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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.04:黒の衝撃/飛焔、圧倒的な力④
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『02、正面の≪ヴァンガード≫を牽制し抑えてください。03、04はその間に02の側面に展開している≪スコーピオン≫二機を』
「ブレイズ04、了解だぜ!」
特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫の指揮統制役であるCPオフィサー、星宮・サラ・ミューアの指示に力強く頷きつつ、ブレイズ04――――桐生省吾はスロットル・ペダルを踏み込み、乗機JS-17C≪閃電≫の背部メイン・スラスタを点火。漆黒の装甲に包まれた脚でアスファルトの大地を蹴り、スラスタの加速度に身を任せ飛び上がった。
それに続き、同じく漆黒の装甲に身を固めたFSA-15J≪雪風≫もまたスラスタを吹かして飛び上がる。アレを駆るのはコールサイン・ブレイズ03、即ち同じ≪ライトニング・ブレイズ≫中隊員の神崎クレアだ。
「愛美ちゃん、俺たちのケツ持ちは頼んだぜ!」
『はいはい、分かってますって! サラちゃんの言った通りに正面の≪ヴァンガード≫は抑えますから、そっちは頼みましたよっ!』
そんな言葉と共に、早速正面の敵機・米国機FSA-15C≪ヴァンガード≫へ向けて両手の93B式20mm支援重機関砲を撃ち始めたもう一機の≪閃電≫、コールサイン・ブレイズ02の雨宮愛美の反応に省吾は小さく表情を綻ばせつつ、「あいよ!」とコクピットの中で親指なんか立てながら、その≪閃電≫の真上を過ぎ去っていく。
『足は引っ張ってくれないで貰いたいわね、省吾』
「へいへい、分かってるって。クレアちゃんには敵わねえや」
『……私を下の名で呼ぶその呼び方、改めろって何度言わせれば気が済むのかしらね、貴方』
溜息交じりなクレアの言葉に、しかし省吾は「にしし」といたずらっ子みたいに笑うだけで改めようとしない。
「で、クレアちゃんの獲物はどちら?」
『好きな方を選びなさい、省吾。私は余った方で構わないわ』
「んじゃ、俺は右の≪スコーピオン≫で。なんかノロそうだわアイツ」
『それじゃ、私は左の方かしらね』
「そそ、そゆこと。それじゃあ散開ってことで、ひとつよろしく」
『ブレイズ03、了解』
横並びに飛んでいた省吾の≪閃電≫とクレアの≪雪風≫が唐突に距離を離し、別々の方向へと向かう。
「さてと、んじゃあお仕事と致しましょうかぁっ!」
省吾の方はスラスタを切り、自由落下を開始。ニッと不敵な笑みを浮かべながら省吾は≪閃電≫の両腕で銃剣付きの93式20mm突撃機関砲を構えさせる。狙うは、眼下に立ち尽くす一機のFSA-16C≪スコーピオン≫だ。
「へへっ!」
一瞬の内に狙いを定めれば、≪閃電≫の両手から火花が迸る。フライト・ユニットの翼を折り畳み着地し、手にしていた狙撃機関砲で愛美の≪閃電≫へ不意打ちを掛けようとしていた眼下の≪スコーピオン≫は直前まで省吾の≪閃電≫の存在には気付かず、反応が遅れてしまう。
省吾の撃ち放った20mm砲弾が撃ち抜いたのは、≪スコーピオン≫の本体でなくその背中に背負うフライト・ユニットだった。ユニットを貫いた砲弾の中に混ざる曳光弾がユニット内部のジェット燃料に引火し、爆発が始まる。
しかし、直前で省吾の存在に気付いていた≪スコーピオン≫は寸前で背中のフライト・ユニットを緊急排除しながら前方への回避運動を取っていた為、そのフライト・ユニットの爆発に巻き込まれてはいなかった。
「へえ? やるじゃん」
漆黒の≪閃電≫を着地させながら、十数mの彼方に逃げ延びた標的の機影を眺めつつ省吾が舌を巻く。口笛なんか吹きながら、あの≪スコーピオン≫のパイロットに素直な称賛すらをも抱いていた。
正直、あの状況から逃げられるほどの腕前の奴には見えなかった。ある意味で油断していた、と言えばいいのか。何にせよ、省吾が相手を見くびっていたことには変わりない。
