透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

ラガシュの言い分

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「僕としては。あの、世代は滅んでもらった方がいい。もう、変わる事は無いでしょうから。」

「………。」

まあ、それはそうなんだがな…。

ラガシュの言葉に無言のウイントフーク、それを離れた本棚から見ている俺。
いつもの書斎には、微妙な空気が漂っていた。


ある日、急に訪ねて来たラガシュが書斎に入って開口一番口にしたのがこの過激な言葉だった。

暫く部屋を彷徨いていたウイントフークはドサリとソファーに座ると、遠くを見る目をしてこう言った。

「お前ら、言ってる事が同じなんだよな…。」

大きな溜息を吐いたウイントフークの、「お前ら」の意味が分からない。
とりあえずテーブルに降り、「俺じゃないよな?」の意でくるりと回っておいた。


「レシフェがな。最初の頃、そう言っていた。まあ、まだあいつも思ってはいるかも知れんが。」

成る程?

俺はレシフェの光で石にされた。
あいつの過激さは、知っているつもりだ。
その話を直接、聞いた事は無いが容易に想像できる、その様子。

俺はそんな奴の様子を見て「血の気の多い奴が増えて困る」と、思っていると思ったのだが。
意外と、そうでもなさそうなのである。

なんとウイントフーク自身も、物騒な事を言い出したからだ。


「しかし調べれば調べる程、埃が出てきて何とも言えん。埃で済めばまだいいが、そんな可愛い話でも無いものも多いしな。」

「埃が、可愛い………。」

つい呟いてしまう。
俺の見聞きした事はウイントフークへ報告する様にしてはいるが、その総括を聞く事はあまり無い。
基本的には何か作戦がある時にしか、要点は口にしないのだ、この男は。


しかしその口振りに乗ってきたラガシュはやはり不満顔だ。

「何かまた新しい事が判ったのですか?やはり粛清が必要でしょう?」

その問い掛けには答えずに、ウイントフークは独り言の様な質問を始めた。

「そもそも青の家に記録はあるのか…どうして長が出たのか。突然変異…しかし変異とまではいかないのか。ヨルはまた別の筈で………やはり、アレは利用されているだけの存在なのか。それならばいつから?おい、お前の家に青い本があるな?」

「はい。多分、あなたになら閲覧させてくれると思いますけど…確実じゃないですが。」

「まあそれは許可させる。俺のカードを増やしてもらわんと困るのはそちらだからな。しかし………。」

再び立ち上がり彷徨き出した白衣を見て、ラガシュと目を合わせる。

大きく肩をすくめたラガシュを見て、俺も気になっていた事を訊いてみる事にした。

「しかし青はもう、ヨルに協力すると決めたのだろう?メディナに怒られないのか?」

俺はまだあの一喝を忘れていなかった。
叱られるのは久しぶりだったからな。

「僕としては。うちは、長を差し出し、次も差し出す予定だった。その連鎖を止めるにはやはり確実な方法かと思いますけどね。僕もずっと、生贄については疑問に思ってきた。まず、こちらの常識を壊すには元凶に消えてもらうのが一番いい。」

「たがな………うん。」

手っ取り早い方法を取ればいい、というものではない。

「お前、それじゃ。そいつらと、同じ事になる。多分、ヨルはそれが嫌なんだろう。」

「はい?」

「だから。それは一番、簡単な方法だろう?これ迄この世界で、取られてきた「楽な方法」だ。しかしな、それは。「長が駄目ならヨルを生贄にする」というのも「楽な方法」なんだよ。それも犠牲は、一人。一番、手っ取り早いんだ。」

「そういうこと、だろう?」

俺の問い掛けに、黙り込んだラガシュ。

拳を握り唇を噛んでいるが、解らなかった訳では無いのだろう。
多分、悔しさや憤りと、それは別の話なのだ。


「復讐心か………。」

多分、それもあるだろう。

身内と言うのは違うかもしれないが、きっと青の家にとってセフィラは大切な存在だったのだ。
その、「大切な存在」の受け取り方は個々に、違ったのかもしれないけどな。



「ラガシュ、お前はミストラスと懇意だな?」

いつの間にか再びソファーへ座っていたウイントフークが、急にそう問い掛けた。

「えっ、はい、まあ。どうしたんですか?」

「いや、少し訊きたい事があってな。あそこはグロッシュラーが長い筈だから………。いやしかし禁書室の方がいいか。」

「どうした?それならヨルに頼めばいい。」

「まあそうなんだがあいつに知れると。面倒だからな………さて、どうするか。」

問題が大きくなる前に、教えて欲しいものである。
基本、あいつにくっついているのは俺だからな。


そう思っていると、くるりと茶の瞳が俺を掴まえた。

「でも、本を捲れないな。」

「なんだよ。」

失礼だな。
これでも諜報係としては優秀なのだが。

俺を捉えたまま、なにやら悩み始めたウイントフーク。
きっと禁書室へ入りたいが、内緒で調べたい事があるのだろう。
観念してヨルを誘えばいいのではないか?
きっと喜ぶ。

