瓦解する甘い盾

流音あい

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八度目の接触、対等な恋人

28、触れ合い

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 シャワーを浴びたきよみは、薄いキャミソールとハーフパンツを着ていた。リビングで冷たいドリンクを飲みながら、ソファではなくカーペットの上に座り、テレビを見ている。
 彼女に続いてシャワーを浴びた彼は、首にタオルをかけ、下着一枚で現れた。
 冷蔵庫を開ける許可を出すと、彼はペットボトルの清涼飲料水とグラスを持って、彼女の隣へ腰を下ろした。

「きよみちゃん、前もそういう格好だったよね」
「そうでした? まあだいたい部屋着は同じですから」

 グラスを傾けながら、彼がじろじろと眺めてくる。きよみは無視してテレビを見続ける。

「抱きしめてもいい?」

 無言で視線を移すと、彼は瞬いた。

「え、ダメ? 普通に触るのもダメ?」
「……しょうがないですね」

 きよみが彼の前に移動すると、背後から回った腕に抱き締められる。首元に顎を乗せられ、濡れた彼の髪が頬をくすぐる。

「先輩、髪拭いてないんですか」
「んー」

 きよみは振り返って膝立ちになると、首にかかっていたタオルでガシガシと頭を拭いてやる。ボサボサになった彼の姿に満足すると、笑みをたたえた彼に抱き寄せられた。

「キスは?」

 許可を求めているのか、してほしいのかわからなかったが、きよみは彼の額に口づけた。どんな反応をするかと思ったが、相手はにっこりと爽やかな笑みを浮かべ、抱き締める力を強めてくる。
「こっちは?」
 口を尖らせて催促してきた彼に、軽く唇を合わせてやる。にへらと笑った彼は、幼い子供のようだった。
「お腹は大丈夫?」
「何が?」
「いま生理なんでしょ」

 そう匂わせたことを思い出す。断言したつもりはないが、彼の中ではそういうことになっているらしい。違うと言ったらどうするのだろう。

「大丈夫ですよ、お腹は」

 腕の中で身をひるがえし、きよみは彼にもたれながらテレビに目を戻す。優しい男の腕に、再び身体を包まれる。
 暫くたわいもない会話をした。それは十二時を回ってベッドに入るときまで続いた。



「二人でベッドで眠るの初めてだね」
「初めてじゃないでしょ」
「彼氏になってからは初めてだよ」
「先輩ってそこ気にしますよね」
「だってやっと好きな子の彼氏になれたんだよ。嬉しいじゃん。感慨深いっていうか」
「ふーん」
「きよみちゃんは、その辺ドライだよね」

 ベッドに入ると、きよみは早々におやすみなさいと言って、彼に背を向けて目を閉じた。暫く様子を窺ってみたが、彼も動く様子は無い。寝返りを打つふりをして、薄目を開けて見てみると、彼もこちらに背を向けていた。薄暗い部屋の中、そうっと身を起こし、顔を覗いてみる。
 瞼は閉じていた。今日はこのまま大人しく眠るつもりらしい。……本当に?
 疑う心がきよみの視線を外させない。息を殺して静かに見つめ続けていると、きょろりと現れた瞳が彼女を捉えた。目が合うと、どちらからともなく笑みがこぼれる。

「なに、きよみちゃん。眠れないの?」
「先輩がちゃんと大人しくしてるか、確認してたんです」
「してるよ、ちゃんと。ヤりたいだけのケダモノじゃないからね、俺は」
「ふうん? ホントですかね」
「身体がしんどい時に無理やり襲ったりしないよ」

 暗闇でもわかる柔和な笑みが、彼の顔に浮かんだ。

「別にしんどくないですけど」
「そうなんだ? 平気なときもあるの?」

 未だ勘違いしている彼に、事実を告げることにする。

「んー、っていうか、今は別に生理じゃないし」
「え、そうなの? さっきそう言ってなかった?」
「先輩が勝手に勘違いしただけです」
「なんだ、そっか。じゃあ……」

 言いかけて言葉を切ると、彼は起こしかけた身体を、再びベッドに戻した。

「なんです?」
「別に?」
「何か言いたいことでも?」
「きよみちゃんは?」
「先輩が言ってよ」
「うーん、そうだな。何かしてほしいことはある?」
「してほしいこと?」
「きよみちゃんが、何かしてほしいことがあるならするけど。このままでも十分幸せだなって思ってさ」

 彼の手の平が頬を包み込んでくる。その温もりに、きよみはそっと瞼を伏せる。

 目を開けると、満ち足りたような顔の青年がこちらを見ていた。欲に溺れた男の顔でもなく、焦がれる女を前にして情熱を抑えた顔でもなく、手に入れたものを見つめて陶酔しているような、そんな顔だった。
 重なる瞳から、胸の奥を満たす何かが溢れてくる。引き寄せられるように、二人の唇は重なった。

 触れ合った唇は、不思議と情欲を呼び起こしはしなかった。むしろ込み上げる何かで落ち着いてくるような、
それだけで満たされていくような、今まで感じたことのない温もりを伝えてきた。
 唇が離れ、互いの眼差しがぶつかると、同じ思いを共有していると思えた。
 きよみが彼に寄り添うと、彼は腕を回してきた。互いの体温に包まれた二人は、向かい合ったまま目を閉じた。互いの温もりを感じ、呼吸の音を聞きながら、二人は深く眠りについた。
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