「ま、何はともあれ――――」
にひひ、と小さく笑顔を浮かべながら、省吾は振り返った≪閃電≫に再び突撃機関砲を構え直させる。先端に取り付けられた93式銃剣の切っ先を、接近戦の間合いにある眼前の≪スコーピオン≫へと突き付けながら。
「アンタが俺の獲物ってことにゃ、変わりないんだよね」
不敵に笑いながら省吾がひとりごちれば、目の前の≪スコーピオン≫もまた両腕の裏側にあるシースからM10A2コンバット・ナイフ――米国製の近接格闘短刀――を射出展開させ、順手に握り構える。
「おっ、もしかしてやる気? いやあ、嬉しいねえ」
相対する相手の格闘戦に臨む意図を汲み取った省吾が、さも嬉しげにニヤリと口角を釣り上げてみせた。こんな心地良さなら煙草の一本でも吹かしながら死合いたい気持ちになるが、生憎とTAMSのコクピット・ブロックは禁煙だ。
「省吾お兄さんってば、そういうの好きよ?」
でもね――――。
ニッと省吾がもう一度笑顔を浮かべれば、その瞬間。≪スコーピオン≫の視界から一瞬の内に黒い≪閃電≫の機影が掻き消えた。
「――――やっぱり、実力差って残酷だよねー」
≪スコーピオン≫のパイロットが動揺し、どうにか動こうとする間も無く。いつの間にかその懐に身を低くし飛び込んでいた省吾の≪閃電≫が、その右手に持つ突撃機関砲の銃剣で≪スコーピオン≫の胸部を貫いていた。
「油断大敵、って奴ぅ?」
胸部装甲にめり込んだ銃剣のブレードの間から、血のような赤黒いオイルがどくどくと滲み出る。突き刺さった銃剣は完全に≪スコーピオン≫のコクピット・ブロックを正中から貫いていて、誰がどう見てもパイロットの即死は免れないような状況だった。
きっと、≪スコーピオン≫のパイロットは自身の身に何が起こったかを悟ることすら叶わず、一瞬の内に天に召されたことだろう。それぐらいに、省吾の仕掛けた急襲は一瞬の出来事だった。
「残酷なようだけれど、これって戦争だからね。お互い様って奴だよ」
刺さった銃剣を引き抜けば、胸を抉られた≪スコーピオン≫が力なくうつ伏せに倒れ伏す。バタリ、と足元に倒れ伏した≪スコーピオン≫を一瞥する漆黒の≪閃電≫。その右手に持つ突撃機関砲の銃剣の切っ先からは、未だに赤黒いオイルが滴っていた。
「ブレイズ04、こっちは片付いたぜ」
「ブレイズ04、了解だぜ!」
特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫の指揮統制役であるCPオフィサー、星宮・サラ・ミューアの指示に力強く頷きつつ、ブレイズ04――――桐生省吾はスロットル・ペダルを踏み込み、乗機JS-17C≪閃電≫の背部メイン・スラスタを点火。漆黒の装甲に包まれた脚でアスファルトの大地を蹴り、スラスタの加速度に身を任せ飛び上がった。
それに続き、同じく漆黒の装甲に身を固めたFSA-15J≪雪風≫もまたスラスタを吹かして飛び上がる。アレを駆るのはコールサイン・ブレイズ03、即ち同じ≪ライトニング・ブレイズ≫中隊員の神崎クレアだ。
「愛美ちゃん、俺たちのケツ持ちは頼んだぜ!」
『はいはい、分かってますって! サラちゃんの言った通りに正面の≪ヴァンガード≫は抑えますから、そっちは頼みましたよっ!』
そんな言葉と共に、早速正面の敵機・米国機FSA-15C≪ヴァンガード≫へ向けて両手の93B式20mm支援重機関砲を撃ち始めたもう一機の≪閃電≫、コールサイン・ブレイズ02の雨宮愛美の反応に省吾は小さく表情を綻ばせつつ、「あいよ!」とコクピットの中で親指なんか立てながら、その≪閃電≫の真上を過ぎ去っていく。
『足は引っ張ってくれないで貰いたいわね、省吾』
「へいへい、分かってるって。クレアちゃんには敵わねえや」
『……私を下の名で呼ぶその呼び方、改めろって何度言わせれば気が済むのかしらね、貴方』
溜息交じりなクレアの言葉に、しかし省吾は「にしし」といたずらっ子みたいに笑うだけで改めようとしない。
「で、クレアちゃんの獲物はどちら?」
『好きな方を選びなさい、省吾。私は余った方で構わないわ』
「んじゃ、俺は右の≪スコーピオン≫で。なんかノロそうだわアイツ」