「仕方無い。あいつを連れて行くが、上手く違う方向へ誘導してくれ。」

やはり他の案は思い付かなかったのだろう、そう言ったウイントフーク。
どの道誰かに頼むならば、確かにヨルが適任だろう。
きっとブラッドフォードになるとまたややこしくなる。

それにしても、気になるじゃないか。
ダメ元で、その内容を訊いてみる事にした。


「いいや、これも俺の予測の範囲だ。」

そう言って渋るウイントフーク。
だが、大抵その予測は当たっている事が、多い。

それを分かっているラガシュも俺に加勢してきた。

「それでもいいですから、教えて下さいよ。さっきの話と、関係あるのですよね?」

チラリと嫌な目をしたウイントフークは、しかし「仕方が無いな」という溜息と共に口を開いた。


「この、世界の歴史は表向き。栄えと滅びの繰り返しだ。しかし、その滅びの原因はきちんと書かれていない事が多い。どの、資料にもな。」

頷くラガシュ。
俺はラピスだから、歴史は知らない部分も多い。
しかしこの様子を見るに、認識的にはラガシュと同程度と見て差し支え無いだろう。

俺達を確認すると再び話し始める。

「大概、理由として書かれているのは「栄える事により争いが起こり、それを平定する為に神が降り無に帰した」という事だ。普通に考えて。栄える事で揉めるとすれば、資源の奪い合いだろう。石とか、食料、領土だな。あとはまじないの強い女の奪い合いとか。」

確かにこの辺りはヨルに聞かせられないな………。

「それで無に帰すのはいいが、元に戻っている筈なんだ。どの程度、戻るのかは知らんが今、この世界は。多分、殆ど「元に戻っていない」筈だ。それは、何故か。」

チラリとラガシュを見る、茶の瞳。

少し考えて、ラガシュはこう答えた。

「まじないが落ちているから、でしょうかね?」

「まあ、そうだろうな。しかし、何故まじないが落ちたのか。世界が再生しない理由は、それだけなのか。「予言」は、何度目の滅びの頃から。存在しているのか。意外と判っていない部分は、多いんだ。」

「それに。」

まだあるのか。
なんだか雲行きが大分怪しくなってきた。

「そもそも予言自体が、「創られたもの」の可能性すら、ある。まあ「予言」だからな、それを信じるかどうか、なんだが「信じる様に操作されている」のかもしれないって事だ。」

「ちょっと待って下さい?え………。」

分かる。
分かるぞ、ラガシュの気持ちが。

流石の俺も混乱してきた。


そんな俺達二人を見て、ウイントフークはその話を一言で纏めた。

とても有り難くない、言葉で。

「だから。俺達は、というかこの世界は。そもそも、全て「誰か」の意図によって。「そうさせられている」世界だって事だ。」

「そうして最後の家畜が、俺達なのさ。」


無言で灰色の瞳を、確認する。

俺に懇願する様な色を向けているが、どうしてやりようも、無い。

まあ、俺だって本部長曰くの「家畜」の一部という事になるのだろうからな?



静かになった部屋の中、ウイントフークは奥の研究室へ引っ込んで行った。
俺達にこれ以上話す気はないからだろう。

可哀想に、暗い予測だけを齎されたラガシュの顔は沈んでいる。
しかし俺は、そう落ち込んではいなかった。

そもそも、デヴァイの人間は俺らを「人と思っていない」節がある。
それをきちんと解っていれば、そうショックな内容でもないのだ。

いい事では、ないだろうがな。


「あまりすっきりと意味は、解らないが。一つだけはっきりしてきた事があるな。」

「何ですか?」

ポツリと呟いた俺に、すぐに返事が返ってくる。
俺は笑顔を作る事はできないが。

とりあえず、キラリと背が光る様傾け、こう言った。

「やはり。、あの子が現れたのだろうよ。「今、この時」にな。」

「…………ですね。」

少しだけ安堵が見え、ヨルの効果を実感する。


大の大人が、一人の少女にこれだけ安心感を齎されるとは。

流石と言うか、何というか。

しかし勿論、ヨルに任せきりという訳にはいかないのだ。

「さて。お前も気合いを入れないと。いい所、無しであいつはまた何処かへ。行ってしまうぞ?」

「えっ。」

「何も言わないが。多分だろうな。言うなよ?」

「…………はい。それに、これは僕達の問題ですから。」

「それが解っていれば、大丈夫だ。さあ、とりあえずお開きだな。」

「はい。」


そうしてラガシュも帰り、ウイントフークはもう今日は出て来なそうだ。

俺も久しぶりにあの癒される部屋で休もうか。


そうして斜め向かいの、小さな扉からあの子の部屋へ入って行った。
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