
ゆっくりとウイントフークとの話を聞く暇が、中々取れないのだ。

お母さんの前のウイントフークさんとか、めっちゃレアだから絶対見たいんだけど…………。


何しろ、私はミッションをやり遂げたのだから、それを見る権利くらいはある筈なのだ。
感動の再会が見たかったのに、まるでずっと一緒だったかの様な違和感の無さでこの間も話していた。
どのくらい前から連絡を取っていたのだろうか。

私の期待の瞳を見つつも、イストリアは悪戯っぽい笑顔でこう言った。

「あれはね。実は、呼び出しただけなんだ。しかもフェアバンクス経由でね。」

「えっ?」

意味が分からない。

あそこで初めて、って事??!

「いやね?あの子の事だから、呼び出せば解ると思って。連絡手段が殆どない事も、あるが。私も流石に驚いたけどね?殆ど変化を見せなかったじゃあないか。驚かせようと思っていたのに。」

「え、え~~?」

「でも流石に店に着いたら怒られたけどね?」

「そうですよね…………そう、なんだ………。流石だな、本部長…………。」

言葉が見つからなくて、そう呟いているとトリルに袖を引っ張られた。

「ちょっと。」

はい。

声が大きかったです。


今日はまじないを張っている訳じゃ、ない。

そうして辺りを確認すると、早速本題の白の本について話を聞く事になったのだった。

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