透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
527 / 2,047
8の扉 デヴァイ

子守唄の後

しおりを挟む

「今後も。この様な事があれば、また協力する様に。では各人片付けに入れ。」

「はっ。」

集まっていた人々が、散って行く。

くるりと振り返った明るい灰色の瞳が「さあ、説明して貰おうか」と無言で圧を掛けてきていた。


「お前、どうするんだ。」

コソコソと私に耳打ちするのはブラッドフォードである。

「どうもしませんよ。私は私の本当のことを………言える範囲で、言うだけです。それに、あの人。悪い人じゃ、ないと思うんですよね…。」


この前、全体礼拝で。

あの、声を聴いて判った。
この人、悪い人じゃないって。


なんというか、私としては。
ミストラスに、似ていると思う。

ある意味祝詞は、まじないに近い。
いや、呪文に近いと言うべきか。

だから発すれば、のだ。

その人が、どういう意図で。

を、発しようとしているのか、が。


多分あの先導している者の祝詞だけは、少し違うものの筈だ。

ミストラスがあの靄を操る様に、アリススプリングスもあの靄を集め「なにか」に吸い込ませているのだろう。

ただ、二人ともに悪意は感じないのだ。

でも、ある意味それも問題なのだけど。


「とりあえず、何処かへ落ち着きませんか?」

私をじっと見ている二人の男にそう、提案する。
そもそも聞かれていい話なのかも微妙だ。

青と灰、両方を交互に確認するとお互い顔を見合わせた男達は頷いて何処かへ歩き出した。

この二人………仲、悪くないんじゃない?

そんな事を思いつつも、大人しくついて行った。



この図書館はまだ私にとっては未開の場所も多い。
この前片付けに来た時は、殆ど手前迄だったし禁書室も中央辺りにある筈だ。

その、禁書室の柱を過ぎ右手にずっと入って行く。

ブラッドフォードよりも少し背の高い彼の金茶の髪がくるくるしているのが見えて、「この人はまじないも強いのか」と考えていた。
確か以前、誰かに「以前はブラッドフォードの家が一位だった」と聞いた記憶がある。

どの位前の話なのか判らないが、一位が変わることもあるのだろうか。
しかし尋ねると面倒な事になりそうなのは、流石の私も解っていたので、口を開く事なく前を歩く茶髪を眺めていた。
ベオグラードに似た、サラリとした髪である。

そういやベオ様は何時、戻るんだろう?

そんな事を考えつつ「きっとレナと離れたくのないかもね」なんて考え、ニヤリとする。


背の高い本棚の間を幾つも抜け、そろそろ一人では帰れなくなりそうだという頃。

グロッシュラーの図書室にもある、本を読めるスペースが見えてきた。
区切られた机と椅子、大体が一人用でそれぞれの家のプレートが付いている。

赤、茶、黄、白。

白が幾分広い様な気はするが、その奥に続く銀のプレートの扉が見えて目を丸くしてしまった。

ここでは、当たり前なのかもしれないけど。

銀のスペースだけ、個室の様になっているのである。
しかも、三つ、部屋がありブラッドフォードに「銀の中でも三つある」とは言われていた事を思い出した。
多分、それぞれの家が何処を使うのか決まっているのだろう。

青のスペースだけが無いのが気になるが、彼処は別で図書室があるとベイルートに聞いている。
あまりここで調べ物をする事は無いのかもしれない。


そうして一番奥の広そうな部屋の前に立ち止まったアリススプリングスはくるりと振り返ってブラッドフォードにこう言った。

「予言の本を持って来い。」

「いや、しかし…」

少し躊躇い、私をチラリと見るブラッドフォード。
きっと私と二人にするのが心配なのだろう。


でも、ベイルートさんもいるし…断れないんだよね?

「大丈夫」と目で言い、頷くと「すぐ戻る」とブラッドフォードは足早に本棚の道を戻って行った。

「さあ、どうぞ。」

嫌な、予感………?

その灰色の瞳の、意図は分からない。
でも。

まさかここで逃げ出すわけにもいかないし、私はこの人に言いたい事も、訊きたい事もあった。

ぐっと腕輪を服の上から抑え、なんとなく伝えておく。
最悪、呼ぶしかないだろう。
そんな事にならないといいんだけど。


そうして開かれたその扉の中に入って行った。




その小部屋は壁で仕切られている、天井が無い部屋である。
きっと大きな声を出したなら、外へは容易に聞こえるであろうその造りに安堵すると、早速内部の観察を始めた私。

この図書館は大きなまじない窓が幾つもあるので、基本的には明るい。
ここも、上は開いているのでそのままの明るさなのだが造り付けの机にはきちんと照明も完備されている。

そう、広くもないが狭くもない程良い広さの部屋に背中合わせになる様に机が二つ。

其々集中できる様にか、壁に向かい左右に設置されている。
その、右側の椅子を一つ私に座る様に出すと、自分は左の机の椅子に収まった。


うん?
話が始まる訳じゃ、ない………?

顔を突き合わせているという程ではないが、若干気まずい。

アリススプリングスは背もたれに腕を乗せ私をじっと見たままで、何を話すわけでもない。

沈黙に居た堪れなくなって、先に口を開いたのは私だった。

もしかして私から話しかけない方がいいのかもしれないけど。
もう、知らないもんね~。
いいんだ、「自由」だから。

それに。

この人から、特に嫌な空気は感じられない。

あの歌の後、みんなを解散させた時は「説明しろ」みたいな顔をしていたけれど。
今は、ただ静かに私の事を観察しているだけなのが判るのだ。

それがいいか、悪いのかは、別として。


「あの。」

「なんだ」、という瞳。

それを見て話してもいい事が分かった私は、とりあえず心にあった事を口に出した。

「ありがとうございます。皆さんにまた協力する様に、言ってくれて。」

「………ああ。」

多分私に礼を言われると思っていなかったのだろう。
少し驚いた様子で再び私をまじまじと見ると。

小さな溜息と共に、こう呟いた。

「君は。………いや、結局、なんだ?」

ん?
これ、は………?

その言葉を聞いて私がピンと来たのは、アラルの事だ。

多分、この人はあの時私達が歌って、光が降りて。

「そうかもしれない」という思いが、多少なりとも浮かんだ筈だ。

だから多分、今この言葉が、出たのだと思うのだけど………?


でも。
それならどうして、「色合わせ」をしようと思ったのだろうか。

表立ってブラッドフォードとの婚約に反対などはしていない筈だ。
私が知らないだけなのかもしれないけど。


「うーーん?」

つい、いつもの癖で呟きが漏れた。

「ヨル。」

しかし、注意を促すベイルートの声と同時にノックの音が響く。

「失礼します」そう言ってすぐに扉を開けたのは、明らかに急いで来たであろうブラッドフォードであった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...