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7の扉 グロッシュラー
この、島の要
しおりを挟むサアッと、風が吹く音がする。
草いきれの匂いが、一瞬したかと思ったけど。
このまじない空間は、快適な温度で保たれている。
扉を潜る瞬間だけだろうか、そのムッとする香りを通り過ぎるといつものハーブ畑へ着いた。
草花の香りと、気持ちのいい風。
そう、このまじない空間では風が吹くのである。
グロッシュラーの大地でも。
祈りが増えて、空が見えたなら風が吹くだろうか。
丁度、石柱から少し離れた畑の真ん中に出た私達。
ぐるりと辺りを見渡すと、大人達は石柱の側で話し込んでいてレナと二人の銀ローブは少し離れた花畑に、姿が見える。
隣の金色を見上げて「大丈夫」と言うと、手を離してレナの所へ向かった。
ここは、危険は無い筈だ。
そもそも、不浄の輩はここへは来られないだろうから。
大人達の所へ歩いて行った気焔を振り返って確認すると、三人に声を掛けようと近寄った私。
しかし、なんだか様子が変である。
うん?
何だろ?
喧嘩??
顔を見合わせてはいるものの、誰も言葉を発してしない三人は、何故だかこの美しい花畑に似つかわしく無い雰囲気を醸し出していた。
ランペトゥーザとレナが睨み合っていて、その間に腕組みしたベオグラード。
着いたばかりでもう、喧嘩でもしたのだろうか。
「どう、したの?」
とりあえずレナに駆け寄って、そう言った私に一度口を開くレナ。
しかし、すぐに口をつぐんでしまった。
レナが言い淀むなんて?
キロリとランペトゥーザを睨む。
絶対、原因はベオ様では、無いだろうから。
「ランペトゥーザ。」
私のその一言で、察したのだろう。
彼は当然の様に、こう言った。
「しかし、その者は。ロウワですら、無いだろう?貴石、それも見習いだ。」
「だから?」
そう、返してくるとは思っていなかったのだろう。
一瞬驚いた顔をした彼は、しかし未だ同じセリフを繰り返すばかりだ。
「そもそも俺達に軽々しく口を利いていい身分じゃ無い。何故ここに、いるんだ?」
「ランペトゥーザ!」
ん?
私が大きく口を開けた所で、先に大きな声を出したのはベオグラードだった。
「違うんだ。違うんだよ。………何と言っていいか、彼女は、違うんだ。」
「それを言うなら全部、違うんだよ。ランペトゥーザ。これから私達と一緒に行動するなら、ちょっとお願いが、ある。」
上手く、話せなくて悔しいのだろう。
レナと私、二人に視線を投げた後に苦い顔でランペトゥーザを見ているベオグラード。
多分、彼はまだこういった瞬間に立ち会っていないのだろう。
あからさまに、目の前で差別されているその、光景を見せつけられる、こと。
それも自分の大事な人が、だ。
しかし私はそもそも自分がすっかり、その点について失念していた事を悔やんでいた。
だって、レナを誘ったのは私だ。
その時点で、予測していなければいけなかった。
こうなる、事態を。
でも、こんな事はきっとこれから沢山ある筈なんだ。
一人一人を、説得する事なんて出来るのだろうか。何か、いい考えはないか。
しかしとりあえず、目の前の彼に納得して貰えないならば。
それすら難しいならば、私達の道のりは………。
いやいや、とりあえずはやってからだ。
何事も、簡単な事なんて無いのだから。
とりあえず私は、自分一人の脳みそなんてたかが知れている事は理解していた。
うん、絶対、この二人の方がいい案知ってそう。
そうしてレナとベオグラードを手招きすると、座れそうな場所へ腰を落ち着け会議を始めたのである。
ちゃんと、ランペトゥーザに聞こえる場所で。
「で、どう、する?」
「もう、言っても解らないだろうからいいわよ。このままでも。」
「「それは、駄目。」」
「だって面倒だもん。あの人、話聞く気あるの?」
「それは………僕が………。」
「ダメダメ、ベオ様。上から無理矢理聞かせたところで、駄目なんだよ。納得、してもらわないと。」
「じゃあどうする?」
「うーん………?力は?レナの方が強いかもよ?」
「それはな………。しかし、女はそれだけで疎まれたり、「女が強くなくていい」と言われたりするからな。」
「はあ?!何それ。面倒くさっ!じゃあ私なんて全然、ダメじゃん。」
「お前はなんかな………まぁ、それはいい。」
「そうだね。それはいいや。………で、レナだけど。」
「とりあえず、知ってもらうのはどうだ?人柄を知れば………。」
「てかさ、何でベオ様はレナの事好きになったわけ?だって最初はさ、「愚民が」みたいな事言ってたじゃん。」
「おま………それは言わないでくれ。」
「あ、ごめんごめん。」
「いいけどね。………今更。」
「でもさ、力があっても駄目、女だから駄目ってならどうしろっていうわけ??そもそもさぁ、何が違うかって言ったら生まれた場所だけでしょ??ベオ様だって、ランペトゥーザだって、ラピスで生まれてたらさぁ。まじない弱いと石すら貰えないからね??」
「そうなのか?!」
「そうだよ。もうちょっと勉強した方がいいよ。それに、レナみたいに可愛かったら攫われて貴石だよ??信じられる??なんなの、コレ。」
「………それはまずいな………。」
「そうだよ。マズイんだよ。だけど、残念ながら今はそうなってる。私達、別にベオ様達のペットじゃ無いんですけど。」
「あ、………ああ。」
「ヨル、その辺にしといてあげたら?別にベオグラードだけが悪いわけじゃ無いでしょ。」
「まぁそうだけどさ………。神の一族とかさぁ。そんなの、デヴァイに生まれただけじゃん。」
「………デヴァイに、生まれた、だけ………。」
「そうだよ。それなのにさ、力が強くて支配してるならまだしも?いや、駄目だな。えーと、そんな人生くじ引きじゃ無いんだからさ………。」
ん?
