透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

禁書室で

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静かに閉じた扉、そのまま奥へと慣れた様子で進んで行ったブラッドフォードは特に私を怪しむ様子は無い。

気が付かなかったのなら、いいのだけど。
また「ヨルだから」と、流されたのだろうか。


そう思いながらも自分も奥へと進む事にしたのだが、ふと立ち止まる。
以前、ここへ入った時は扉に「何がどこにあるのか」教えて貰いながら、進んでいたのだ。

読めない文字が多い禁書室、しかしそれならあの人に訊けばいいかと茶のサラ髪を探す事にした。
天井までの本棚が立ち並ぶこの部屋の中で、彼の姿はとっくに見えなくなっていたからだ。


でも………?

何を、訊こうか、調べようか。

ゆっくりと歩きながら、ブラッドに探してもらう本を考える。


あの、揺れの事、歴史の事、祭祀の事なんかもあるといいかも、知れない。

でも。

ふと立ち止まり、話し掛ける前に自分の中のモヤモヤについて考える。


この頃思う、色々なこと、簡単では無い事柄や想い、複雑に絡み合った事象。

「なにか」が、すっきりしないのだけど。

「なにが」。

すっきり、しないのか…………。


銀ローブの後ろ姿を見ながら、じっと立ち止まり考えていた。


「ふぅん?これなんか、楽しそうだな?」

一冊の本を手に取り、読みながらそう呟くブラッドフォード。
何の本を読んでいるのだろうか。

そのまま無言で近づいて、赤茶色の本を覗き込んだ。

「うっ。全然、読めない………。」

「まあこれは難しい類の本だ。俺だってギリギリだが、昔の祭祀について書かれている様だな。」

「えっ、祭祀?なんて書いてあるんですか??」

おあつらえ向きにそんな本を手に取り読んでいるらしいブラッドフォードは、私が何を聞きたいのか予想していたのだろうか。

そんな事を考えつつも、パラパラと捲るその手元を見る。

「いや、詳しくは書かれていないな。しかし、どうやらグロッシュラーでやる祭祀の事と、供物やら何やら、お前の好きそうなまじない系のもの、そして女性も参加していたと、ある。」

「ん?」

あれ?

…………そう、いえば???

「女の人って、参加してなかったんでしたっけ??」

少し考えて、くるりと青の瞳が動く。

「ずっと、セイアも女はいなかった筈だ。俺の代にはいなかったしな。それに、ロウワや貴石が参加しているのは、ヨルの所為だろう。」


…………確かに。

セイアの事は、別として。

それ以外は、私の提案が始まりな事に間違いは無い。

しかし他にも気になる言葉を言っていた事を思い出し、ローブを思わず掴んで訊いた。

「えっ、えっ、まじない系って?供物??ラピスとも共通してますかね??」

ハーシェルと供物を配った事を懐かしく思い出しながらも、ぐっとページを覗き込むが文字しか書かれていない本に、ヒントは無さそうだ。

ブラッドフォードはもう一度そのページに目を通すと、チラリと私を見てこう言った。

「…………なんだ、彩りの良い花、祈りの光、まじないの………。」

「の?」

「「色」だ、そうだ。」

「えっ。」

それって??

あの、トリルが言ってたやつに、近くない??

確か。
光が降って、その「色」が「同じ」なら。

「相性が、いいんだっけな………?」

「……色合わせとは、違うのか?」
「どうなんでしょうね…?は光と関係あるのか、どうか………。」

無意識にそう答えて、ハッと気付く。

しかし、青の瞳に他意は見えない。


それを確認すると、彼の言葉を聞いて一瞬踊った胸の内を確認してみる。

自分の中に、引っかかった「なにか」があった様な気がしたのだ。
ブラッドフォードの、言葉に。



なんか、ヒントがあった、気がするんだけど………?

「まじない系」?
「花」?
「色」?
「女性も、いた」こと??


何だろうか、なにか。

この頃、足りない気がする…………あの、その………。



灰色の大地、広く静かな光景に吹く一陣の、風。

場が変化したのか空気が変化したのか、それとも「想い」が、届いたからか。


あの時感じた、「風」の、様な。

「勢い」の様な、なにか。


この頃の重たく、放り出したくなる様な気分を払拭してくれる、なにか。

「光」か、「風」の様な、ものが。

必要なんじゃ、ない、か。



ぐるぐる、ぐるぐると「なにか」を探して私の頭の中は回転していて、そのヒントの様な小さな光を追いかけていたのだけれど。

確か………
ブラッドフォードの、「言葉」に

ヒント が…………?



  『ふぅん?これなんか、楽しそうだな?』



「あっ。「楽しそう」だ!!!」

「は?」

「そうですよ!お兄さん!!最近、足りなかったもの!!「楽しさ」だわ!…………あーあ、なんで気付かなかった、かなぁ…………。」

隣で目を丸くしている人がいるが、そんなの気にしている場合じゃ、ない。

「私としたことが…………これは最大の失策………。そうよ、何事も。続かないし、やりたくないし、なにしろ。「楽しんだもん勝ち」って、事でしょ…………。そうなると…あれが……?これか…………??」



  「楽しむ」こと

  まず、日々を楽しく過ごすこと


ウキウキやワクワク、何よりもまず「自分が」楽しむこと。


そう、言ってたんだ、あの金色も。

「大きな事である必要は ない」

そう、言ってた。
単純な事で、いいんだ。


この頃の難しいモヤモヤ、苦手なぐるぐると抜け出せない様な想い、こびり付いた、感覚。

そんな、中。

祈ったって、駄目だ。

いや、駄目とまではいかなくとも。


「みんな」に、「愛」を届けられる程の「ありったけの想い」で、祈れるかと、言うと。


「…………そりゃ、無理だわ…………。」


そう、まずは「私が」楽しまないと。

駄目だし、なんなら失敗するかも知れない。

きっと光は降りるだろうし、星だって見えるだろう。

でも。

「愛」まで、まで、辿り着いて。

「降り注がなければ」。


私的には。
失敗、なんだよね…………。



そこまで思考が辿り着くと、ぐるぐる、ぐるぐると自分の中が書き換えられていくのが、分かる。

まずは軌道修正しなければ。

そう思って自分の中へ、どんどん沈み込んでゆく私に、降ってくる声。


「ちょ、おい。…………ヨル。」

なんだか、隣が何か言ってるけれど。

ちょっと待って貰えないだろうか。


私はきっと少し、道を逸れていた事にやっと、今気が付いたのだから。




多分、暫くぐるぐるぐるぐる、していたのだと思う。

再び顔を、上げた時には。

隣で全く違う本を、随分と読み進めているブラッドフォードが、いた。



「あ、の。お待たせしました。お兄さん的に、楽しい事って、何ですか?」

すっかり、色んな事を落としてきた私。

口に出してから、すっかり呼び方が戻っている事に気が付いたけど。

とりあえず、少し呆れた顔をして私を見ている「一応、婚約者」に、まずこの質問から始めてみることにしたのである。



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