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8の扉 デヴァイ
図書館
しおりを挟む「後でブラッドフォードが、迎えに来るからな。支度をしておけ。」
「えっ?!………うん?あ、はぁい。」
ある日の朝食後。
私が「図書館へ行きたい」と、以前から伝えておいたからだと思うけれど。
いきなり本部長にそう言われ、面食らったのは食後のお茶をのんびり啜っている時だった。
そもそもウイントフークが一緒に行ってくれるか、若しくはいつもの三人組で出掛けるつもりだった私。
だが、久しぶりのブラッドフォードが迎えに来ると言うのだ。
思い返せば、実際。
私達は、形式上婚約者だがこの頃は殆ど会っていない。
少し前に図書館へ一緒に行って、「あのこと」を何も言われなかったのがなんとなく気不味いまま、それから会っていないのだ。
どうやら本部長はアリススプリングスやブラッドフォードに会って、何やら話していたらしいけど。
それも、ベイルート情報である。
「うーーん?でもベイルートさんについて来て貰えば、いっか………?」
そう独り言を呟きながらもとりあえずは支度をして、青のホールで待つ事にした。
「あ、いらっしゃい、ませ………?」
通路から見えた薄茶色のサラ髪に、そう挨拶をしてハタと立ち止まる。
なんか、おかし、い?
普通に「いらっしゃい」?
「ようこそ」?じゃ、おかしいよね??
あ、「迎えに来てくれてありがとう」かな??
私が一人ぐるぐるをしている間に、青のホールへ入ったブラッドフォードはしかし、入り口で立ち止まり唖然としている。
口は大きく開いているし、目だって。
あの、ベオグラードに似た青の瞳が大きく見開かれていた。
うん?
どうしたんだろ??
その視線の先を追って、「ああ!」と気付く。
そう、あの大きな窓の外には色鮮やかな鳥達が舞っていたからだ。
きっと、あれに驚いているに違いないとは思うのだけど………?
でも?
来た事あるって、言ってたよね………?
ベイルートさん………??
もしかしたら、その時は鳥達が飛んでいなかったのかも、知れない。
とりあえずは声を掛けようと、その大きく開いた目線を横切る形で近づいて行った。
「…………これも?………お前、が?」
視界に入った私に気が付いて、そう言ったブラッドフォード。
しかし、その返事を待たずに納得した様子で私と窓の外を交互に見ている。
「綺麗ですよね。きっと、そっちにも出来ますよ。…………そのうち。」
そんな曖昧な事を、言ったけれど。
本心には、違いない。
その私の様子を見ながら、ブラッドフォードはしかし首を横に振った。
「いや、ヨルだから。こうなのだろう。」
静かにそう言う彼の事を、チラリと見る。
至って普通の、表情だけど。
どうしてもっと、希望を持てないかなぁ?
うん?
でも?
そんなもの?
もっともっと。
光を。
謳を。
隅々まで届かせる、必要があるな??
そう思いながら、再び窓の外を見る。
やっぱり…………。
「でも。私達が想像できる範囲のことって。みんな、全部。可能なことだと、思うんですよね………。」
その私の言葉を無言で聞いている彼は、少しは解ってくれるだろうか。
私の世界には無い、魔法の様な「まじない」がこの世界には、あって。
だから。
例えば本に出てくる怪物、不思議な生き物、妖精、幽霊や色んな沢山の目には見えないものたち。
それも。
「多分、いるし、あるよね…………。」
私的には、「想像」って「元」があると思うんだ………。
一人ぐるぐると思考の渦に嵌っていると、ポンと肩を叩かれた。
「とりあえず、行くぞ。」
「あっ。はい。」
そうして。
久しぶりに「婚約者」と、図書館へ向かう事にしたのである。
「で?どうして図書館なんだ?まだ何か調べ物が?」
変わらず仄暗い黒の廊下、少し前を歩くブラッドフォードにそう問い掛けられてどう答えたものかと少し考える。
別に、正直に言ってもいいのだけれど。
ん?
