王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒

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聖女時代

人の話は聞きましょう

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 司祭の部屋では。

「司祭様。なんでしょう?」

 個人的に呼ばれたソミール。

「ソミール様、貴方にはこれから王族謁見の準備を優先してもらいます」

「準備とはなんですか?」

「王族への挨拶に粗相が無いよう、挨拶の礼儀を学んでもらいます」

「私、王様に失礼のないよう挨拶出来ますよ」

 笑顔で答えるソミールに、司祭は不安を募らせる。

「……王族への挨拶には貴族の作法で出席していただきます」

「貴族の作法ですか? 私たちは聖女候補ですよ」

「王宮では王宮の作法があるので従ってください」

「私、貴族の作法なんて……」

「それを、これから学んでください」

「……王様にお会いするのっていつですか?」

「年が変わって、二週目です」

「来月ならこれからでも、余裕で間に合いますね!」

 司祭が感じている不安など、ソミールには感じ取れていなかった。

「……間に合うよう学んでください。国王陛下にはあなたが平民であることも報告してあります。多少の無礼は許されますが、学ぶに越したことは無いでしょう」

「えっ、私が平民なの報告しちゃったんですか?」

「私には事実を報告する義務がありますから」

「はぁい」

 口を尖らせ不満を表すソミール。
 そんな表情に返事をする聖女候補はいない。

「返事は短く、決してそのような表情を王族の前でしないこと」

「王様の前ではちゃんと出来ますよ」

 どこから来るのか分からない彼女の自信が、司祭の不安を増長させる。

「……ハァ……貴方には今日から礼儀作法の講師が付きます。先生に失礼のないように」

「はぃ」

「では、二階の部屋で待ちなさい」

 ソミールは部屋を出て、礼儀作法の講師が待つとされる部屋へ向かう。
 その途中、同じ聖女候補のラヴィニアが庭で誰かとお茶をしているのを発見。

「あの人誰だろう? 金色の髪……素敵。ラヴィちゃんと一緒にいるけど……んふっ」

 講師の待つ部屋は二階だが、ソミールは庭に向かう。

「ラヴィちゃんお茶してるの? 私も一緒にいい? あら? あなたは初めましてですよね? 私はラヴィちゃんのお友達のソミールって言います」

「あぁ、貴方が噂のソミール嬢ですか」

「噂? ラヴィちゃん、私のことをなんて噂してたの? もう、恥ずかしいよ!」

「……ソミール様、今はちょっと……」

 ラヴィニアは、ソミールの突然の参加に困惑の表情を見せる。

「あっ、私のことはソミールって呼んで。それで、貴方のお名前聞いてもいい?」

「あぁ、私はコルネリウス・リヴェラーニと申します」

「コルネリウスさんね! 私、最近聖女候補と発覚してまだ慣れていなくって……コルネ……リウスさんって、よく教会に来るの?」

「そうですね、月に何度か」

「わぁ、嬉しい。また私ともお茶会してくれますか?」

「ソミール様!」

 あまりの失礼な態度に、ラヴィニアはソミールの名前を呼ぶ。

「あっ、その時はラヴィちゃんも誘うよ。もう、寂しがりやなんだからぁ。本当、ラヴィちゃんは私のことが大好きなんだね。んふふっ。可愛いなぁ」

「そうではなく、ソミール様はどうしてこちらにいらっしゃるんですか?」

「どうしてって、ラヴィちゃんがお茶しているのが見えて私もって思ったの。今日は天気いいもの、お茶会日和だね!」

「私は今、コルネリウス王子と聖女候補として対面しているんです。なので本日は……」

「コルネリウス王子? 貴方王子様なの!?」

「ソミール様、私の話を聞いてください」

「聖女候補としての対面なら私も聖女候補だもの、一緒にお茶した方がいいんじゃない? 皆に、『ラヴィちゃんだけ特別扱いだ』って責められちゃうよ。私がいたら、二人きりじゃないから安心だね」

「ソミール嬢」

「やだぁ、コルネリウスさん。私のことは、『ソミール』でいいですよ」

「貴方はこれから予定があるのではありませんか?」

「えっ? そうでしたっけ?」

「私は以前から、ラヴィニア嬢とのお茶会の約束をしていたんです。ソミール嬢とは、また日を改めてお話ししたいと思います」

「えっ! 私の為にコルネリウスさんが、わざわざお茶会をしてくれるんですか? その日が今から待ち遠しいです」

「えぇ。では、また今度」

 笑顔で送り出すコルネリウス。

「はい、また今度。さぁ、ラヴィちゃんも行くよ!」

「……ソミール様?」

「もしかしてラヴィちゃんは、司祭様から聞いてない? これから礼儀作法の講義だよ。私、それを伝えに来てたの。ラヴィちゃん遅刻よ。講師の先生をこれ以上待たせるわけにはいかいから早く行こう! コルネリウスさん、また今度、『三人で』お茶しましょうね。さっ、行くよ! ラヴィちゃんは、私がいないとすぐ遅刻しちゃうんだからぁ」