『それじゃ、私は左の方かしらね』
「そそ、そゆこと。それじゃあ散開ってことで、ひとつよろしく」
『ブレイズ03、了解』
横並びに飛んでいた省吾の≪閃電≫とクレアの≪雪風≫が唐突に距離を離し、別々の方向へと向かう。
「さてと、んじゃあお仕事と致しましょうかぁっ!」
省吾の方はスラスタを切り、自由落下を開始。ニッと不敵な笑みを浮かべながら省吾は≪閃電≫の両腕で銃剣付きの93式20mm突撃機関砲を構えさせる。狙うは、眼下に立ち尽くす一機のFSA-16C≪スコーピオン≫だ。
「へへっ!」
一瞬の内に狙いを定めれば、≪閃電≫の両手から火花が迸る。フライト・ユニットの翼を折り畳み着地し、手にしていた狙撃機関砲で愛美の≪閃電≫へ不意打ちを掛けようとしていた眼下の≪スコーピオン≫は直前まで省吾の≪閃電≫の存在には気付かず、反応が遅れてしまう。
省吾の撃ち放った20mm砲弾が撃ち抜いたのは、≪スコーピオン≫の本体でなくその背中に背負うフライト・ユニットだった。ユニットを貫いた砲弾の中に混ざる曳光弾がユニット内部のジェット燃料に引火し、爆発が始まる。
しかし、直前で省吾の存在に気付いていた≪スコーピオン≫は寸前で背中のフライト・ユニットを緊急排除しながら前方への回避運動を取っていた為、そのフライト・ユニットの爆発に巻き込まれてはいなかった。
「へえ? やるじゃん」
漆黒の≪閃電≫を着地させながら、十数mの彼方に逃げ延びた標的の機影を眺めつつ省吾が舌を巻く。口笛なんか吹きながら、あの≪スコーピオン≫のパイロットに素直な称賛すらをも抱いていた。
正直、あの状況から逃げられるほどの腕前の奴には見えなかった。ある意味で油断していた、と言えばいいのか。何にせよ、省吾が相手を見くびっていたことには変わりない。
「ま、何はともあれ――――」
にひひ、と小さく笑顔を浮かべながら、省吾は振り返った≪閃電≫に再び突撃機関砲を構え直させる。先端に取り付けられた93式銃剣の切っ先を、接近戦の間合いにある眼前の≪スコーピオン≫へと突き付けながら。
「アンタが俺の獲物ってことにゃ、変わりないんだよね」
不敵に笑いながら省吾がひとりごちれば、目の前の≪スコーピオン≫もまた両腕の裏側にあるシースからM10A2コンバット・ナイフ――米国製の近接格闘短刀――を射出展開させ、順手に握り構える。
「おっ、もしかしてやる気? いやあ、嬉しいねえ」
相対する相手の格闘戦に臨む意図を汲み取った省吾が、さも嬉しげにニヤリと口角を釣り上げてみせた。こんな心地良さなら煙草の一本でも吹かしながら死合いたい気持ちになるが、生憎とTAMSのコクピット・ブロックは禁煙だ。
「省吾お兄さんってば、そういうの好きよ?」
でもね――――。
ニッと省吾がもう一度笑顔を浮かべれば、その瞬間。≪スコーピオン≫の視界から一瞬の内に黒い≪閃電≫の機影が掻き消えた。
「――――やっぱり、実力差って残酷だよねー」
≪スコーピオン≫のパイロットが動揺し、どうにか動こうとする間も無く。いつの間にかその懐に身を低くし飛び込んでいた省吾の≪閃電≫が、その右手に持つ突撃機関砲の銃剣で≪スコーピオン≫の胸部を貫いていた。
「油断大敵、って奴ぅ?」
胸部装甲にめり込んだ銃剣のブレードの間から、血のような赤黒いオイルがどくどくと滲み出る。突き刺さった銃剣は完全に≪スコーピオン≫のコクピット・ブロックを正中から貫いていて、誰がどう見てもパイロットの即死は免れないような状況だった。
きっと、≪スコーピオン≫のパイロットは自身の身に何が起こったかを悟ることすら叶わず、一瞬の内に天に召されたことだろう。それぐらいに、省吾の仕掛けた急襲は一瞬の出来事だった。
「残酷なようだけれど、これって戦争だからね。お互い様って奴だよ」
刺さった銃剣を引き抜けば、胸を抉られた≪スコーピオン≫が力なくうつ伏せに倒れ伏す。バタリ、と足元に倒れ伏した≪スコーピオン≫を一瞥する漆黒の≪閃電≫。その右手に持つ突撃機関砲の銃剣の切っ先からは、未だに赤黒いオイルが滴っていた。
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