て、言うか?
この前、私が二人に歴史の話か何か、訊いたんじゃなかったっけ??
自分のポンコツな記憶を手繰り寄せつつ、ポツリと目的も洩らす。
「いや、やっぱり歴史を………調べないと、始まらないなぁと…祭祀もあるし。」
「ふぅん。」
えっ。
訊いた割に、その返事??
そうは思ったが、根掘り葉掘り訊かれても微妙だ。
とりあえずはそう納得して、大人しく銀ローブについて行った。
「やあ、いらっしゃい。久しぶりだね?」
そう言う扉に目で合図して、ブラッドフォードが開けてくれた中へ進む。
変わらず白く靴音が響くこの空間に、ふと震えの事を思い出して訊いてみた。
あの後特に、異常があった話は聞いていないけれど。
私の所まで逐一その情報が降りて来るかと言うと、それは疑問である。
あの時アリススプリングスは「これからも協力するように」、言ってはくれたけれど。
きっと銀の家の人達が自主的に謳う事は無いだろう。
まあ、デヴァイの人みんなが。
きっとそう、なんだろうけど………。
「そうだな、大きな震えは来ていない。元々、少し震えたりは昔からしているらしいんだ。だが、ここまで大きな揺れが来るのは、ここ何年か………どう、なんだろうな?歴史は…。」
歩きながら話していたブラッドはそこでピタリと話を止めると、くるりと向き直って言った。
「で?ヨルは何を調べたいんだ?」
「えっ。………その、歴史の話の、続き………??」
途切れたと、言うよりは。
わざと話を切った気がして、そう問い返してみたけれど。
少し困った様な表情をして腕組みをしたブラッドフォードを、問い詰めるべきか禁書室へ行くべきか。
少し迷ったが私は二兎を得る事にした。
そう、ブラッドフォードを伴って禁書室へ行けばいいのだ。
それに。
あそこには、私が読めない文字の本が多かったから。
なんなら、読めそうなこの人を連れて行けば一石三鳥??
そんな邪な考えを浮かべながら、笑顔で企みを口に出してみた。
「あの。その、歴史を一緒に調べに行きませんか?」
「一緒に?何処へ?」
「勿論、禁書室ですよ。」
「しかしあそこはもう一人の許可が………まだヨルでは無理だからな。」
「まあまあ………フフッ、ついてきてくださいよ………。」
怪訝な青い瞳、きっと悪い顔になっている、私。
キョロキョロと周囲の様子を確かめ、近くに人がいない事を確認すると「お願いします」と、ベイルートにも確認してきてもらう。
そう、ちゃんとこっそりベイルートには付いてきて貰っているのだ。
どうやら本部長との会議に参加しているらしいブラッドフォードは、きっともうベイルートが話せる事は知っているのかも知れないけれど、本人からは「内緒で」と言われている。
大人達の都合があるのだろう、特に問題はないので今日も私の髪の中に隠れたまま、図書館へやって来たのだ。
そのまま禁書室の柱へ向かう間、ブラッドフォードが周囲を見渡している所で戻ったベイルート。
「今日はアリスはいない様だな。」
そう囁いた声を聞いて少し残念に思う。
あまり関わるなと言われているけれど。
きっと二人同時に話を聞けたなら、一石四鳥………いやいや、だってあの人も絶対情報いっぱい持ってるよね………。
だって現、銀の一位な訳でしょう?
うーーん。惜しかった………。
「いらっしゃい。中へ?」
「うん?ああ、久しぶりだね?お願いします。」
きっと独り言に聞こえるだろうけど。
隣で再び青い瞳を丸くしている彼に、気付かないフリをして自ら開いた扉を示した。
察しのいいブラッドフォードが、無言でそのまま扉の中へ進むと。
そのままパタリと、白い扉は静かに閉じたのであった。
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