「ソミール様、ちょっと……私はコルネリウス王子とこれから……ソミール様。私の話を聞いて、手を放してください」

「もう、礼儀作法の講義受けたくないからって、ワガママは良くないって何度も言っているでしょ。講義の先生には私も一緒に謝ってあげるから。もう、ラヴィちゃんは私がいないとすぐ休んじゃうんだからなぁ。そういうことなのでコルネリウスさん、私たちもう行きますね」

 ソミールは嫌がるラヴィニアの腕を強引に引き、講義の先生が待つ二階の部屋へと向かう。

「先生お待たせしました。ラヴィちゃんが逃げるから、遅刻しちゃいましたぁ」

「……ジラルディ令嬢? ソミールさん、どうしてジラルディ令嬢が一緒なんです?」

「どうしてって、王様へ挨拶する為の作法を学ぶんですよね?」

「そうですよ」

「なので、ラヴィちゃんも呼びました。王様に会うのは聖女候補全員と聞きましたから」

「貴方の言う通り、国王陛下への謁見は聖女候補全員とです。ですが、今回はソミールさんを紹介する為の謁見です」

「私だけ?」

「はい」

「私だけ特別に王様から呼ばれたんですか?」

「……違います。ジラルディ令嬢は既に聖女候補となった十歳の時に国王陛下への挨拶を終えております」

「終えてる?」

「はい。それに、ジラルディ令嬢は礼儀作法を既に習得済みですので、私の講義は必要ありません」

「そうなんですか? ラヴィちゃんも言ってくれたらよかったのに……」

「ソミール様が強引に……」

「もしかして私が心配で、ついてきてくれたの? 嬉しい。先生、ラヴィちゃんが見学してもいいですか?」

「……いいえ。基礎から学ぶんですから、誰かがいると集中力が欠けます。私と貴方の二人だけで行います」

 ソミールの提案をきっぱりと断る教師。

「そんな、寂しいです。私ラヴィちゃんいないと不安で集中できません」

「国王への挨拶で注目されるのは貴方なんですよ」

「最初だけ、今日だけでも一緒はいけませんか?」

 必死にラヴィニアの見学を頼み込むソミール。

「ジラルディ令嬢の迷惑になりますので、許可できません」

「ラヴィちゃんと私は友人なんです。迷惑なんてこと思うはずあるわけないじゃないですか。それってラヴィちゃんに失礼ですよ、先生。ラヴィちゃんに謝ってください。私の大切なラヴィちゃんを侮辱するなんて……」

「……ソミール様、私は先生に侮辱などされておりません。ですので、先生が私に謝罪する必要はありません」

「もうっ! ラヴィちゃんは優しすぎるよ」

「……ジラルディ令嬢。ソミール様は同席を願っておりますが、いかがですか?」

「私はお断りいたします」

「ラヴィちゃん、先生も許可してくれているから今日だけ一緒にいてくれないかな? お願い……十分だけでいいの、お願いラヴィちゃん」

「……ハァ……ジラルディ令嬢。このままでは講義が一向に始められませんので、私からも十分だけお付き合い願えますか?」

「……分かりました。ですが、本当に十分ですよ」

「やったぁ、ありがとうっ。ラヴィちゃん、大好き」

 友人のラヴィニアが同席してくれることに喜び、ソミールはラヴィニアに抱き着く。

「止めてください」

「本当は嬉しいくせに、恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」

 約束通りラヴィニアはソミールの講義に付き合い、十分経過し退出しようとする。

「ラヴィちゃん、今のどうだった?」
「もう一回するから、よく見てて」
「上手くできたと思うんだけど、ラヴィちゃんどうかな?」

 ソミールは何度もヴィニアに確認を求めるので、結局ラヴィニアが退出できたのは一時間後。
 急いでコルネリウスを探すも既に馬車もなく、婚約者候補としてのお茶会は終わっていた。 
 聖女候補は全員コルネリウスの婚約者候補でもあった。
 なので、コルネリウスと対面している間、他の候補者は邪魔はしないというのが暗黙の了解。
 候補者たちは理解していても、最近聖女候補となり貴族でもないソミールには全くわからないことだった。

「何なのよ、あの女!」

 この一件は他の聖女候補に伝わり、ラヴィニアはソミールを徹底的に避けるようになった。

「今後、私にあの平民を近づけさせないでください」

 今まであからさまな平民蔑視をしなかったラヴィニアの『平民を近づけさせないで』宣言は聖女候補たちには強烈な出来事だった。
 ラヴィニアが大々的に宣言した為、掃除や祈りの整列と些細なことまで周囲は気を配るようになった。
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