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聖女時代
遅く誕生した候補者の能力
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「なんなんですか、あの人は。私、あの人と一緒に講義を受けることもしたくありません!」
今日もエリベルタは、最年長のデルフィーナに自身の気持ちを正直に訴える。
ソミールとエリベルタが同じ空間にいると常に一触即発となるので、周囲も気を遣い二人を遠ざけるようにしている。
それでも、エリベルタはソミールに対し思う事がある。
「それに未だに納得できません。どうしてあの方の聖女としての教育期間が二年弱なのですか。皆さん八年間学ぶのですよ。あの平民が外で無知を披露した時、聖女候補は『この程度なのか』と勘違いされるではありませんか。私はあの平民と一緒だと思われるのは我慢なりません」
そう思っているのは、エリベルタだけではない。
中途半端な状態で卒業し無知が露見した時、教会での八年間に何も学んでいないと疑われかねない。
教会は王族の支援と貴族からの寄付で成り立っている。
疑念を抱かられるような事は避けたい。
皆、口に出さないだけ。
「それは教会が判断したのだから、私たちがどうこう出来る問題ではないわ」
「皆さん、教会が決定した事を疑うことなく受け入れ過ぎではありませんか? おかしなことはおかしいと発言するべきです」
エリベルタの言葉が正論過ぎて言い返せないまま、司祭が訪れ講義が始まる。
抗議が始まってもエリベルタの言葉が私の中に残る。
『おかしいことは、おかしいと発言するべき』
貴族として感情を露わにしてはいけない。
聖女候補同士、波風立たせないようになどばかりに囚われ、感情に蓋をすることに慣れてしまった。
十歳のエリベルタが羨ましく思えてしまう。
「ソミール様は、聖女候補となって初めての祈りですね。緊張することなく、以前教会で祈っていたように祈ってくださればいいですから」
「はい」
祈りの場から司祭は退出。
聖女候補のみとなる。
「では、本日の祈りを始めましょう」
デルフィーナの合図で祈りが始まる。
聖女候補となり、初めての時は驚いた。
祈り始めると暗闇に落ちる感覚で、終わりが近付くと光に包まれたように温かかった。
「……今日もお疲れ様でした」
祈りの場を後にして、各々の時間となる。
「聖女候補方、どうかされましたが?」
祈りの場を出ると、司祭の姿があった。
普段、祈りを終えた私たちを扉の前で待機しているのは見習いだ。
「いえ。何もありませんが司祭様こそ、どうされたんですか?」
先頭に立っていたデルフィーナが代表で質問する。
司祭の姿があると、何かあったのではないかと緊張が走る。
「私は、皆さんが祈っている初めの三十分ほどはここで待機しています」
「そうだったんですか?」
初めて聞く事実だ。
「それで、本日の祈りはどうされました? これからですか?」
「……いえ。祈りは終えました」
「終えたんですか?」
終えたと告げると、驚きの表情を見せる司祭。
どうして驚くのか、私たちには分からなかった。
今日も、いつも通り真剣に祈った。
「はい、祈り終えました」
「祈りの場に入ってまだ三十分も経っていませんよ?」
「三十分?」
聖女候補の減少で、最近では二時間は祈りを捧げていた。
それが三十分。
既存の聖女候補はいつも通り祈っていただろう。
今までと、今日の違いは……。
誰も口に出したくないが、そういうことなのだろう。
「ソミール様。祈りはどうでしたか?」
司祭もその事実に気付いたのか、ソミールに確認する。
「はい、聖女様の声を聞いた気がします」
「聖女様の声ですか?」
司祭はソミールの言葉に反応する。
「はい。あれは、きっと聖女様だと思います」
「ほお。聖女様はなんと仰っていました?」
ソミールの言葉を聖女候補全員が耳を澄ませる。
