幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』

Int.05:黒の衝撃/飛焔、圧倒的な力⑤

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『クレアちゃんさ、手伝いに行こうか?』
「問題ない。ブレイズ03、こちらもすぐにカタを付けるわ」
『へいへい、分かりましたよーっと』
 余裕綽々といった様子な省吾が映し出された網膜投影のウィンドウを視界の端で一瞥しつつ、涼しげな顔色のままでクレアがスロットル・ペダルを深く踏み込む。
 すると、彼女の乗機――――漆黒の装甲に身を固めたFSA-15J≪雪風≫が更に上昇。スラスタのちから任せに高度を上げれば、眼下に展開していた敵機≪スコーピオン≫の真上を取った。
「…………」
 真下から見上げてくる≪スコーピオン≫から放たれる迎撃の25mm砲弾の雨の中で、しかしクレアは表情一つ変えず。機体各部のサブ・スラスタを小刻みに吹かして飛んでくる砲弾を回避しながら、しかし自分からは仕掛けぬままでそのまま≪スコーピオン≫の頭の上をひょいと通り過ぎてしまう。
 そのままクレアの≪雪風≫は高度を下げ、≪スコーピオン≫の後方に着地。丁度相手の背後を取る形になるが、しかしクレア機が着地すると同時に≪スコーピオン≫の方も振り向いてくる。
 振り向いた≪スコーピオン≫の構えた25mm口径の米国製の突撃機関砲、M200A3アサルト・ライフルの砲口が≪雪風≫の黒い装甲を睨む。
「遅い」
 しかしそのアサルト・ライフルが火を噴くよりもずっと早く、クレアの≪雪風≫は動いていた。
 肩のサブ・スラスタを吹かしながら地を蹴り、横へ短くジャンプ。そうしてアサルト・ライフルの初撃を避ければ、スロットル・ペダルを踏み込んで再び背部メイン・スラスタに点火。肩のスラスタを吹かしたまま、斜め前方方向へ加速する。
「…………」
 青白いスラスタの光跡を残しながら街中を滑走すれば、≪雪風≫は敵の≪スコーピオン≫を中心に大きな円を描くような軌道を取る。そうすれば≪スコーピオン≫の撃ち放つ25mm砲弾は精々≪雪風≫の装甲を掠める程度で、バラ撒かれる砲弾の軌跡は≪雪風≫の俊敏な動きにまるで追いつけない。
「私が動いたのなら、貴方も動くべきだった」
 コクピットの中ひとりごちつつ、クレアは自身の≪雪風≫が右手マニピュレータに持つ93式突撃機関砲を構えさせ、
「対人戦に慣れていないのならば、貴方は私たちの前に出てくるべきではなかった」
 そして、構えた突撃機関砲の下部にマウントされた130mmグレネイド・ランチャーが火を噴いた。
 クレア機から放たれた130mm口径のAPFSDSグレネイド弾頭を、棒立ちに等しい状態だった≪スコーピオン≫は避ける間も無く。ダーツの矢のような細いそれを胸部に食い込ませれば、正面装甲からコクピット・ブロックまでを激しく貫かれてしまう。
「私たちの前に出てこなければ、貴方もやられることはなかったのに」
 ≪雪風≫を着地させ、胸部から火を噴き仰向けに斃れる≪スコーピオン≫をチラリと横目に一瞥しながら、クレアが小さく呟いた。白銀の前髪を揺らしながら、その下に覗かせる切れ長の真っ赤な瞳を冷酷に冷え切らせて。しかしそれは、ほんの少しだけ哀しげでもあった。
『ごめん、クレアちゃん! 撃ち漏らしたのがそっちに行っちゃった!』
 そしてコクピットの中で小さく息をついていれば、先程別れたばかりの愛美からデータリンク通信越しにクレアへのメッセージが飛び込んで来る。そんな愛美の言葉がほんの少しだけ焦燥の色を見せていたから、クレアは「問題ない」と低い声音で頷き、
「撃ち漏らしはこちらで処理するわ。02は気にしなくて良いから、こっちよりも貴女の仕事に集中して」
『了解。クレアちゃん、ごめんね?』
「気にしないで」
 尚も申し訳なさそうな愛美へ小さな微笑みを返してやり、しかしすぐにクレアは顔色を先程までの氷鉄のように冷酷な色へと戻す。パイロット・スーツのグローブで包まれた華奢な手で操縦桿をぎゅっと握り締めれば、≪雪風≫の索敵センサーの感度を上げる。
 HTDLC(高度戦術データリンク制御システム)で他機から得られた情報も統合しつつ、愛美が撃ち漏らしたという敵機の位置を探る。
「……ふん、これね」
 自機と"ブレイズ02"、愛美機の位置関係を鑑みれば、すぐに撃ち漏らしの一機が何処に居るかは判明した。愛美の戦域から離脱し、クレアと省吾が展開する方へと真っ直ぐに突っ込んでくる機体の反応がある。
「機種は……FSA-15C、≪ヴァンガード≫か」
 愛美の交戦ログを参照すれば、その機体が何かもすぐに割り出すことが出来た。そして、愛美との戦闘で既に左腕を肩から丸々吹き飛ばされていることも。
「こんな手負いで、私たちを相手に出来るとでも思ったのかしら」
 だとしたら、随分と嘗められたものね――――。
 とはいえ、こっちに向かってくる≪ヴァンガード≫の行動は理解出来なくもない。恐らくは今まで自分と省吾が撃墜した奴らの救援にでも駆けつけてくる腹づもりだったのだろう。今となっては、ただの弔い合戦にしか成らないだろうが……。
『クレアちゃん、俺も手伝おうかしら?』
 省吾からそんな具合な提案が飛び込んで来ると、しかしクレアは「必要無い」と一蹴。すると省吾は『ありゃりゃ』なんてあからさまに肩を落としてみせる。
「それより、04は01の援護に向かって頂戴」
『雅人のぉ?』
「ええ、そうよ」首を傾げる省吾に、クレアが頷き返す。
「これだけ時間が経って、未だに雅人が仕留め切れてない相手よ。万が一のことを考えれば、余裕のある私たちの誰かが援護に向かって然るべき」
『まあ、確かになあ……』
『私も、クレアちゃんの意見に賛成です。省吾さん、雅人の援護に向かってあげてください』
『ブレイズ・シードより各機、こちらも同意見です。04は01の援護に向かってください』
『へいへい、分かったよ愛美ちゃんにサラちゃーん。……ブレイズ04、01の援護に向かうぜ』
『了解。ブレイズ02は現敵を掃討後、後方のヴァイパーの支援に向かってください。まだ後退し切れていない機が交戦中です』
『ブレイズ02、了解だよっ』
 省吾や愛美、それにCPオフィサーとして支援する星宮・サラ・ミューアの会話を聞きながら、クレアはまた小さく息をついた。
「……来たわね」
 そうすれば、さっき愛美の言っていた"撃ち漏らし"の≪ヴァンガード≫が射程圏内へと接近してくる。クレアは眼を細め、向かい来るその敵機に意識を向ける。
「早くベイルアウトなさい、でなければ命を失うことになる」
 振り返った漆黒のFSA-15J≪雪風≫、その細長いゴーグル状の真っ赤なカメラ・アイが低く唸り声を上げた。
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