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8の扉 デヴァイ
「その」話
しおりを挟む「そのね、夢?を見る様になってから。私の中で、「なにか」が変わり始めて。気焔と会ってる時も、なんか変なんだよね………」
「解ってるの、それは、人間が命を繋いでいく為に必要な事で、別に「悪い事」でも、何でもないって事も。」
「でもさ、やっぱり表立って口にできない雰囲気ってあるよね??え?あるよね?無い?いや、あるでしょ、とりあえず私達みたいな年齢なら尚更…そう?」
「自分の中での。その、印象が良くないのは解ってる。多分、その夢の所為もあるだろうし。でも、「いいもの」だって事も、解るんだよ………なんか、ホラ、いやらしいとかじゃなくてさ………」
「だから逆に。なんで、自分がこう、モヤモヤしてるのかも分かんないんだよね。見た?し、知ったし、解ったなら。「受け入れられる」筈じゃないのかな??何が、いけないんだろ?ねえ、なんだと思う?」
ピンク色の空を追いかける様にして迫る、山吹と若草色。
結構な時間、唸ったり、赤面したり、吃ったりしながらもつらつらと話していた私は、もう全部吐き出した気がしてレナにそう問い掛けた。
もう、半分自分が何を言っているのか、分からなくなっていたのかも知れない。
黙って私の話を聞いていたレナは、少しだけ考えるとポツリとこう言った。
「因みに。今、気焔と「そういうこと」できる?」
いきなりの質問に、少し息が止まる。
しかし、じっと私の目を見てそう言っているレナの瞳は揺らいでいない。
真剣なのだ。
恥ずかしさでどうにかなりそうだった自分をぐっと、元の位置に戻して少し、考えてみる。
「…………多分、無理。」
「まあ、そうでしょうね。」
「えっ。なんで?」
「そんなのあんた、それ解決しないと無理でしょうよ。」
レナが何を解っているのか、私がさっぱり分からない。
とりあえず視線を絶妙なグラデーションに戻して、頭の中を整える事にした。
私の中はまだ、ピンクか赤で占められていて少し冷静になる必要がある事が分かっていたから。
若草の緑が濃い部分を求め、視線を彷徨わせていたのだ。
「でもさ………これって、結構難しい問題よね。」
「うん?………うん。??」
そもそもがよく解っていない私にとって、全体が難しい。
レナが「これ」と言っているのは、一体「どの」事だろうか。
「なんか、思い付いた?解決までは無理かもだけど、とりあえずすっきりできて、祭祀でちゃんと祈れれば良いと思うんだけど………。多分、そんなにすぐ解決はしないと思うからさ………」
「まあ、そうね。」
そう言って再び、黙って湖を眺め出したレナ。
ほぼレナに丸投げ状態の私は、パタリと桟橋に寝転んで。
ぐるりと拡がるこのまじない空間の、空を楽しむ事にした。
なにしろ癒されれば、少しは良いアイデアも浮かぶかも知れない。
そう思いつつも、新しく反対側から進出してきた青に見惚れて、考え事はすっかり何処かへ行っていたのだ。
「でもさ。」
「…………ん?」
「あんた…………まあ、いいわ。多分、それって物凄く根深い、問題で。結果的に、解決しないかも知れないけど。でも、それって結局、貴石の問題とも、繋がってると思うんだよね………。」
「…………なんかそれは、分かる。」
ムクリと起き上がって、一緒に湖面を眺めていた。
そう、多分、これは、「私だけ」の問題じゃなくて。
「女性」の、問題でも、あると思う。
「私達」が、歴史的に置かれてきた、立場とか。
境遇?