嘘を吐いているのか確かめるように、ソミールを見る。
「『真摯に向き合えば、応えてくれる』と……」
「そうですか」
その言葉はソミールに向けてなのか、私たち聖女候補全員なのか。
それよりも、ソミール自身は気づいていない。
私は聖女候補として何年も教会で祈りを捧げていたが、聖女の声を聞いたことはない。
それは、私だけではない。
卒業していった聖女候補たちからも、そのような話は聞いたことがない。
祈りの時間もだが、もし本当にソミールが聖女の声を聞いたとなれば、次代の聖女は……。
二人の会話を聞いてしまい、聖女候補は会話なく去って行く。
「司祭様……ソミール様の能力って……」
私は司祭を追いかけ声をかけた。
「ここではなく、私の部屋へ」
「はい」
司祭の部屋へと場所を変え、ソミールについて尋ねた。
「私たちは、いつも通りに祈りました。これほど早く祈りを終えられたのは、私が候補となって初めてのことです。ソミール様の能力は、聖女候補たちの中でどれほどなのでしょうか?」
聖女候補の能力の判断は、素質を検査した時の光の量で分かる。
「あの方が水晶に手を翳した時、水晶から光が溢れ眩しく目を覆うほどでした」
「……そんなに……ですか……」
私は、淡く光る程度だったのを覚えている。
「能力が低ければ彼女は平民ですし、この事実を伏せておくという判断をしたでしょう。ですが彼女の能力は私たちの想像を遥かに超えるものでした。あれほどの能力を隠し通すのは難しく、さらに我々が王族への報告を怠ったとなれば、教会の存続が危ぶまれます。彼女の能力はそれほどです」
「そう……なんですね」
だからなのか、貴族に対して失礼な態度を繰り返すソミールに対して教会も強く咎めることがない。
それが、私たち候補者の感情を苛立たせている原因でもあってもだ。
「皆さんと彼女の間に溝があるのは把握しています。ですが、『受け入れてください』としか言えません」
「……分かりました」
それから、私が教会の方針を話さずともソミールの能力は候補者は体感していく。
祈りの時間が早まったのは、一度だけでない。
認めたくないが、私たちの能力以上の能力を所持しているのだと口に出さずとも認めるしかなかった。
今日もエリベルタは、最年長のデルフィーナに自身の気持ちを正直に訴える。
ソミールとエリベルタが同じ空間にいると常に一触即発となるので、周囲も気を遣い二人を遠ざけるようにしている。
それでも、エリベルタはソミールに対し思う事がある。
「それに未だに納得できません。どうしてあの方の聖女としての教育期間が二年弱なのですか。皆さん八年間学ぶのですよ。あの平民が外で無知を披露した時、聖女候補は『この程度なのか』と勘違いされるではありませんか。私はあの平民と一緒だと思われるのは我慢なりません」
そう思っているのは、エリベルタだけではない。
中途半端な状態で卒業し無知が露見した時、教会での八年間に何も学んでいないと疑われかねない。
教会は王族の支援と貴族からの寄付で成り立っている。
疑念を抱かられるような事は避けたい。
皆、口に出さないだけ。
「それは教会が判断したのだから、私たちがどうこう出来る問題ではないわ」
「皆さん、教会が決定した事を疑うことなく受け入れ過ぎではありませんか? おかしなことはおかしいと発言するべきです」
エリベルタの言葉が正論過ぎて言い返せないまま、司祭が訪れ講義が始まる。
抗議が始まってもエリベルタの言葉が私の中に残る。
『おかしいことは、おかしいと発言するべき』
貴族として感情を露わにしてはいけない。
聖女候補同士、波風立たせないようになどばかりに囚われ、感情に蓋をすることに慣れてしまった。
十歳のエリベルタが羨ましく思えてしまう。
「ソミール様は、聖女候補となって初めての祈りですね。緊張することなく、以前教会で祈っていたように祈ってくださればいいですから」
「はい」
祈りの場から司祭は退出。
聖女候補のみとなる。
「では、本日の祈りを始めましょう」
