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8の扉 デヴァイ
魔女部屋へ
しおりを挟む雪の祭祀
雨の祭祀
それなら? 夜 やるし。
「えっ、まさか。「星の祭祀」?!やだ!めっちゃロマンティック。」
「………大丈夫?あれ。」
「…………。」
向こうで失礼な会話を、しているのは。
毛並みが美しい、二匹のフワフワである。
いや、フォーレストは私の味方だ。
だから。
こんな時に無言を貫いているのは、勿論あの極彩色の狐である。
翌日、早速フリジアに約束を取り付けた私は、ウキウキとしながら支度をしていた。
身支度は済んだので、見本として私の癒し石、ガラスを少し。
それと、あのヴェールを書斎から奪って来ている。
本部長には嫌な目で見られたけど、元々これは私のものでも、あるのだ。
「なんであの人の私物みたいになってるのか…。」
ブツブツ言いつつも小さな袋に荷物を纏め、くるりと振り返ると朝がいなくなっている。
きっと、フリジアの所へ付き合う気はないからだろう。
「さ、行くか。」
「えっ、やっぱり?」
「見張ってろと、言われている。」
「まあ…………うん。」
見張りが必要なのかどうか、疑問に思わないでもない。
しかし、ウイントフークからしてみれば私から正確な報告が聞けない事は、いつもの事なのだ。
うーむ。
とりあえず深く考えるのは止めて、青い扉に手を伸ばした。
青い廊下を、足取りも軽く歩いて行く。
調度品達のお喋りを聴きながら、青のホールを通り抜けまじないの廊下へ入った。
この、ウイントフークに繋げてもらった廊下はその時々で若干様子が違う。
しかしこの頃は、青のホールを真似たのか窓がある事が多く、しかも天気は良い。
今日も青空の窓を眺めながら、珍しく雲が流れている事に気が付いた。
スピリット達が舞う事はあっても。
雲が目立つ日は、珍しいからだ。
「少しずつ変化してきてるのかな………。てか、とりあえず魔女部屋に向かってるけど大丈夫だよね………。」
疑問でもなく、独り言を呟きながら扉の前に立つ。
チラリと確認しても、極彩色は何食わぬ顔で扉が開くのを待っている。
じゃあ多分、ここでいいって事だよね………。
紫の瞳がこちらを向かない事を確認して、ゆっくりと扉を開けた。
そうすると、やはり。
文机の上に、白いカードが一枚乗っているのが見えたのだ。
「さて。………?」
部屋の中をぐるりと見渡し、変化の無いことを確認して白いカードを手に取った。
ん?
少しの違和感、ふと視線を飛ばした大きな窓。
いつもは美しい青空の、この窓にも。
なんだか雲が多い気がして、確かめようと顔を上げた。
「う、わぁ、見て!雲が………ん?…えっ 」
青空のキャンバスに、緩々とした筋を描きながら上へと並んで流れる雲。
その背後からふんわりとした虹がひょっこりと顔を出し、思わず目を見張る。
そうして驚いているうちに、みるみる目の前まで流れて来た、その七色に包まれて。
いつもの様に、あの魔女部屋へと運ばれたのである。
「それで?お前さんのやりたい事は、大方把握していると思うが。「意図」はそれでいいにしても、「建前」が必要、と言うことかね。」
「まあ、多分。そうだと思います。」
いつもの薄暗い、揺れる灯り。
今日もフリジアの魔女部屋は通常運転で、怪し気なのに落ち着く雰囲気だ。
ふんわりと鼻に届く落ち着いたハーブの香り、何かの作業中なのか濡れた草の匂いが懐かしくてホッとする。
その、匂いを嗅いで。
一瞬で自分の「なか」へ入り込んだ私の目の前には、緑でいっぱいの景色が拡がって、いて。
自分がやはり、「外」が好きなのだと。
「庭」や「畑」、新鮮な葉や花の香り、濡れた土の匂い、それを運んで来る風。
大地があること。
空があること。
お日様が出て、夕暮れに染まる空を眺め、夜になると月が見守っていること。
星が瞬き雲が流れ、変化してゆく空を眺められることの、有り難さ。
こうして「外」が、「空」が無い空間に来て、改めて感じる自然の有り難さと、尊さ。
今度の祭祀では、畑を復活させる為、祈るけれど。
そのついでに星も降らせて、「美しいもの」をこれでもかと露わにして。
ただ、ただ感じて欲しい。
見るだけで、いい。
できれば沁み込んでくれれば、言う事はないのだけど。
それは、個々の自由であるし。
私は、ただ。
祈って、撒いて、溢して。
ただ、そう「在って」、それだけで良くて。
私が祈っている事すら。
知られなくても、いいし。
ただひっそりと祈り、そうして少しずつでも世界に光が差して、増えて。
みんなが、それぞれの色で。
輝き始めて、それが大きな、一つの「まる」に、なれば。
「いいんだけど………。なる、よね?うん、なるなる。」
「どうした?………それにしても。お前さんの狙い通り、きっとガラスを手にした者はこっそりとポケットに仕舞うだろうけどね?こちらが何を、しなくとも。」
「………えっ?そう、思いますか?」
いつもの様に、カップを持ったままぐるぐるしている私を見ながら、フリジアがアドバイスをくれる。
どうやらフリジアは「善良な者にしか残らないだろう」と、言うけれど。
でも、私的には「みんなに」残って欲しいんだけどな………?
まぁでも本部長に釘刺されてるしね…。
「悪用する人って、いると思いますか?」
緑色のお茶を啜りながら、そう尋ねる。
少し首を傾げたフリジアは、何やら考え込んでこう言った。
「どうだろうね。しかし、長老達はこぞって参加する気だろう。「光を受け取れなかった者」が今度こそ、と思う事は想像に難くないからね。しかし……。」
言葉を濁した茶緑の瞳は、私とカップの間を彷徨い何かを探している様だ。
そうしてその視線が滑って行く先を、追うと。
さっき鼻に届いたであろう、乳鉢と使いかけのハーブの作業台に行き着く。
何か関係があるのかと次の言葉を待っていると、その口から出てきたのは何処かで聞いた、内容だった。
「結局、今回祭祀を行う事で。何が起こるのか。何故、そもそも畑がああなったのか。それが気になるんだよ。」
「………。」
確か?
イストリアさんも、そんな事言ってたな??
あの、魔女の店で私とイストリアが話した時「あれは風ではない」という話になった。
私はそれで、「何だろうか?」と思ったけれど。
イストリアとウイントフークは「何故」という部分に、重きを置いていた気が、する。
「うーーん?「なんで」って事になると、誰ががわざと、やった可能性があるって。事ですかね?でも確かにあの二人はそう思ってそうな感じなんだよな………。」
「イストリア達かい?」
「はい。やっぱり、畑を見に行った時そんな様な事を言ってましたね。」
「そうかい。」
それっきり、黙り込んでしまったフリジア。
少しの間、その白髪を眺めていたけれど口を開く気配は無い。
ん?
とりあえず、結局?
おまじない、は大丈夫ってこと??
その「原因」なのか、「元凶」が分かれば。
「みんな」に、星屑が届いても、大丈夫かなぁ………
それは無理かな…。
どう、なんだろうか。
そうして考え込んでいるフリジアを前に、私の中でも祭祀の手順を改めて纏める事にした。
なにしろ一旦、ラピスへ帰ったものの。
私の頭の中は「整理された」とは、言い難かったからだ。
斯くして揺れる蝋燭の炎を見つめながら。
差し迫っている「星の祭祀」について、私なりに考える事にしたのである。
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