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聖女時代
どんな状況でもヒロインは動じない
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「あぁ……今日もこれから礼儀作法か……あの先生、絶対他の聖女候補者から嫌がらせするように頼まれてるんだわ……ああ゛疲れるな……あれ? もうそろそろコルネリウスさんが来る頃じゃない? んふっ」
ソミールは聖女候補の講義が終わり礼儀作法の授業の時間となると、逃げるよう植え込みに隠れながらコルネリウスが来るのを待っている。
「また、ここにいるのか?」
「……コ……ルネリウス……さん……」
「辛ければ、話を聞くぞ」
「……私……嫌がらせ……されてるみたいで……」
「嫌がらせ?」
「……私の考えすぎ……ですよね……聖女候補の皆が、私に嫌がらせだなんて……あるはずないのに……」
「嫌がらせとは、どんなものだ?」
「大丈夫です。私の勘違いだと思うから……」
「聞かせてくれないか?」
「……抗議の時間を間違って教えられたり、先生から執拗に厳しく指摘されたり、出来てるのに出来ていないといわれて何度も同じことをさせられたり……私のためなんですよね? 先生が私に嫌がらせなんて、するはずないもの」
「ソミール嬢、それは……」
「しっ、静かに」
二人は人の気配を感じ、植え込みに身を屈め隠れる。
「フローレンス様。どうして私たちがアレを探さなければならないんですか?」
「講義の先生がお困りだからよ」
最近の私たちは、礼儀作法の授業に遅刻するソミールに不安を覚えた司祭が授業に出るよう持ち回りで監視してほしいと言われている。
今日は、私とエリベルタが担当している。
「自分の意思で講義に参加していないのだから、私たちが連れていく必要ないと思います」
普段からソミールに対し良い感情を持っていないエリベルタ。
そんな彼女のために、どうして貴重な時間を割かなければならないのか不満でしかない。
エリベルタの言い分はもっともだし、私もその通りだと思っている。
それでも、司祭に従うしかない。
「そんなこと出来ないわ。あの方には講義を受けていただかないと、全ては教会の責任と判断されてしまうもの」
エリベルタを諭しているが、実際は自分に言い聞かせている。
私だって、ソミールには不満を持っている。
上の立場として、飲み込んでいるだけ。
「王族への謁見で失態を犯しても、それはアレの責任であって、教会が責任を負う必要ないですよね?」
「聖女候補の失態は、教会が教育を怠ったと判断される可能性があります。そうなれば、王族から支援を受けている教会の立場は悪くなります」
「……アレが講義を受けないのが悪いのに、どうして教会が……」
「エリベルタ様。アレと呼ばずに名前を、『ソミール様』と呼んでください」
「それもおかしいです。皆さんアレを『ソミール様』と呼びますが、アレは私たちに愛称をつけ許可していないのにおかしな呼び方をしていますよ」
ソミールに「愛称ではなく、相手の名前を『様』付けで呼ぶように」と話していても、ソミールは一向に変えようとしない。
それどころか、「私が羨ましいのね。レンスも私のように愛称で呼んだらいいのよ」「気にしないで。私って、皆に真似されるの慣れてるから」と伝わらないどころか、自身と同じように強要する始末。
「それは貴族と平民の違いではないかしら? 私たち貴族の仕来りを平民の彼女にも強要するのは良くないわ」
「それでも最低限の礼儀というものがあると思います。アレからは一、切礼儀を感じません」
「少しずつ分かってくれるわよ」
「分かるどころか悪化していますよね? 最近は特に酷いですよ。祈りの時間には遅刻、講義には出席しない。それで同じ聖女候補だなんて不愉快にも程があります。私たちのためにも、アレには聖女候補を辞めてもらうべきです」
「聖女候補を辞めさせる権限は、私たちにはないわ」
「では、司祭様に嘆願するべきです」
「……司祭様もあの方を辞めさせることはないと思うわ」
「どうしてですか? アレは聖女候補としての自覚が著しく欠如していますよ。授業態度からも、本人も辞めたいと願っているのではありませんか?」
「それは本人が司祭様に伝えることで、私たちが勝手に判断するべきではないわ」
「……フローレンス様、私はアレを聖女候補にしておくのは危険だと判断しています」
「それは……」
「アレを辞めさせないのは、後悔しますよ……私、アレを認めませんから……」
エリベルタはソミールを探すのを止め、教会内に戻って行く。
「……はぁぁぁぁぁ」
誰もいなくなり、一度大きくため息を吐いた。
私だって、できるものならソミールには辞めてもらいたい。
だけど、それは出来ない。
ソミールは、歴代の聖女のなかでも能力に優れている。
聖女候補が少なくなっている今、安易にソミールを追い出すことは出来ず私たちは我慢するしかない。
自身だけでなくエリベルタの不満も受け止め疲れたが、仕方なく再び探し始める。
周囲を見渡し、隠れて覗きこんでいたソミールと視線が合う。
「ソミール様、こちらにいたんですか? もうすぐ国王陛下との謁見があるんです、礼儀作法の講義は確りと受けてください。先生がすでにお待ちですよ」
「……えっ? そうなんですか? 今日の講義の時間は……もしかして、時間の変更があったんですか? ……また、私だけ……いえ、私の勘違いです。申し訳ありません。すぐに行きます……」
ソミールは急いで植え込みから立ち上がり、講義を受ける部屋へと急ぐ。