デルフィーナの合図で祈りが始まる。
聖女候補となり、初めての時は驚いた。
祈り始めると暗闇に落ちる感覚で、終わりが近付くと光に包まれたように温かかった。
「……今日もお疲れ様でした」
祈りの場を後にして、各々の時間となる。
「聖女候補方、どうかされましたが?」
祈りの場を出ると、司祭の姿があった。
普段、祈りを終えた私たちを扉の前で待機しているのは見習いだ。
「いえ。何もありませんが司祭様こそ、どうされたんですか?」
先頭に立っていたデルフィーナが代表で質問する。
司祭の姿があると、何かあったのではないかと緊張が走る。
「私は、皆さんが祈っている初めの三十分ほどはここで待機しています」
「そうだったんですか?」
初めて聞く事実だ。
「それで、本日の祈りはどうされました? これからですか?」
「……いえ。祈りは終えました」
「終えたんですか?」
終えたと告げると、驚きの表情を見せる司祭。
どうして驚くのか、私たちには分からなかった。
今日も、いつも通り真剣に祈った。
「はい、祈り終えました」
「祈りの場に入ってまだ三十分も経っていませんよ?」
「三十分?」
聖女候補の減少で、最近では二時間は祈りを捧げていた。
それが三十分。
既存の聖女候補はいつも通り祈っていただろう。
今までと、今日の違いは……。
誰も口に出したくないが、そういうことなのだろう。
「ソミール様。祈りはどうでしたか?」
司祭もその事実に気付いたのか、ソミールに確認する。
「はい、聖女様の声を聞いた気がします」
「聖女様の声ですか?」
司祭はソミールの言葉に反応する。
「はい。あれは、きっと聖女様だと思います」
「ほお。聖女様はなんと仰っていました?」
ソミールの言葉を聖女候補全員が耳を澄ませる。
嘘を吐いているのか確かめるように、ソミールを見る。
「『真摯に向き合えば、応えてくれる』と……」
「そうですか」
その言葉はソミールに向けてなのか、私たち聖女候補全員なのか。
それよりも、ソミール自身は気づいていない。
私は聖女候補として何年も教会で祈りを捧げていたが、聖女の声を聞いたことはない。
それは、私だけではない。
卒業していった聖女候補たちからも、そのような話は聞いたことがない。
祈りの時間もだが、もし本当にソミールが聖女の声を聞いたとなれば、次代の聖女は……。
二人の会話を聞いてしまい、聖女候補は会話なく去って行く。
「司祭様……ソミール様の能力って……」
私は司祭を追いかけ声をかけた。
「ここではなく、私の部屋へ」
「はい」
司祭の部屋へと場所を変え、ソミールについて尋ねた。
「私たちは、いつも通りに祈りました。これほど早く祈りを終えられたのは、私が候補となって初めてのことです。ソミール様の能力は、聖女候補たちの中でどれほどなのでしょうか?」
聖女候補の能力の判断は、素質を検査した時の光の量で分かる。
「あの方が水晶に手を翳した時、水晶から光が溢れ眩しく目を覆うほどでした」
「……そんなに……ですか……」
私は、淡く光る程度だったのを覚えている。
「能力が低ければ彼女は平民ですし、この事実を伏せておくという判断をしたでしょう。ですが彼女の能力は私たちの想像を遥かに超えるものでした。あれほどの能力を隠し通すのは難しく、さらに我々が王族への報告を怠ったとなれば、教会の存続が危ぶまれます。彼女の能力はそれほどです」
「そう……なんですね」
だからなのか、貴族に対して失礼な態度を繰り返すソミールに対して教会も強く咎めることがない。
それが、私たち候補者の感情を苛立たせている原因でもあってもだ。
「皆さんと彼女の間に溝があるのは把握しています。ですが、『受け入れてください』としか言えません」
「……分かりました」
それから、私が教会の方針を話さずともソミールの能力は候補者は体感していく。
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