王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒

文字の大きさ
18 / 43
聖女時代

どんな状況でもヒロインは動じない

しおりを挟む
「あぁ……今日もこれから礼儀作法か……あの先生、絶対他の聖女候補者から嫌がらせするように頼まれてるんだわ……ああ゛疲れるな……あれ? もうそろそろコルネリウスさんが来る頃じゃない? んふっ」

 ソミールは聖女候補の講義が終わり礼儀作法の授業の時間となると、逃げるよう植え込みに隠れながらコルネリウスが来るのを待っている。
 
「また、ここにいるのか?」

「……コ……ルネリウス……さん……」

「辛ければ、話を聞くぞ」

「……私……嫌がらせ……されてるみたいで……」

「嫌がらせ?」

「……私の考えすぎ……ですよね……聖女候補の皆が、私に嫌がらせだなんて……あるはずないのに……」

「嫌がらせとは、どんなものだ?」

「大丈夫です。私の勘違いだと思うから……」

「聞かせてくれないか?」

「……抗議の時間を間違って教えられたり、先生から執拗に厳しく指摘されたり、出来てるのに出来ていないといわれて何度も同じことをさせられたり……私のためなんですよね? 先生が私に嫌がらせなんて、するはずないもの」

「ソミール嬢、それは……」

「しっ、静かに」

 二人は人の気配を感じ、植え込みに身を屈め隠れる。

「フローレンス様。どうして私たちがアレを探さなければならないんですか?」

「講義の先生がお困りだからよ」

 最近の私たちは、礼儀作法の授業に遅刻するソミールに不安を覚えた司祭が授業に出るよう持ち回りで監視してほしいと言われている。
 今日は、私とエリベルタが担当している。

「自分の意思で講義に参加していないのだから、私たちが連れていく必要ないと思います」

 普段からソミールに対し良い感情を持っていないエリベルタ。
 そんな彼女のために、どうして貴重な時間を割かなければならないのか不満でしかない。
 エリベルタの言い分はもっともだし、私もその通りだと思っている。
 それでも、司祭に従うしかない。

「そんなこと出来ないわ。あの方には講義を受けていただかないと、全ては教会の責任と判断されてしまうもの」

 エリベルタを諭しているが、実際は自分に言い聞かせている。
 私だって、ソミールには不満を持っている。
 上の立場として、飲み込んでいるだけ。

「王族への謁見で失態を犯しても、それはアレの責任であって、教会が責任を負う必要ないですよね?」

「聖女候補の失態は、教会が教育を怠ったと判断される可能性があります。そうなれば、王族から支援を受けている教会の立場は悪くなります」

「……アレが講義を受けないのが悪いのに、どうして教会が……」

「エリベルタ様。アレと呼ばずに名前を、『ソミール様』と呼んでください」

「それもおかしいです。皆さんアレを『ソミール様』と呼びますが、アレは私たちに愛称をつけ許可していないのにおかしな呼び方をしていますよ」

 ソミールに「愛称ではなく、相手の名前を『様』付けで呼ぶように」と話していても、ソミールは一向に変えようとしない。
 それどころか、「私が羨ましいのね。レンスも私のように愛称で呼んだらいいのよ」「気にしないで。私って、皆に真似されるの慣れてるから」と伝わらないどころか、自身と同じように強要する始末。

「それは貴族と平民の違いではないかしら? 私たち貴族の仕来りを平民の彼女にも強要するのは良くないわ」

「それでも最低限の礼儀というものがあると思います。アレからは一、切礼儀を感じません」

「少しずつ分かってくれるわよ」

「分かるどころか悪化していますよね? 最近は特に酷いですよ。祈りの時間には遅刻、講義には出席しない。それで同じ聖女候補だなんて不愉快にも程があります。私たちのためにも、アレには聖女候補を辞めてもらうべきです」

「聖女候補を辞めさせる権限は、私たちにはないわ」

「では、司祭様に嘆願するべきです」

「……司祭様もあの方を辞めさせることはないと思うわ」

「どうしてですか? アレは聖女候補としての自覚が著しく欠如していますよ。授業態度からも、本人も辞めたいと願っているのではありませんか?」

「それは本人が司祭様に伝えることで、私たちが勝手に判断するべきではないわ」

「……フローレンス様、私はアレを聖女候補にしておくのは危険だと判断しています」

「それは……」

「アレを辞めさせないのは、後悔しますよ……私、アレを認めませんから……」

 エリベルタはソミールを探すのを止め、教会内に戻って行く。

「……はぁぁぁぁぁ」

 誰もいなくなり、一度大きくため息を吐いた。
 私だって、できるものならソミールには辞めてもらいたい。
 だけど、それは出来ない。
 ソミールは、歴代の聖女のなかでも能力に優れている。
 聖女候補が少なくなっている今、安易にソミールを追い出すことは出来ず私たちは我慢するしかない。
 自身だけでなくエリベルタの不満も受け止め疲れたが、仕方なく再び探し始める。
 周囲を見渡し、隠れて覗きこんでいたソミールと視線が合う。

「ソミール様、こちらにいたんですか? もうすぐ国王陛下との謁見があるんです、礼儀作法の講義は確りと受けてください。先生がすでにお待ちですよ」

「……えっ? そうなんですか? 今日の講義の時間は……もしかして、時間の変更があったんですか? ……また、私だけ……いえ、私の勘違いです。申し訳ありません。すぐに行きます……」

 ソミールは急いで植え込みから立ち上がり、講義を受ける部屋へと急ぐ。
 今日は、素直に抗議に向かうソミールに呆気に取られる。
 深くは考えず、今日の仕事は終わったと安堵していた。
 コルネリウスが植え込みに身を屈めているとは、最後まで気づかなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

もしも願いが叶うなら

豆狸
恋愛
みんな地獄へ落ちますようにって…… ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...