思い返してみると。
悪い事、ばかりだけじゃ、ない。
「極上の獲物」であったこともある、私は。
いい思いだって、した事があるし、しかしそれと逆の苦い思いも、同じくらいしてきたんだ。
「生命を繋ぐ為に必要なこと」
「動物として自然な行為」
「「誰か」と共にある温かさ」
「「他者と繋がる」こと」
「溶け合う心地良さ」
「侵入される不快感」
「自分の「なか」を踏み躙られる感覚」
「「もの」としての自分」
沢山の感覚が自分の中にあるのが、分かる。
その、どれもが沁み込んで分かって、知ってはいるのだけれど。
「………納得?してない、みたいな??」
「でも、それはそうかもね。だって、私たちの置かれてきた状況は余りにも一方的過ぎた。そう思っちゃうのは仕方ない部分もあると思うわ。」
ぐるぐるの合間に漏らした呟きに、返してくれるレナ。
確かに。
「知る」のと、「解る」のと、「納得する」「腑に落ちる」は、違うのだろう。
この、絶妙な抵抗感。
受け入れているつもりだけれど、何処かで拒んでいる自分。
年月と共にこの艶のある板に変化したであろう桟橋を撫でながら、足をぶらぶらさせる。
私も、こんな風に時間が経てば。
心の底から「わかる」時が、来るのだろうか。
ふわりと隣で、青の波が揺れた。
「でもさ。一応、「男」も、経験したんでしょう?どうなの、その辺。だから一方的って事は無いよね?あんたの場合。少しは、そっちの気持ちも解るの?」
そう、レナに言われて改めて考える。
確かに経験した割に私の中での印象は、「男性が不利」だ。
言い方がおかしいかもしれないけど、確かに、そうなのだ。
「………なんでだろうね?どうしたって、されてる方の印象が強烈だからかなぁ?………でも。確かに?多分。」
吃りながらも、ポツポツと話す私を静かに待ってくれているレナ。
隣のブラブラ揺れている小さな足、濃いピンクの湖面に青の靴が、映える。
「多分、どちらも。「なにか」を求めていることは、おんなじで。「なにかが足りない」、多分それを埋めたくて。何かせずにはいられないと言うか、それに最適なのが「あれ」と言うか………まあ手っ取り早くは、ある。」
「あんた…………言い方………」
「まあ、うん。でも。それが、一番「ぬくもり」を感じれるのは、分かるんだよ。分かり易いし。でも。なんか。どこかが…………ズレて、る?」
温もりが、欲しくて。
「なにか」を、求めていて。
それが、お互いで、納得して一緒に、なる。
それなら、いい。
「…………ああ、「違う目的」に利用される事になって。趣旨がずれ始めたのが、嫌なのかなぁ………。」
「まあ、本来ならば。ただの、「自然な営み」な訳だしね。それを………なんだろうな、お金儲けに利用するとか、それが嫌なんじゃない?」
「……………?貴石って、お金儲けになってる??」
「そりゃあんた、落ちてきたお金の半分は館に納めなきゃいけないからね。」
「えっ。でも。……………確かに、そうか。まあ、そうなってるよね………。」
「だから。待遇を良くされている姉さんなんかは、潰されると困るのよ。その後の事も、ある。私達は「それ以外」の生き方を教わってないし、知らないからね。私だって、あんたに言われなければ。同じだったから、分かる。」
「…………。」
「でも。好きに、やっていいから。後の事は、なんとでもなる。イストリアもいるし、きっといい方法を考えてくれる。レシフェも多分、そのつもりだし、だから。あんたは。あんただけは。自由に、思いっきり、やっていいのよ。知ってるでしょう、解ってるでしょう?私達は、知らない事も分からないし、解っていない事も、わかってない。だから。代わりに。祈って。思いっきり、ぶちかましていいのよ。」
「何よ、ハンカチ持ってないの?」
途中から熱がこもってきたレナの言葉に、涙腺君はとっくに旅に出ていた。
レナの言葉が、胸に刺さり過ぎて。
ぐるぐると見てきた、夢の、中。
確かに私は「知らなかった」し、「知りたかった」し、「解って」なかった。
それを知る術を持たなかったし、だからこそ沢山の辛い色、暗い色、どす黒い色を、経て。
飽きるまで経験して。
やっと、
鮮やかな色も、見ることができたんだ。
でも、それには時間がかかる。
多分、今「わからない」人は。
「知る」ことはできても、「わかる」事がないのも、解るのだ。
レナが言っているのは、そういう事だ。
説得するとか、できるとか、そういう問題じゃない。
でも、それが。
どうしようもなく、悲しくも、あるのだ。
哀れみとも、違う。
ただ悲しい。
ただ、ただそこには静かな悲しみしか、なくて。
泣き叫ぶ子供に差し伸べる手を、持たない様な。
自分で立ち上がり、涙を拭いて前に進むのを、待つしかない様な。
そんな気持ちに、近いかも知れない。
でも。
きっと。
それが正解なのだろう。
「正解」というものが、あるのかどうかも、分からないけれど。
そうして一歩一歩、少しずつでも歩き始めて。
小さな光が、見えてきたならば。
「私達の求めるもの」は、見つかるのだろうか。
私達は何を、求めているのだろうか。
ただ、確かに。
「なにかが足りない」と、思ってそうしていたのは、憶えているのだけれど。
そう思い出して、再び袖で涙を拭い、足を揺らし始めた。
ハンカチは、いつものあのポケット、今日は金色がいないので出番は無いのだ。
ああ、でも最近服が違うからな………。
ハンカチは入っているだろうか………。
いや、多分入ってるな。
そこに思考が落ち着くと、幾分スッキリした気はする。
一度深く息を吸い、サーモンピンクの空を見上げた。
端の方は、大分緑に侵食されている美しい、空。
その、二度とは同じ色にならない空を見上げながら、ゆっくりと自分の中へまた取り込んでいったのだ。
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