今のは………?
くるりと振り返って、一人残されている彼を見た。
声が聞こえたのは、背後からだ。
多分、口を開いたのは彼なのだろう。
呆然とした様子で、花の間に佇むランペトゥーザ。
ちょっと、いい絵みたいだけど。
彷徨う青い瞳は、ふらふらと私とレナの間を行き来して、そうしてベオグラードに止まった。
「じゃ、あとお願い。」
少しは、何かに気が付いてくれただろうか。
そう、上手くはいかないかも知れない。
でも。
レナの茶色い瞳を確認して、私達は立ち上がる。
そうして銀ローブの二人を置いて、歩き出した。
「ごめんね………。」
「なにが?」
多分、私の言いたい事を解って、こう返事をしているであろうレナ。
少し目がじんわりしなくもないが、そこは我慢だ。
レナの想いを受け取って、私達は石柱へ向かう事にした。
そう、本日のメインだ。
レナも、この畑に来るのは初めてだから。
「それにしたって、何処でハーブを調達しているのかとか、何か面白い食材を持ってると思ってたのよね………。」
何やら難しい顔で話し合いをしている大人達を尻目に、私達は畑を楽しみながら石柱へ辿り着いていた。
何しろ、広いのだ。
銀ローブの二人は、既に結構小さく見えていた。
「流石ウイントフークさんのお母さんだよね。やる事が、違う。」
あれ?
そういえば、てっきり知っている前提で話をしていたがレナはどこまで知っているのだろうか。
しかし、勘のいいレナの事だ。
イストリアから話を聞いた時点で、ある程度の予測はしていたらしい。
「ここは、何かしら訳アリの人も多いからね………。何しろ不思議なものを持ってくる魔女なんだから、何があっても驚かないわよ。」
「流石、レナ様………。」
「何よそれ。それより、これよ………これは凄いわね。ここまでのもの………、いや、島が浮くんだから当然なのかしら………。」
確かに。
頭を突っ込んでいるレナを見ながら、以前ここへ来てイストリアと話した事を思い出していた。
この、素晴らしく大きな石屈。
その時の私は「あっち」だったから、何となく感覚が残っているだけだけど。
確か、最初はただの柱だった筈だ。
それが、「あの人」が手を触れ、話し掛けて。
この岩肌が剥がれ、これが出てきたんだ。
「始まり」は、どうだったのだろうか。
始めから、覆われていた?
それとも、この美しい姿を晒していたの?
どうして?隠れたの?
身を、守るため?
確かにこれなら。
奪おうとする者も、いるだろう。
でもそれを実際に、できるのかと言うと。
難しいとは、思うけど。
顔を上げ、石柱を見上げた。
レナはレシフェに呼ばれて、いつの間にか大人達に混じっている。
大丈夫か、心配で少し様子を見ていたけれど、レシフェとイストリアがいるから問題無さそうだ。
みんな、そうならいいのに。
どうして?
始まりは、みんな。
そう、だったよね?
「そうだ。それが、解るか。」
突然、何処からか返事が来た。
驚いたけれど自然と頭に響いてくる、その声。
まさか?
でも、そうだよね?
「あの人」がこの石と話をしていた事は、覚えている。
「ねえ。できる、かな。また。みんなで、其々が、在りたいように、暮らすこと。」
「そうさな。それを本当に心から望むなら。変化は、するのだろうよ。既に、時はそう動き始めた。どの程度、「残せる」かは判らぬが。」
「残せる?」
その、私の問いに対して、返事は無い。
そう都合の良いように応えてくれる訳では無いのだろう。
見上げた石柱の、そのポッカリと空いた穴へ私も頭を入れてみる。
「う、わ…………。」
前回は私自身が見た訳では、無い。
だから自分の目で、見るのはこれが初めてだ。
「いやこれ…………もう、宇宙だね。」
その、石柱の中にあるポッカリと空いた空間はさながら小さな宇宙の様だった。
暗い、穴の中に無数に、びっしりと生え連なっている、水晶たち。
暗い中でも差し込む光が、キラキラと光り所々、虹の様に見えるのだ。
単純に、白く反射し光るもの。
虹の様に輝き、キラリ、キラリと色を変えるもの。
無数の大小の光が、私の頭の動きと共に瞬く様に動いて行く、その様はまるで御伽の国の夜空の様だ。
「ねえ?入って、いい?」
「ああ。お主ならば、良かろう。」
そうしてゆっくりと、足を掛けぐっと身体を入れた。
「依る!」
背後で、あの人が呼んでいたけど。
私は、この星空の誘惑には勝てなかったのだ。
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