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8の扉 デヴァイ
銀の二人
しおりを挟むて、言うか。
訊きたいことは、沢山、ある。
でも。
これ、ここで、私が。
訊いていい、話かな?
白い小部屋、そう狭くはないこの部屋も大の男二人に私、だと少し窮屈である。
いや、この二人の圧が。
ちょっと、強いのかもしれないけど。
部屋へ入って早々、私の隣に陣取ったブラッドフォードは私達の微妙な雰囲気に少し警戒している様だ。
きっと私が何か言われたと、思っているのかもしれない。
でも、どちらかと言えば私が言ったんだけど。
うん?でもその後質問、されたか………。
しかし、アリススプリングスの「どちら」という言葉の意図する所が分からない。
できるだけボロを出したくない私としては、向こうから何か具体的な言葉がある迄は答えるのを避けたいのである。
しかし微妙な空気が漂う男二人の間に、下手な質問は投げれる気がしない。
斯くしてそのまま様子を見守る事にした。
さっきは「この二人、仲悪くないのかも?」と思ったのだけれど、やはりそうでもないのだろうか。
私とブラッドフォードを交互に見ているアリススプリングス、何か警戒している様子のブラッドフォード。
そんな二人を見ていても仕方が無いかと、私はブラッドが持ってきた予言の本を、手に取った。
ふぅん?
どうやらそれは、新説の方の予言の本だ。
それに、青い。
デヴァイの資料はかなり数が無くなっているとエイヴォンもウイントフークも言っていたが、これは銀の家だから持ち出せるものなのだろうか。
気になって、チラリと隣の青い瞳を見た。
「どうして。そっちを、持って来た?」
そう言ったのはアリススプリングスだ。
「………今はもう、こちらが主流ですよね?」
うん?
なんだか話が始まっちゃったけど?
大丈夫かな、この空気………。
アリススプリングスが上位だからなのか、しかし多分年齢も少し向こうが上なのだろう。
きっちりとした上下関係と上からの圧に、むずむずとしてきた私は思わず口を挟んだ。
「あの、新説の本は今は殆ど残っていないと聞いたんですけど。」
多分、ウイントフークの事を知っていれば私がこの情報を持っていても不思議じゃない事は分かるだろう。
そんな思惑で、訊きたい事をついでに訊く。
きっと私が口を挟むと思っていなかったのだろう、少し目を大きくしたアリススプリングスはしかし、楽しそうな色を浮かべてこう答えた。
「そうだ。処分する様に、言われていたからな。もうこれしか、ここには無い。」
えっ。
誰に?
そう訊きたかったけれど流石にすぐには訊き返せない。
どうしようかとぐるぐるしていると、ブラッドフォードが私の心を読んだ様に、質問を始めた。
「何故、予言の本を持って来い、と?誰が処分をさせているのです?」
ナイス!
ナイス質問だよ、お兄さん!
多分、顔に出ていたのだろう。
隣をくるりと見た私を、また楽しそうに見ているアリススプリングス。
そうして意外な答えが、その口から齎された。
「長の。指示だ。」
「えっ。」
まずっ。
でも。
これは、声出るよ………。
ちょ、ちょっと、待って?
「何故、長が?」
「それは言えないな。しかし、指示されたのは私では無い。ずっと前の、事だと聞いている。」
「確かに………年代的には………。」
「早くに父が亡くなったからね。全てを知っている訳でも、無い。長老達は多分………。」
?、?
ちょっと、待って?
男達は何やら他の家の長老の話に、話題が移った様だ。
でもなんとなく、アリススプリングスがのらりくらりと、ブラッドフォードを躱しているのが分かる。
その、間に私は自分のぐるぐるの中に、スッポリと嵌って、いて。
えっ。
なんで。
うん?
娘、だよね??
え?
意味が分かんない。
ちょ、誰か?
ベイルートさーん!
でも今話せない………よね、流石に。
でもきっとこの話を聞いて本部長に報告してくれれば………?
分かる、の……………???
えーーーーーー………。
暫くの、沼の中。
「ヨル。ヨル?」
呼ばれているのに気が付いたのは、何度目の声か。
少し、焦りが含まれる声に我に返ると、私を覗き込む心配そうな青い瞳と正面には相変わらずの少し楽しそうな明るい灰色の瞳。
その、明るい灰色と目が合うと同時に、その口が開いた。
「して、君は。何をしに、来た?」
「えっ。」
「何か調べに来たのだろう?」
ああ、そっちですか………。
フリジアの質問を思い出して、ついおかしな返事をしてしまった。
危ない危ない。
「あの。歴史を、調べに来たんですけど。お二人は、詳しいですよね?」
その、私の質問に何故だか顔を見合わせた二人。
何かおかしな質問をしただろうか。
私的には、この世界をこれから背負って立つ、二人ならばきっと歴史にも詳しいと思ったのだけれど。
さっき迄は灰色だけであった私を見つめる瞳に青が加わり、二人ともが「私の意図」を探っているのが分かった。
静かな奥のこのスペースには、何の音のカケラも無い。
きっと普段からそう人の多い事のないこの図書館は、遠くの人の気配だけが静かに流れてきていて。
先刻の震えの影響、片付けに駆り出される人々、震えの頻度が高くなっているということ。
図書館の管理を代々やっているのは銀の家だということ。
その二つが頭の中にフッと降りてきて、この二人が「図書館の震え」と「ここの歴史」に関係があると思っている事が解る。
それなら?
話は、早いんじゃ、ない?
私はここが。
「生きている」と、感じている。
図書館なのか、ここデヴァイ全体なのか、でもきっと全てが。
そうなのだと、思うのだけど。
この二人は知っているのだろうか。
昔は。
「生きて」た?
そう、記されているの?何処かに。
そう考えてみるとアリススプリングスは私に「何故謳ったのか」、訊かなかった。
ただ、みんなに「これからも協力する様に」言っていただけだ。
「説明しろ」という顔はしていたけど、その後それについては訊かれていない。
そこまで考えると、もう黙っていられなくて私は再び口を開いた。
「あの。歴史には、なんて書いてあるんですか?何故私が。謳うことを、不思議に思わなかったんです?あれが。」
「子守唄だと、知って………?」
でも。
歌詞だって、即興の適当だ。
「心」だけは。
込もっていたと、思うけど。
暫くの沈黙の、後。
再び顔を見合わせた二人は、いつの間にか立ち上がっていた私を座らせ、自分達も腰掛けた。
そうして銀の、男達は。
視線だけで、何かを通じ合った後、ブラッドフォードが立ち上がり扉の外を確認し、アリススプリングスは椅子を近づけ私達は内緒話をする体勢になった。
「実はな………。」
それから始まった話は、思いもよらぬ方向に舵を切る事になったのだ。
ベイルートさん居てくれて、良かったぁ………。
そう、その話はとても長くて複雑な、話だったのだ。
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