今日は、素直に抗議に向かうソミールに呆気に取られる。
深くは考えず、今日の仕事は終わったと安堵していた。
コルネリウスが植え込みに身を屈めているとは、最後まで気づかなかった。
ソミールは聖女候補の講義が終わり礼儀作法の授業の時間となると、逃げるよう植え込みに隠れながらコルネリウスが来るのを待っている。
「また、ここにいるのか?」
「……コ……ルネリウス……さん……」
「辛ければ、話を聞くぞ」
「……私……嫌がらせ……されてるみたいで……」
「嫌がらせ?」
「……私の考えすぎ……ですよね……聖女候補の皆が、私に嫌がらせだなんて……あるはずないのに……」
「嫌がらせとは、どんなものだ?」
「大丈夫です。私の勘違いだと思うから……」
「聞かせてくれないか?」
「……抗議の時間を間違って教えられたり、先生から執拗に厳しく指摘されたり、出来てるのに出来ていないといわれて何度も同じことをさせられたり……私のためなんですよね? 先生が私に嫌がらせなんて、するはずないもの」
「ソミール嬢、それは……」
「しっ、静かに」
二人は人の気配を感じ、植え込みに身を屈め隠れる。
「フローレンス様。どうして私たちがアレを探さなければならないんですか?」
「講義の先生がお困りだからよ」
最近の私たちは、礼儀作法の授業に遅刻するソミールに不安を覚えた司祭が授業に出るよう持ち回りで監視してほしいと言われている。
今日は、私とエリベルタが担当している。
「自分の意思で講義に参加していないのだから、私たちが連れていく必要ないと思います」
普段からソミールに対し良い感情を持っていないエリベルタ。
そんな彼女のために、どうして貴重な時間を割かなければならないのか不満でしかない。
エリベルタの言い分はもっともだし、私もその通りだと思っている。
それでも、司祭に従うしかない。
「そんなこと出来ないわ。あの方には講義を受けていただかないと、全ては教会の責任と判断されてしまうもの」
エリベルタを諭しているが、実際は自分に言い聞かせている。
私だって、ソミールには不満を持っている。
上の立場として、飲み込んでいるだけ。
「王族への謁見で失態を犯しても、それはアレの責任であって、教会が責任を負う必要ないですよね?」
「聖女候補の失態は、教会が教育を怠ったと判断される可能性があります。そうなれば、王族から支援を受けている教会の立場は悪くなります」
「……アレが講義を受けないのが悪いのに、どうして教会が……」
「エリベルタ様。アレと呼ばずに名前を、『ソミール様』と呼んでください」
「それもおかしいです。皆さんアレを『ソミール様』と呼びますが、アレは私たちに愛称をつけ許可していないのにおかしな呼び方をしていますよ」
ソミールに「愛称ではなく、相手の名前を『様』付けで呼ぶように」と話していても、ソミールは一向に変えようとしない。
それどころか、「私が羨ましいのね。レンスも私のように愛称で呼んだらいいのよ」「気にしないで。私って、皆に真似されるの慣れてるから」と伝わらないどころか、自身と同じように強要する始末。
「それは貴族と平民の違いではないかしら? 私たち貴族の仕来りを平民の彼女にも強要するのは良くないわ」
「それでも最低限の礼儀というものがあると思います。アレからは一、切礼儀を感じません」
「少しずつ分かってくれるわよ」
「分かるどころか悪化していますよね? 最近は特に酷いですよ。祈りの時間には遅刻、講義には出席しない。それで同じ聖女候補だなんて不愉快にも程があります。私たちのためにも、アレには聖女候補を辞めてもらうべきです」
「聖女候補を辞めさせる権限は、私たちにはないわ」
「では、司祭様に嘆願するべきです」
「……司祭様もあの方を辞めさせることはないと思うわ」
「どうしてですか? アレは聖女候補としての自覚が著しく欠如していますよ。授業態度からも、本人も辞めたいと願っているのではありませんか?」
「それは本人が司祭様に伝えることで、私たちが勝手に判断するべきではないわ」
「……フローレンス様、私はアレを聖女候補にしておくのは危険だと判断しています」
「それは……」
「アレを辞めさせないのは、後悔しますよ……私、アレを認めませんから……」
エリベルタはソミールを探すのを止め、教会内に戻って行く。
「……はぁぁぁぁぁ」
誰もいなくなり、一度大きくため息を吐いた。
私だって、できるものならソミールには辞めてもらいたい。
だけど、それは出来ない。
ソミールは、歴代の聖女のなかでも能力に優れている。
聖女候補が少なくなっている今、安易にソミールを追い出すことは出来ず私たちは我慢するしかない。
自身だけでなくエリベルタの不満も受け止め疲れたが、仕方なく再び探し始める。
周囲を見渡し、隠れて覗きこんでいたソミールと視線が合う。
「ソミール様、こちらにいたんですか? もうすぐ国王陛下との謁見があるんです、礼儀作法の講義は確りと受けてください。先生がすでにお待ちですよ」
「……えっ? そうなんですか? 今日の講義の時間は……もしかして、時間の変更があったんですか? ……また、私だけ……いえ、私の勘違いです。申し訳ありません。すぐに行きます……」
ソミールは急いで植え込みから立ち上がり、講義を受ける部屋へと急ぐ。
今日は、素直に抗議に向かうソミールに呆気に取られる。
深くは考えず、今日の仕事は終わったと安堵していた。
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